(1)
朝焼けが静けさをもたらし、長い慟哭が続く夜の終わりを告げていく。
魔力による光を失った荒海が素顔を取り戻し、冷たい微風が心地よい波の音を立て始めた。
島では、多くの木々が薙ぎ倒され、高台の殆どが崩れ落ちている。
体感した事のない風速に、人々は反対側の海まで飛ばされていた。
その救助に竜の使者が向かい、激戦区の精霊達やミラー族も合流している。
何事もなかったかの様に静まり返った景色に、誰もが恐怖していた。
しかしそれも、やっと顔を見せた朝陽によって、拭われていく。
眩しいこれに、心の底から嬉しくなり、目を背ける者はいなかった。
人々は島に導かれていくと、沖から戻る仲間を迎え入れようと、波打ち際へ駆けていく。
だがレオは、これに全力で喜べず、影で独り、安堵の息を吐いていた。
人々の喜びや、仲間の無事に感極まる声に、じっと耳を傾ける。
これが、彼の当たり前の生き方だった。
「はずかしいの?」
急に飛び込んだリサの声に、レオの肩が飛び上がる。
小さな彼女の後ろには、同じく小さな仲間達が、彼を見上げて不思議そうな顔をしていた。
「これ、おちたよ。われてるじゃないか。
それで、げんきがないの?」
ウィルは、すっかりレンズを失ったレオのサングラスを拾うと、首を傾げた。
「おれの これ、かしてやる。
こまることでも あるんだろ?」
ケビンが不意に突き出したのは、漁船倉庫から持ち出したゴーグルだ。
僅かに薄暗いレンズをしたそれは、少しなら助けになるだろう。
「気が利くんだな。すまない、助かるよ」
「なんだか め が ちょっと しろいのね。
ちゃいろだけど、ここが」
クロイはレオの目を指差すと、瞳のもっと真ん中の方だと言いながら、友達にそれを教えた。
目が悪いのだと彼等なりに解釈すると、レオの手を引いてミラー族に頼もうと騒ぎ始める。
レックスの足を治したところを見て、レオの目も治るのではないかと興奮していた。
だが彼は、微笑ましい提案に優しく首を横に振ると、借りたゴーグルを装着し、彼等と目を合わせる。
「駄目だよ。
俺はこの目だからこそ勝ち抜いてきたんだから。
奪われちゃ困る。
今じゃ、もう1人の相棒なんだ」
「その め が?」
子ども達は声を揃えて顔を見合わせると、コロコロと笑い声を上げた。
腹を抱える彼等が愛おしくてならず、レオもまた、笑い声を溢す。
そして立ち上がろうとすると、ケビンが彼の背中に攀じ登り、目の上に手を翳した。
「じゃあ、まもってやるよ。
くらいほうが いいんだろ?
こうしてりゃ、ずっと て を あげてなくても すむ」
レオは、寛大な彼等に僅かに瞳を震わせると、そのまま小さな手に引かれて、海の戦士達を迎えに行った。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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その他作品も含め
気が向きましたら是非