(2)
鮫や鯱に、守護神の竜が、4人を待ち構えていた。
彼等と共に浮上したライリーは、レックスに引き上げられる。
そのすぐ傍には漁船が着いており、そこから1人の手が伸びた。
船体の扉から梯子を出し、2人を引き上げようとするマージェスを見たライリーは、漸く我に返る。
彼の傷だらけの顔は、引っ叩いた時とは比較にならないほどに勇ましかった。
早くしろと催促する声に、ライリーは素直に引き上げられていく。
漁船内は、降り注いだガラクタが積もり、そこら中が破壊されている。
浮かんでいるのが不思議なくらいだと、レックスは目を見張った。
仲間達は、そんな彼の足が完治していると分かると、その場は忽ち喜びの声で満たされていく。
「ああ、やっと事態が落ち着いたってのに、パーっとやれねぇんだな」
グレンが酒の恋しさを零すと、マージェスがライリーを大きく振り返る。
彼の急な動作に、彼女は流し目を向ける。
「お前さんが持ってる酒は駄目なのか?」
「駄目」
ライリーはきっぱり撥ね退けると、髪をかき上げ、服を絞る。
南には蒸留ができるものは残っていないのかと、あれこれ訊ねる声が後を絶たないが、どれも返答せずに聞き流した。
「あんただって飲みてぇもんの1つや2つ、あるだろうよ」
しつこいマージェスに、ライリーは髪のすだれ越しに呟いた。
「コーヒーがない……」
「コーヒー酒とは洒落てんのな、医者は!
何てやつ?」
気さくなレックスが訊ねる横から、お前がカクテルなど知っているのかと、カイルの揶揄う声が被さる。
それはどういう意味だと怪訝な顔をするレックスだが、2人の子どもの様な戯れは、その場を和ませるものがあった。
ライリーはそんな皆に背を向けたまま、服から水を切り続ける。
洒落ている訳ではないと言い返してもよかったが、随分喋り過ぎている様な気がした。
自分はそんな人間ではないのだと、また殻に閉じこもろうとしてしまう。
だが、どうも南にいた時と比べて感覚が違った。
彼等と会話をする事に、胸が擽られている。
手が徐に胸に伸びると、視線が大海原に向いた。
朝陽を受けて揺れる水面が、何とも美しい。
そう素直に思えた感覚こそ、懐かしく思えた。
「ホワイト……ルシアン……」
最後に覚えたその名を、僅かに呟く。
いつかまた口にできるその日を、密かに祈りながら。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
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その他作品も含め
気が向きましたら是非