(8)
強情な決断でならなかったが、シャンは漸く、苦し紛れだが、微笑んだ。
顔を上げた先に、泣くのを止めて笑うフィオがいる。
揺れる鏡の眼が彼女から逸れていくと、鰭を握る手に自然と力が入っていく。
(オルガ……告げられた通り、一族の力の限界を思い知らされた……無論、貴方の子の力にも……
私とて心くらいある。
だがそれに囚われては全うに果たせなかった……
辛辣である事など好くものか……貴方の子であると知るだけで、私はあの子が愛おしい……)
風で乾き始める顔を拭って湿らせると、広がる人々の喜びや愛に、視線が引き寄せられた。
(見えるだろうか……
貴方が陸で覚えた言葉を信じたあの子は、世に再び光を呼び戻した……
従者に貴方の望みは何かと問われれば……告げられてもいないのに知るものかと言ってやりたくなる……だが、分かっている……)
光る鏡の双眼が力む。
やはり感情に揺さぶられ続ける事は、この立ち位置にいる以上許せなかった。
(これより我等の務めは、彼等を生かし、貴方が言う未来の予防線を彼等が務め、彼等が世界を拓き、絶えず語り継げるようにする事だ)
だが、これをわざわざ彼等に言う必要もない。
そう見切ると、頭上に浮かぶリヴィアを仰いだ。
「託されてくれるか、女王……あの子達が人間として在れるよう……」
リヴィアの人々を見る眼に青さが増した。
彼の言葉の裏までを読み取るにつれ、瞳は、次第に潤んでいく。
シャンディアやミラー族の他、共に浮かぶ精霊達も俯くと、静かに事を噛み締めた。
その音や温度を全て背に受けたリヴィアは、重々しく島へ飛び去ると、シャンディアは慌ててそれを追った。
調子にのって長老を持ち上げていたビクターだが、これに悲鳴を上げたのは周囲だった。
何事かと、ビクターが長老を下ろした時、皆が一気に身を引いて警戒する。
その動きから、やっと、ビクターは自分の左半身の状態に気付いた。
「ねぇ、それ一体何なの?」
「瞬きする間に移動しちゃうし。
何になったわけ?」
フィオの声にシェナが被さり、2人はまじまじとビクターを見回す。
ビクターは、身体から湯気の様に立ち込める黒い陽炎の、心地よい温度を感じていた。
瞬間的な移動や、誰かを掴む時はいつでも、共に支えてくれている様な気がしていた。
今でも、怖いものではないと安心させようとしている様で、優しく肌を這っている。
これが何なのかを皆にどう伝えようか。
それを考えこんでいるせいで、傍に誰かが近付いてきている事など、分からなかった。
「うまく言えねぇ。相棒……みたいな。
動いてる間、こいつに囁かれていた気がする。
俺達は勝てるって。もう、決まってるって――」
顔を上げた途端、レオが、ビクターの両肩を激しく掴んで顔を覗き込んだ。
どうしたのかと訊ねる間もなく、ビクターは、不意に現れたレオに釘付けになる。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非