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5年後
今朝は風がやや強く、波が、進水したばかりの新しい船を桟橋にぶつけていた。
嵩張る雲の隙間から、太陽が薄っすらと顔を覗かせている。
島では植物が生い茂り、若い芽も増え、深緑や花の鮮やかさに満ち始めていた。
けれどもまだ、朝と夜の気温差にローブを手放せない。
西の島の風車は、一定の速度で回り続ける。
木材と、表面に張り巡らされたアルミやスチール材によって、強度が保たれていた。
天候不良による破損を予め回避できるよう、分解式になっている。
建てるからには長く持つ様にと、子ども達が編み出した案は、持続性が上手く可視化されていた。
街の断片である南の島から資材を集め、元整備士のレックスの技術と知識により、故障した発電機や導線を復旧させた事で、発電が可能になった。
灯として火を使う習慣は続いていても、生活を送る中で、小さな電球を使えるまでになっている。
よって、木材の燃焼量の削減が、少しずつ進んでいる。
植物研究者のアイザックの知識が南にも広がり、ライリーを中心に、効果的な傷の治療薬もできてきた。
ある日を境に薬用植物の種類が増え、根や樹皮、種子から薬に変えるための試験が、常に行われている。
それに加え、新たな知識として、海藻から成分を採取し、薬品を生み出そうという取り組みも進んでいた。
桟橋には多くの荷物が積まれ、人々が手分けしながら、新船内に運搬している。
その船は、島で普段使いをする漁船とは違い、4人が徹底して設計したものだ。
成人した彼等は、それぞれ新しい目標を胸に、ある決断をしていた。
浜に繋がる林の境に置き去りにされた荷車には、植物や大きな麻袋の数々が積まれている。
波の音に紛れて、金属が乱雑に克ち合う音が響いていた。
ビクターは、未だ不安定な槍捌きを見せるケビンの相手をしている。
暫く稽古の時間が取れなくなる事から、ケビンは、ビクターに相手を頼んでいた。
座学よりも身体を動かす事に長けているビクターは、運動の知識があるレオの手を借り、仕事や道具の使い方を子ども達に教えられるようになった。
その影響もあり、体力作りの指導に興味を持つようにもなった。
力がついたケビンは背が伸び、いつかのジェドを思わせる。
戦う事に興味津々で、組み手は長く続くようになり、最後に振り翳された槍の影が、ビクターの頭上から肩に伸びる。
まだまだ身長差があり、ケビンは、槍の先端でビクターをただ引っ叩くだけの姿勢になっていた。
ビクターは、それをあっさり受けて返してやると、試合は相打ちに終わった。
ビクターは、肩で息をするケビンの頭を優しく撫でると、槍を最短に縮めて仕舞う。
「上達したな。次がまた楽しみだ」
「いつ帰ってくんだよ。あんまり長いと、つまんねぇ」
ビクターは、可愛がる様に小さく笑いを溢すと、荷物を引いて船に向かった。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月6日 完結
当日は 以下の3投稿です
・第十話 最終ページ
・エピローグ 1投稿
・あとがき
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非