(15)
漁船の見張り台で指揮を執るシェナは、ロープを握り締める。
だが、足元から脳天にまで一気に寒気が迸った。
もう一息、コアを鎮めるための力がいると勘付く。
怒りに言葉を失くしたコアの身体は、影を揺らしながらも確かな肉体を持っていると見ていた。
シェナは見張り台の縁を踏ん張り、目を凝らすと、大きくて温かい何かが身を包んできた。
振り返ると、息を切らせたグリフィンがおり、目や頬を優しく拭ってくる。
「泣いてでもやるべき事なのか……?」
シェナは独りでミラー族と漁船を我武者羅に導いており、彼にそうされるまで、自分が涙している事に気付いていなかった。
グリフィンは、彼女の小さな身体に詰まりに詰まったものが、そのまま彼女自身を壊してしまわないよう、肩から抱き寄せる。
そして、シェナの頬や首を這う金の光を見つめた。
「……どうするつもりだ?」
「コアにも心があるから、そこに行かないといけない……でもそこは……そこは凄く暗くてっ……暗いのは嫌っ……」
ただ暗いなんてものではない。
シェナは、そこが恐ろしい闇の空間であるという事が、まるで直に触れる様に感じてならなかった。
感情が身体に追いつかず、涙が溢れてしまう。
それでも喉は炎の様に温かく、眩しく光り続け、彼女の全身を緩やかに這い続けていた。
時間がないと、グリフィンはもう一度シェナの顔を拭い、脇から強く抱きかかえる。
「暗いもんか。
君は光そのものだから、そこを照らしてやれるよ。
俺も行く」
シェナはグリフィンを見上げ、首を激しく振るのだが、声を発する前に口を指先で押さえられてしまう。
「終わらせるぞ。
そして今度は、君が本当は誰なのか、新しい話を聞かせてくれ。空島から帰った夜みたいに。それも必ず伝説にできる。
まだ本は出来上がっちゃいないんだ。泣いてる場合じゃないぞ」
ある時を境に、すっかり風やミラー族を操るようになったシェナの変化を、見逃してなどいない。
誰にも見えないものを感じ、問題を見定めて解決しようと、武者震いの様なものを起こす彼女に、最後まで寄り添いたかった。
1人では不安な事は、2人でも3人でも、誰かと共にやればいい。
支えが丈夫であればあるほど、持ち堪えられるのだから。
グリフィンはシェナの頭を撫でると、共に見張り台の縁に立つ。
真下では、コアに接近する3人と、その周りからミラー族と精霊達と竜の光の渦が巻き起こっていた。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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その他作品も含め
気が向きましたら是非