(11)
そんな事を言って許されるものかと、ビクターは2人に愕然とした。
苦労して集めた道具だというのに。
筏も、これではもう続きを作れないに決まってる。
計画が2人のせいでぶち壊しだと、苛立ちに拳が震えた。
しかし
「ビクターは、つまんなかったんだ!」
ジェドやフィオの大声に、シェナは目を見張る。
また特に、ビクターの目まぐるしい表情の変化を見逃さなかった。
怒っていると思いきや、ジェドやフィオに驚きながら再び大人を見上げている。
眼差しは少し寂しそうで、不安に満ちていた。
「おしごと できるわ!
だからこれ かしてあげて!」
大人達は顔を見合わせ、共に行動する事がなかった子ども達に圧倒された。
ジェドとフィオの発言には特に驚いてしまう。
いつからか気難しくなったビクターは、何を語りかけても殆どを隠してしまい、自分を表に出さなくなった。
今、その閉ざされた部分が見えた事で、誰もビクターや後の2人を叱る事をしなくなった。
「よし分かった」
マージェスの声に振り向いたビクターは、大きな厚い手で肩を掴まれる。
「友達が言うんだ、大した出来なんだろう。
触りはせんから、俺に見せてみろ」
「……ともだち?」
そこへ小さな足音が飛び込んだ。
皆がそれを聞きつけた頃には、シェナが既にビクターの傍にいた。
麻の毛布を巻きつけた彼女は、小さな握り拳を彼に突き出す。
「……なんだよ」
いいから手を出せとでも言う様に、彼女は更にその手をビクターの胸に押し付ける。
毛布から真っ直ぐ彼を見つめ、瞬いていた。
ビクターは彼女の拳を暫く眺めては、その下に手を添える。
そっと開かれた掌から落ちたものに、目が震えた。
見なくともそれが釘であると感触で分かる。
寝床で、シェナの隣にいたフィオのポケットから落ちたものだった。
その後、マージェスに筏を見てもらい、作り方のコツを教わった子ども達は、素直に道具を借りられるようになった。
それから数日が経ち、いよいよ浮かばせる時がきた。
「はーやくたべろよー」
「わかってる」
寝坊したビクターの食事を急かすジェドは、筏の元に行きたくてうずうずしている。
これではフィオとシェナに先に行かれてしまうと、足は全く落ち着かない。
開けたままのドアに凭れて軋み音を立てていると、カイルの奥さんに閉めるようにとまた煩く注意された。
「ごちそうさま」
もごもごと口の中に魚を含んだまま、ビクターはジェドを置いて走り去る。
何とも荒々しい態度だが、大きな進歩だった。
本来なら片付けもさせたいところだが、今はやっと友達同士、そしてどこか兄弟の様でもあり、家族らしくなった2人を、大人は見守り続けた。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非