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*完結* 大海の冒険者~不死の伝説~  作者: terra.
第八話 愛を育み続けられるように
130/154

(12)




※2680字でお送りします。







挿絵(By みてみん)




 雲の流れが加速し、風に乗って太陽に導かれていく。

夜明けを忘れた長い闇が拭われ、迎えた朝焼けは、鮮やかな金色と澄んだ青を織り交ぜた空に変わると、大海に、濃い雲の影を落とした。




 水面を、白く細い雷が這い、光に包まれた島の中へ消えていく。




 人々は、僅かに静電気を感じた。

粉雪の様な青白い光の雨を見る内に、目が虚ろになっていく。




 4人は、包んでくる様な歌声もそっちのけに、身体中を見回した。

全身から、竜の眼光を彷彿とさせる青い光の糸が幾つも這い出ると、降り注ぐリヴィアの声に誘われていく。




 フィオは、糸が伸びていく先で、花の香りを感じた。

両親が失われた悲しみと寂しさに呑まれた、どうしようもなく苦しかった時間が、遠ざかっていく。

それらが、ふと、笑顔で自分を愛でる両親の姿を描いた。

声こそ聞こえないが、2人の唇の動きから何を伝えているのか、すぐに分かった。

瞼が重く、景色が霞ゆく中、今の自分を精一杯見せようと笑った。

父と母が消えてしまうまで、ずっと。




 ジェドが見た糸には、灰色に(くす)んだ糸が絡まっていた。

どんなに払い除けても途切れず、自分がこのまま消えてしまうのではないかと、震えていた。

だが、次第に青い糸だけになると、引き出された灰色の糸が宙に溶けてしまう。

漂う光から聞こえるのは、多くの生物の声であり、ふと鼻腔を擽ったのは、これまで嗅いできた様々な匂いだった。

それらに誘われながら、微かに聞こえるリヴィアの歌声を探ろうと、空を仰ぐ。

遠くから降り注ぐ声は、とにかくぼやけているのだが、最後の一言まで聞いていたく、懸命に目と耳を研ぎ澄ませた。

なのに、瞼は思う様に持ち上がらない。




 急に腰が重くなったビクターは、装備ベルトに触れた途端、ピストルが独りでに浜に落ちた。

拾おうとすれば、浴びた光に包まれ、接触を拒む様に目を眩ませてくる。

じきに、小さな亀裂音がすると、瞬く間に破裂し、鏡の欠片として散った。

声を上げるのが先か、身体から青い光の糸が引き出されていく。

力強いそれに、膝から崩れ落ちると、重いものが抜かれた様に、全身が軽くなった。

顔を上げると、あの黒い陽炎が、強い眼光を灯して見下ろしていた。

その眼は、黒や灰色、紺と紫からピンク、オレンジとあらゆる変化を見せ、まるで空そのものだ。

まだ、眺めていたい。

しかし、瞼は重くなるばかりだった。

どういう訳か、天から降り注ぐリヴィアの独唱は、ずっと聞かされてきた子守歌の様で心地よかった。




 まるで辺りからの光を吸収する様に、シェナの喉は、輝きを放っている。

帯びていた熱が冷め、痛みが癒されていく。

だが、光はそのまま彼女自身を灯し続けていた。

温かい春を思わせる風が、全身を包んでくる。

それが運んで聞かせるのは自分の産声で、取り囲む誰かがそれに喜ぶ声もするのだが、何よりも喜んだ者が別にいたのだと悟った。

本来身を置く場所を失っても、その者だけはずっと、自分を見捨てず傍におり、守っていてくれた。

そして今も、この先も、自分の力になってくれようとしている。




挿絵(By みてみん)




