(2)
フィオは、両手に掬った海水が流れ落ちるのを、じっと見つめていた。
しょっぱくて、透き通っている。
当たり前の事に対し、美しさを穏やかに感じるにつれ、目を見開いていく。
砂ごと掬ったそこに、細やかな輝きを見ては、埋もれていた小さなシーグラスを摘んだ。
浅瀬に点々と散らばるそれらを目で追うと、他にも、あらゆるガラクタが岩に閊えているのが見える。
「綺麗にしなきゃ……綺麗に……!?」
はっと、立ち上がると、酷く辛い夢を見ていた事を思い出した。
見た事のないガラクタが島に押し寄せるどころか、雨の様に降り注ぐ夢を。
どんなに片付けても追いつかない事態に、頭を抱えていた。
これに困るのは自分達人間だけではないという事も気付かせてくる、心を大きく揺さぶってくる夢だ。
島を片付けたら皆に話そうと思う反面、そんな夢の話を真面目に聞いてもらえるのだろうかと、空になった両手に視線を落とす。
“大丈夫”
“大丈夫さ”
不意に聞こえた声に叩き上げられる様に、フィオは、海を見渡した。
(……お父さん? ……お母さん?)
海から声が聞こえるのだと、長老に話した事がある。
彼の言う通り、それはきっと両親の声なのかもしれない。
見えなくても、傍にいるものだと教えてくれた。
ここで生きている自分を支えてくれている筈だという、彼がくれた言葉を、改めて噛み締める。
フィオはふと笑みを浮かべ、頷くと、踵を返した。
「なぁおい! あれ、島じゃねぇか!?」
仲間の騒ぎに他の皆が集まると、グリフィンは、打ちつける鼓動に身体を飛び上がらせる。
「ああ嘘だろう……誰か嘘だって言ってくれっ……」
「言ってやってもいいが、罰が当たりそうだ」
レックスが言いながら、グリフィンの肩を掴み、確かめに行こうとボートを指差した。
誰もが目を疑った。
とある嵐によって、最も近くにあった西の島が海に呑まれてしまった。
多くの命ごと奪われた筈の、その島が、唯一生き残ったグリフィンの胸を激しく鳴らす。
そこにある様に見えてならず、何度も目を拭い、頭を叩き、幻覚を取り払おうとした。
片や、断片的な記憶が気がかりだった。
ただ長い間、それこそ陽の光を浴びるまで、気を失っていたからなのか。
身体が随分重いのだが、その重さは、疲労であるなどと簡単に表せない。
もっと、別の何かを記憶している様な気がしてならなかった。
それが思い出せず、もどかしくなる。
思い出さねばならないと必死になるのは、それが自分達にとって、途轍もなく大事だったからなのかもしれない。
一体これは何の悪戯だと、グリフィンは辺りを見渡し、情報を求め続けた。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月6日 完結
当日は 以下の3投稿です
・第十話 最終ページ
・エピローグ 1投稿
・あとがき
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非