(8)
「書いてりゃ何か分かるんじゃねぇか?」
「夢はこれから何度も見るし、思い出せるかもしれないわね。きっと大丈夫よ」
ジェドとフィオは、黙ったままのシェナを無理には揺さぶらず、ページを順に並べようと、内容に目を走らせていく。
その内の1枚を、ビクターも手に取ると、髪をくしゃくしゃにしながら頭を捻り続けた。
シェナは、彼の斜め向かいで、孤独に浮かぶ月を見上げながら、片耳だけで皆の声を聞いていた。
皆とは違い、何かをすぐには思い出せず、遥か彼方から細く射し込む月光に縋るしかなかった。
難しい顔をする子ども達を見て、グリフィンがそっとテーブルに加わる。
レオと話している傍ら、彼等から溢れ出る興味深い言葉を、1つ1つ聞いていた。
「もっと楽しんでみろ。
そんなに不思議なものを見てるのに、もったいないぞ」
子ども達が揃って目を瞬くところを、レオは遠目で愛おしく微笑む。
「物語にするんだから、自分達を主役にして、もっと見たものと接してみるのはどうだ?」
小さな子ども達はそれに声を上げ、寝る前に聞くおとぎ話にしようと騒いだ。
しかし4人は、おとぎ話という表現に唸る。
それでは、夢で見たものが作り話という事になってしまうだろうと、首を傾げた。
「……いや。
俺達だけじゃなくて、レオとかグリフィンも、カイル達だって、似た様な夢を見てんだ。
それは事実だから、作り話なんかじゃねぇ」
これに相応しい言葉を知っている筈なのに、何故こうも抜け落ちているのか。
ジェドは少々苛立ちながら、未だ順序が分かっていないページを手早く探る。
そこへ
「ああ、ここに いちまい おちてた」
ウィルが拾い上げたそれに、4人が激しく群がる。
飛び込んだ文字に目を見開くと、同時に息が震えた。
「LƎGEИD……」
その場が、鼓動に包まれる。
時が経つほどぼやけていく夢は、散らばる様で、多くの失われているピースが見つからず、歯痒かった。
その1つに触れた様な気がし、肌が粟立つ。
動揺する空気の中、更に飛び込んだのは、椅子が倒れる音だ。
シェナは両手をテーブルに叩きつけると、皆の顔に瞳を揺らす。
伝えなければならない事があると知った途端、喉が熱くなった。
文字にして、言葉にして、語り継がねばならない大切な事がある。
「……何か思い出したのかい、シェナ」
グリフィンの促しに、3人は顔色を変えると、シェナを振り返る。
“導きなさい……それが貴方らしい務め……私達は変わらず、貴方と……風と共に在る……”
ふと、誰かが耳を擽り、シェナは片耳に触れて辺りを見回した。
だが、炎が皆の影を揺らすだけの温かな空間以外に、何もない。
風という言葉や、それそのものが自分の血であり肉だと、喉の温かさから感じた時、シェナは、刻み込まれているものを少しずつ話した。
「終わってないわ。まだ、行くところがある」
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月6日 完結
当日は 以下の3投稿です
・第十話 最終ページ
・エピローグ 1投稿
・あとがき
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非