(17)
闇に連なる数々の最悪を、淀んだ汚水や汚泥を、シェナの全身に迸る金の光の根が触れていく。
グリフィンに身を委ねたまま、長く、長く叫び続けた。
出す事を許されなかった声が、救うためのものに変わった。
奇妙と罵られてきた声の正体を、やっと知る事ができた。
そして漸く、自分を受け入れられた。
売られ、買われてを繰り返した後、辿り着いた島で、シェナという人間として再び生かされた。
また、風の人として神に求められた。
耳を塞いでいた両手が、首ごと大きく落ちてしまう。
脱力しきった身体は尽き、声は枯れた。
そして、途轍もなく暗く、苦しい闇の空間は、コアは、内側からの大旋風によって爆発した。
コアの麓から天に向けて炸裂音が迸り、身体や腕が砕け散る。
仮面に金の光の亀裂が走ると、これを最後に、完全に打ち砕かれた。
グリフィンとシェナが1つになったまま落ちていく傍ら、風圧に耐えた守護神の竜が飛び立ち、2人を背中で受け止め、そのまま島を目指した。
先に落下した3人は、鮫と鯱に拾われ、2人の無事を気にして竜を仰ぎ見る。
シャンディアは慌ててコアの元居た場所に向かった。その真上では、リヴィアも接近している。
降り注ぐ瓦礫の中に紛れるのは、別の何かが力尽きた姿だ。
人の形をしたそれは、他の神々と同じ背丈をしている。
シルクの様な白い衣には、土を思わせる淡い茶色のグラデーションが描かれ、揺らめいていた。
リヴィアが宙の半ばで、どうにかその者を受け止めたのも束の間――無数の細かな緑の光と、木の根が蠢き、その者を包んでしまう。
リヴィアは、大きく払い除けられてしまった。
下で受け止めようとしていたシャンディアもまた、蠢くそれらに視界を遮られ、振り解かれる。
光と根の塊は、そのまま海に落ちると同時に激しい羽音が立った。
周囲は忽ち肌を粟立たせ、悲鳴を上げる。
「ぶえっ! 虫じゃねぇかっ!」
「きゃっ! 身体がっ!
ちょっと、止めてっ! 止めてよっ!」
鮫の背中にいるジェドとフィオは、全身に纏わりつく蟲の大群を払い除ける。
「……こんなアメンボ(ウォーターストライダー)いるか?
目が緑に光ってやがる」
ビクターもまた、身体を覆い尽くされていたのだが、それよりも、見た事のない目を持つウミアメンボに釘付けになる。
ちっぽけな白い身体よりも、鋭い緑に光る目玉が際立っていた。
それだけでなく、この場で見るにはありえない、ありとあらゆる同じ目を持つ昆虫が群を成し、海中を目指して真っ逆さまに飛行していく。
それを迎え入れる様に、海面から細い木の枝や蔓が柔らかに伸びると、濃緑の葉を舞わせながら再び海中に姿を消した。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非