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*完結* 大海の冒険者~不死の伝説~  作者: terra.
第八話 愛を育み続けられるように
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(4)




 ビクターの身体からは、黒の陽炎が消えていた。

その原因が分からず、今はぼんやりと例のペンダントを見つめている。

そっと振ると、あの心地よい音が撫でる様に耳に流れ込んだ。

それをじっと聞きながら、身体に起きている事と向き合った。




 陽炎が出現する事で、一時的に体温が上がっていたが、その様な感覚は、陽炎がピストルから出入りしていた時にはなかった。

ある時を機に体内から出入りするようになり、それからというもの、やけに自分が知らない記憶が思い起こされるようになっていた。




 コアに見せられた世界で見た黒い陽炎からの目線なのだろうか。

瓦礫に埋もれていた母であろう女性を思い出すだけで、胸に強烈な痛みを感じる。

また、それに対してなのか、強い怒りも感じた。




 特に射撃中がそうだった。

まるで、どうする事もできないという悔しさに等しい。

迫る敵の陽炎や、コアを撃ち、確実に消滅させていたにも関わらず、体内の黒い陽炎だけが満たされていない気がしていた。




 顔が映る鏡のピストルに触れる。

細かく角度を変えながら眺めている内に、重みが圧し掛かり、(シャチ)の背に呆気なく落ちた。






 シェナは、グリフィンの腕の中で腹這いに力尽きていた。

何も言わず、ただ半眼を開いたまま、風を感じていた。

守護神の竜の飛行は穏やかで、浴びせられる風が、全身に籠る熱を放出していく。




 声を出し切り、(しゃが)れ声にしかならない。

喉も痛く、今は無口でいたかった。

たった独りで暗闇に挑んでいれば、自分は持たなかっただろう。

多くの負の感情の(いかづち)が身を撃ってきたのだから、グリフィンの支えがなければ、呆気なく引き裂かれていたかもしれない。

そう思えば思うほど、彼の背中の生地を握る手が強まった。




 身体を包んでくれている彼の腕は重く、熱いのだが、心地よかった。

もう暗いところも、独りでいるのも懲り懲りだ。

その様な不安や寂しさは、できる限り短いものであってほしい。

そうするためにはどうすればよいのかと考えている内に、視線がグリフィンの背中を這い、僅かに見える横顔に辿り着く。

父親は、親というのはこういうものなのだろうかと、分からないながらも縋る様に、彼の背中の生地をまた、握り直した。






 グリフィンは、そんなシェナを赤ん坊の様に思いながら抱いていた。

自分の足が腹に食い込み、見るからに寝心地が悪そうな彼女だが、その体勢を直してやるつもりはなかった。

ただ彼女のありたい姿のまま、居させてやりたかった。




 子ども達が身体を張ってでも立ち向かおうと思える目標は、彼等が叶えたい夢であって欲しい。

ただ、戦い方や判断は勇敢なものであっても、過酷で痛みを伴うものが殆どだった。

それを繰り返されてはならないと、改めて思う。




 疲れ切った腕が、自然と、自分の足から胴体にかけて俯せに沈むシェナの背中を擦る。

緩やかな竜の翼の動きが、身体を上下に揺らしていた。

朝陽を受けた銀の鱗は眩しいのだが、焼きつくまでに見入ってしまう。

頭に向かって視線を這わせば、濃紺の(たてがみ)が柔らかに靡いていた。

夢や妄想、幻想として描かれ、語られてきた彼等は、確かに存在している。

これに何を思い、どの様な行動を起こすかで、以前とは違う世界になるだろうか。









代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~

シリーズ最終作


2025年 2月上旬 完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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― 新着の感想 ―
どうもです♪ 戦いが終わって各々が過去を見つめ、未来を見ようとするシーンを見ていると、全員が主人公に見えますね (o^-')b ! みんなかっこいいです\(^o^)/ ビクターが陽炎を感じなくなったの…
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