(9)
レオは、ビクターの身に起きている事に驚いていた。
ゴーグルを上げてさらされた、微かに白く濁った瞳が震えている。
「何だよ、どうした? 何で泣いてんだよ……」
ビクターは動揺するも、レオは聞こえていないのか。
彼はやっと瞬きするが、まだ、黒い陽炎が揺れるビクターの身体から、水色に光る片目を眺めて黙っている。
眼光が意識的に弱まる事で、確かに目が合っていると感じさせられていた。
そのまま、信じられないものを見る様に、首を弱々しく振る。
ビクターの勝気な言葉や、決まってるという話し方が好きだった。
昔、似た言葉に助けられ、自分もそれに影響されて口にするまでになった、同じ口癖。
酷く、懐かしい気持ちにさせられていた。
陽炎に触れると、冷たい風に当たるのと同じ感覚がする。
緊張や恐怖に汗ばんだ影響で、その温度は心地よかった。
陽炎はそのまま、レオの腕を細く緩やかに這い進むと、肩に止まる。
まるで掴んでくる様な動きに、そこだけが温められていく。
暫しその温もりを感じていると、陽炎は、再びビクターに吸い込まれていった。
レオは目を瞬くビクターを改めて見つめては、これ以上はよそうと、静かに彼から手を放す。
昔の自分や相棒を重ね過ぎて、彼を同じ者として見ようとしていた。
見たいように見てしまう自分を振り解き、彼は、自分が求める人物や思い出とは違うと言い聞かせる。
それだけ陽炎には、どうしてもそんな気にさせてくるほどのものがあった。
「いいや……何でもないさ……無事に戻って来られてよかった……俺はまた救われたよ……君の様な人に助けてもらえて、嬉しいよ……」
「何だそれ! 分かんねぇな。
ったく、大人がそんなに泣くなよ」
言われてみればと、レオは慌てて顔を拭い、ビクターに微笑んだ。
そこへ、まるで振り向かせるかの様にあの美しい音が鳴る。
陽炎が、ビクターの手を動かしてペンダントを揺らした。
ビクターは驚くと、頭に何かが乗せられたような感覚がし、そこに触れて頭上を仰いだ。
だが、そこには早朝の空が広がるだけであり、じきに、リヴィアが視界に舞い込んだ。
4人は降り立ったリヴィアに向くと、その後からシャンディアが脚を持って現れる。
浅瀬には、淡い白銀の眼光を灯しながら、島の皆を見つめるミラー族とシャンがいた。
傍には着水した守護神の竜がおり、その頭上一帯には、精霊達が青い眼光を灯して見下ろしていた。
彼等の硬い表情から、4人は、はっとした。
空島から戻った時と同じ気持ちが沸き起こると、胸が騒めく。
この時フィオは、慌ててリヴィアとシャンディアの手を掴んだ。
以前の様に、すぐに発たれては困る。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非