(3)
まるで激動の時を知らぬ様に朝陽は昇り、空を一層、鮮やかに変えていく。
だが、4人は、ぼんやりと遠くを見つめ、その世界に溶け込んでいた。
フィオとジェドは、共に鮫に運ばれているが、互いの視線はすっかり別の方を向いている。
ジェドは身体が重く、緩やかにだが、肩で息をしていた。
全身が熱く、風邪の様な症状を感じている。
事が治まり、疲労の波が一気に押し寄せていた。
変化を繰り返していた身体を見回すと、元に戻っている。
それは良くとも、頭痛が酷く、そのせいなのか、これまでしてきた事の記憶が断片的になっていた。
足元の鮫の声も聞こえない。
いつの間にか気に入っていた力を出せなくなるほどに、自分は動いていたという事なのだろうか。
そう思う内に寂しさが増し、溜め息を零しては、当てもなく宙を見上げた。
呪われた身体を、これからどの様にコントロールすればよいのだろう。
焼きついているのは、コアに見せられた世界の父が、自分よりも獣の様だった事だ。
果たして自分は、この先その様になってしまうのだろうか。
人を襲ってしまう様な生物に変わり果ててしまうのだろうか。
共に生きてきた仲間を大切にするためには、どうすればよいのか。
と、またいつもみたく、独りで物思いに耽っていく。
フィオは、そんなジェドの様子を気にかける気力もなく、彼の背中にどっしりと身を預けていた。
彼の熱い体温を感じながら目を閉じると、瞼が痙攣するのを感じる。
戦いが終わったと同時に、安堵と寂寥の波が押し寄せ、涙に変わろうとしていた。
母の声が聞こえない。
その姿も、飾りもない。
大きな道標になってくれた代わりに与えられた膨大な虚無感に、眉を寄せる。
いつしか、両親がいない事に涙を殆ど流さなくなった。
心細さは拭えなくとも、それを埋めてくれる人達や出来事に救われてきた。
だが今は、まるで幼少期に戻った様な気分だ。
薄目を開くと、自身の肌に走る白銀の細い筋や細かな輝きが見える。
以前の身体ではなくなってしまっている事を改めて実感させられ、ミラー族の影が見える水面を、ぼんやりと眺めた。
母は、自分を人だと言うが、果たしてそうだろうか。
この身体はまだ、ミラー族のままではないかと、突き上げてくるものに歪められていく顔を伏せた。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非