 リヴィアの視線が麓に落ちると、白く、細い稲妻が、島を駆け巡る。

これまでの苦しみや痛みを焼き切ろうと、渦を巻くそこには、すっかり眠りに落ちてしまった人々が見える。

そこから視線を一帯に向けた時、他の精霊達の声が導かれる様に加わり、斉唱に変わった。




 緩やかで、大気に振動を(きた)すリヴィアの声は、寂し気であれ、力強く旋律を紡いでいく。

1つ、また1つと仲間の声が重なり、魔力に圧力をかけると、光と雷の乱層雲を描いた。

雨と化す歌声は、今や、何重奏か知れない。




 仕立て上げられた太い旋律は、打ち砕かれた家屋や、木々を繕っていく。

息を吹き返した植物は枝を伸ばし、葉をつけ、幹や茎に芯を宿した。

蕾が開花し、点々と蘇る茂みに実が揺れる。

蔦が地面や木を這い、どこまでも繋がろうと、木々を渡った。




 重圧のある歌声に持ち上げられる家屋の残骸は、壁や屋根に変わりゆく。

悍ましい裂け目や破損の跡が、板と板が手を繋ぐ様に合わさった。

付着した血や汚泥が光に弾かれ、淀んだ惨事の空気は、声の振動に溶かされていく。




 斉唱の波が引くと、リヴィアの孤独な声が、再び辺りに変化を及ぼした。

独唱は、河川の様に、水面や大気、地面を這い進む。

振動する穏やかな声は、微かな雷を辺りに(はし)らせ、自然が取り込んだ数多の荒ぶる感情や記憶を焼き、吹き消していく。






 浜で心地よい眠りにつく人々の肌を、柔らかな雷が這い巡る。

1人1人に優しく語りかける歌声は、人々から更に、光の糸を引き出し続ける。

全身の傷を癒すと共に、心に穏やかさをもたらし、それぞれが抱く幸せを呼び起こしていく。

浮かび上がる温かい夢に、皆の寝顔が微笑んだ。

まるで、この場の神々を置き去りにし、(ふる)い幸福を想いながら、新たな幸福を求めて未来を見ているのか。






 そんな人々に見向きもせず、リヴィアは、独唱の最後に息を吸い込み、空を仰いだ。

零れ落ちた青い光の涙の筋に揺さぶられまいと、緩やかに伸ばす声に、再び仲間の声が押し寄せる。




 女王の声の力を押し上げようと、竜の精霊達の再生の歌は、世界を包んでいった。

太陽に向かって流れ続ける雲が、金の光に覆われると、紡がれた斉唱が絡み、陽光の柱を幾多も立たせていく。

それらを受け入れる波は、葉や岩の間に、取り残された水溜りの様に静まり返った。




挿絵(By みてみん)




 眩い柱の重みを、海中に身を潜めるミラー族は、最後まで受け止める。

彼等が見上げるそこに、空の神々による魔力の幕が下ろされ、互いの力が触れ合う水面に、オーロラが揺れた。

世界を包む歌声が間もなく消えると悟ったシャンは、肩の装飾に触れ、眼光を水面の外に放つ。

それに、シャンディアから後の仲間が続くと、白銀の光の筋が外を突き破り、数多の閃光が天を貫いた。




挿絵(By みてみん)




 流れる雲が、空を夕焼けの色に変えた時、太陽に合わさりながら、生命の星の影を浮かばせる。

広大な鏡と化した大海原に映るそれは、呆気なく、風と光に拭われていった。




 精霊達の声が大気に溶けていくと、空は、再び朝を取り戻していく。

失われていた自然の音が戻ると、風が、緑の香りで辺りを満たした。




 リヴィアは、全ての鼓動の帰還を胸に握り締め、(ようや)く瞼を開く。

と、頬に溢れ出る涙に、これまでを想う。

最後の短い一節のために、震えて重くなった唇をどうにか抉じ開けるも、止まってしまう。




 緩やかに身体の向きを変え、白砂に埋もれて眠る彼等を眺める。

そこに、最後の祈りを届ける様に、怯える喉から唄が、とうとう零れ落ちた。

1粒の涙と化した想いはそのまま、島を包んでいた白い光と、雷の雲を一思いに打ち消すと、世界は現実に()した。




挿絵(By みてみん)









代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~

シリーズ最終作


2025年 2月6日 完結


当日は 以下の3投稿です


・第十話 最終ページ

・エピローグ 1投稿

・あとがき


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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