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※1540字でお送りします。
フィオは、両親の柔らかな表情と、温かい腕に包まれると、口が自然と綻んでいく。
髪を撫でられている感触が、確かにあった。頬に2人の唇が触れ、笑い声が聞こえてくる。
“もう大丈夫”
2人は言うと、再び抱き締めてくれた。
いつまでも離さないと、強く、解けないように。
ジェドは、最後に見た父とは違う、爽やかで、健全な表情をした彼と再会していた。
そして、更なる事態に目を震わせる。
誰かが肩に腕を回すもので、そちらを振り向いた。
微かな鼻歌が聞こえ、それにもはっとさせられる。
たった今、初めて耳にする筈のそれが、途轍もなく懐かしく感じた。
すると、同じ色をした長い髪の女性が、身体を包んできた。
“生きてる……やっと会えた……”
そのまま両親に抱かれる内に、胸が締めつけられていく。
囁かれる愛に、じかに伝わる温もりに、ずっと浸っていたかった。
シェナは、互いに汚れ、身体に事情を抱え、枷を付けた同士と向き合っていた。
痛みの上で、尚も笑い、働き、勇気をくれた戦友達が、輪を作る様に肩を組む。
“どこかできっと、幸せになる。なってみせるんだ”
明日、或いはこの後、その身に何が起こるか分からない世界で、互いに願った。
最悪な人生の始まりの先で得た、最高の仲間の命の光に、胸が燃えた。
ビクターは、どこかからのペンダントの音に顔を上げる。
と、これまでも耳にしてきた優しい声が、形になり始めた。
陽炎もいなければ、身体を埋める瓦礫もない。
そこに立つ2人は綺麗で、勇ましかった。
“上手く決まった”
両親が肩を抱き寄せ、微笑んだ途端、緊張が一気に解れていった。
それぞれが欲しいと願っていた大きなものは、蔦に柔らかく包まれ、消えてしまう。
この先も、胸にずっとあり続ける。
そう肉体に刻む様に、巻きつける様に、彼等を支える様に、太い根を張り巡らせながら、淡い緑の光に溶かされていった。
ライリーは、身動きできずに困惑していると、胸の痛みを感じた。
埋もれるものを掘り起こされる感覚に、顔を歪める。
相手の術によるものだろうと、大人しく堪え続けた。
だが、息が尽きてしまう前にと、伸ばしていた両腕に力を加え、指先をどうにか動かす。
そこへ、胸の不快感が急に止んだ。
彼女は楽になった途端、その者に、聞けと心で懸命に語りかける。
(どんなに赦されなくても、私や、仲間は、貴方を憎んだりしない。
もう、傷つけるのは終わり。
ここからは、救い合うのよ)
募る感情を晴らす機会を見失い続け、とうとうここまできてしまったのだろう。
何もかもを取り込めば、重くなり、燻み、黒く染まってしまう。
そうして光が閉ざされていく。
見えていたものが失われ、その怖さに怯え、壊す筈ではなかったものを壊し、困惑の渦に落ちる。
そして己をも見失う。
そんな自分自身にもまた腹を立て、蝕んでいったのだろう。
閉鎖的な空間に淀んだままの空気に侵され、そして、殺意は生まれてしまった。
(変われるという事を、貴方から教わった……感謝してる……感謝してるの……)
ライリーの力が抜けた。
涙が海に拭われるのに合わせて、木の根が伸びてくる。
巻き込まれるのかと恐れたが、違った。
その者は、根を人間の左手に変えると、彼女の手を優しく握った。
ライリーは目を見張る。
鼓動が全身を打ち鳴らし、大粒の涙が海に美しく浮かんだ。
「……ありがとう」
ぼやけた囁きに、はっとしたのも束の間――もう、その手はどこにもなかった。
身体の拘束が解かれた途端、4人は遠ざかり始める形ある者を、必死に求めてしまう。
行かないでほしい。
そんな強い願いを乗せた手をどんなに伸ばしても、根と蔓が厚く阻み続けた。
その嵩張りは、次第に球体に変わると、寸秒、地球の影を見せる。
と、蟲達が覆い尽くしていく。
集まる緑の光で、皆の視界を遮った時、コアは、深海の闇へ消え去った。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非