(11)
不安と焦りがハンドルを切る手を強めるのだが、既にスピードは限界に達していた。
後の速度は、ミラー族による鏡の波に託すしかない。
レックスは苛立っていると、遠くで光が減少する様子を捉えた。
コアの腹に浮かぶそれらが打ち砕かれているのを見て、彼は積んでいたライフルを担ぐと、そこに当てる機会を探る。
ライリーは、コアの声に耳を澄ませていた。
そこに紛れるのは、殴打する様な暴力的で物騒な音だ。
首が自然と振られ、視界が霞んでいく。
その時、コアの顔に向かって太い銀の路が伸びていくのが見えた。
そこからは、場違いな笑い声や音楽が聞こえてくる。
コアは音が耳障りでならず、強引に打ち払っていく。
その様子を見たライリーは、コアが幸福感や前向きな心を嫌うまでになったのだと悟ると、激戦区で破壊され続ける鏡の路の欠片を見上げた。
雨の如く降り注ぐ欠片の内、その大きなものが接近した途端、目を見張る。
急に胸痛が襲いかかり、咄嗟に胸を掴んだ。
欠片の表面に流れる様にさらされたのは、ずっと奥に仕舞い込んできた自分の過去だった。
路地裏で襲われた豪雨の夜。
下半身の激痛に溺れ、次第に麻痺し、まるで魂がそこにない様な感覚に陥った。
死ぬのだと思わされた瞬間だった。
刹那、目と鼻の先まで迫っていた欠片がライフルのストックによって払われる。
「伏せてろ!せっかくの面が台無しになんぞ!」
ライリーはレックスに何も言い返せないまま、堪えきれなかった涙を隠す。
怒りや悔い、憎しみ、何より大きな悲しみと寂寥が全て入り混じりながら拳に集まると、今にも額の髪を毟りかけてしまう。
置き去りにされ、痛みに溺れさせられる様な醜い世界にしかなれないのならば、いっそ消えてしまえばいい。
幾度となくそう思い続け、遂に大地の怒りという名の処刑が、世界に向けて執行された。
なのにまた、自分は生かされた。
何かの間違いだと自ら命を絶とうにも、できなかった。
残された南で出会った人々の優しさに困惑したものの、彼等は自分のブレーキになった。
しかし誰とも真っ直ぐに向き合えない。
親しくなればなるほど裏切られ、また犯されるのではないかと恐怖した。
それでも、誰かが怪我をしたと聞くと治療してしまう。
痛みが聞こえると、反射的にそれを払拭しようと身体は動き続けた。
廃退地区を放浪し、窃盗と売春を繰り返した後に、強姦される地獄から自分を引き摺り出した者達を思い出す。
彼等もまた、碌でもない人生を生きる者達だったが、救われた。
それもまた、罪の上塗りだとはいえ。
HPV感染から発症した子宮頸がんに殺されかけた。
それを見極めて摘出し、守ってくれたのは、誰が何と言おうと彼等しかいない。
僅かな安らぎをくれたのは、今目の前にいるレックスの様な健全な人ではなかった。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非