(9)
長老は、崩れて小さくなるライリーの肩を掴むと、冷え切った身体を擦ろうとする。
だが、その手は呆気なく落ちてしまった。
ライリーは反射的に彼の手を握り返す。
「人が、大地に帰すならば……コアの傍にいよう……また、そこにお前さんが知る者がおるならば……わしが改めて尽くそう……お前さんが今……ここで尽くす様に……」
長老は漸く、一呼吸置く様に目を閉じた。
これに動揺する周囲だが、ライリーは崩れた顔を上げると、彼の息を確認する。
急に穏やかな寝息を立てるなど赤子ではあるまいしと、洟をすすった。
その束の間、長老の微笑みが覗えた。
再び、沖から激しい攻撃音が轟く。
見ると、宙のそこら中を太い路が伸びて舞っていた。
巨大な蛸が出たと、麓で子ども達の騒ぎ声がする。
宙を自由自在に練り動くそれらの表面には、明け方の空が見せ始めている仄かな明かりを反射させている。
ライリーは徐に立ち上がると、遥か先で崩落しかかるコアを見た。
そこに淀む苦難する声が、ずっと耳に届いてならなかった。
この高台に移る前、静かにそれに聞き入っていた。
きっとその声を最後まで聞いてやれるのは、自分なのかもしれない。
姿こそ大きくても、遥かに小さい者。取り囲む数々の声の深部から、痛みに悲鳴を上げている真の存在が、もうすぐ消されてしまう。
「おいライリー、どこへいくんだ! 戻れ!」
レオの声を押し退けた彼女は、高台から飛び降りると地面を転げた。
が、乱暴に立ち上がっては波打ち際へ疾走する。
事態に備えていた人々が、向かい来るライリーを慌てて止めようとした。
それに追いつこうとするレオだが、張られた鏡の結界や、沖からの反射光、神々による攻撃の光が、割れたサングラスの隙間を縫って襲いかかる。
無茶をするなと彼を止めたのは、居ても立っても居られなくなったスタンリーだった。
スタンリーはその足で、聞き分けのないライリーを怒鳴り、連れ戻そうとする。
「いい加減にしろ!
仮にあんなもんの治療ができたとしても、その必要はあらん! 人類の敵だぞ!」
「黙れっ! それ以上近付かないでっ!」
彼女は突如ナイフを突き出し、皆の喉が詰まる。
だが一方で、その場で統率を取っていたレックスは、彼女がその気でないという事をすぐに悟った。
来る前よりも顔を赤くさせ、涙を呑もうと必死になる声が漏れている。
彼女は治す者であり、殺しなどできない者だ。
誰も言葉を返せないまま、両手を震わせながら上げる。
ライリーは向きを変えないまま後退ると、鏡の帳に拳を打ちつけた。
向こう側のミラー族が振り向くと、事態に眉を寄せて小首を傾げる。
「ここ開けて! 早く! 私を連れていきなさい!」
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非