(10)
「わたしは?」
「花だ」
フィオに即答したレックスに、周囲の大人達が驚く。
彼の口から花という言葉が出る事こそが珍しい。
何だか、どこかむず痒いくらいだ。
「おい失礼だな! ……柔軟剤とかでも書いてあったろう! 知らねぇのか?」
照れ隠しのつもりか。
早口で説明するレックスだが、家の手伝いなんてしていたのかと結局は揶揄われる。
やんちゃな印象を持たれるのは仕方がない部分もあった。
だが彼は、溜め息を吐くと水が入った木のカップを置き、どこか寂し気に答えた。
「すぐにピンときた……おふくろが花屋だったんだよ……嫌でもちっとは知恵がつく」
珍しい花や小さな花などと意味されるフィオという言葉は、亡くなった父親の腕に彼女が抱かれていた際に、メモ書きとして遺されていた。
そしてこの件から、誰しもが不思議に思うのだ。
フィオの母親の存在が何故分からないのか、と。
独り身だった筈のフィオの父親が誰かと出会うならば、東の島であるここか、近くの西の島以外に有り得なかった。
「花を知ってるだろう、フィオ」
シェナと共に寝床で丸まって座るフィオは、レックスに頷く。
「両親はきっとそれが好きで、見ていてホッとしたんだろうさ。お前がよく言う、大丈夫って思えるくらいに……多分だぞ?」
良い事を言うものだと言わんばかりに、グレンが肘でレックスの腕を突いた。
ビクターは、声もなく満面の笑みを浮かべるフィオを見つめる。
その明るさや、よく動いて元気なところを時々見ていた。
それに、ジェドと共に筏を守ろうとしてくれた力持ちなところもある。
大した女の子だと、静かに感じていた。
さてここまでだろうと、ビクターは同じ様な話は自分にはないと見切って立ち上がる。
その時、ポケットから何かが零れ落ち、細かい音が床に響き渡った。
それを見て先に慌てた声を上げたジェドだが、それに追いつく様にビクターが咄嗟に拾ってポケットに隠す。
「なんでもない! なんでもないの!」
焦りに目を丸くさせたフィオがシェナの隣から飛び降り、転んでしまった。
その拍子に、ポケットから釘やゴム製の輪が一気に飛び出した。
「バカっ!」
ビクターが堪らず放つと、3人の上に大きな影が被さった。
「何でこんなもん持ってるんだ?」
勝手に漁船の倉庫に忍び込んだとハッキリ言えるのかどうか、カイルはビクターをじっと見下ろした。
ビクターは目を見開くのだが、徐々に表情を険しくさせる。
この際だ、独りで生きていくんだと言い放ってやる。
互いに知らない者同士だ。
どこでどの様に生きていこうが勝手だろうと、口を開いた途端――
「こいつは! あ……ビクターはすげぇんだっ!
おっちゃんたちと、おんなじだっ!」
割り込んだジェドに続いて、フィオが隠し持っていた小さなドライバーやレンチを取り出した。
「これ かしてっ! すっごいふね つくってるの!
なわも じょうずよ!
できたら、さかな とってくるから」
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非