(7)
ライリーは、反射的に行動に出る自分自身に違和感を覚えていた。
長老に吸い寄せられる様に、また、助けるよう背中を押される様に足が動いていく。
「邪魔よ、どいてっ!」
騒ぎに集まる人々を激しく押し退けては、彼が寝そべる高台に登ろうと急いだ。
「さっさと上げて、早く! そっちも持ち上げて!
命かかってんのよ!」
同じ南の住民は目を疑う。
こんなに機敏に動き、声を荒げる彼女は初めてで、萎縮していた。
追いついたレオは手早く彼女を足から持ち上げ、そのまま肩に登らせていく。
「ああライリー、どうしましょう!
エドが目を開けないのよ!」
アイザックに手を引かれながら這い上ったライリーは、騒ぎ立てるアリーと激しく位置を代わると、動かない長老に目を見張り、彼の衣服を可能な限り緩めていった。
「上を起こして! 早く!」
ライリーは手を速めたまま、忙しない声でアイザックに怒鳴る。
彼は指示通り、長老の上半身を起こしていく。
「何が要る、ライリー」
レオが這い上がるや否や、彼女の口は勝手に指示を始めていた。
「凭れられるようにする!
木でも毛布でも何でもいい! 急いでっ!」
レオは颯爽と引き返すと、ライリーは迷いなく羽織っていた黒いコートを脱ぎ、袖のない黒いワンピース姿になった。
腕には傷があり、凝固した血液が点々と付着している。
彼女はコートを丸めてクッションに変えると、長老の細い足を立てたその下に入れてやる。
真下からは次々と板や枕、麻でできた毛布が上げられた。
「ライ……リー……」
「喋るなっ!」
安静にできる環境を作ろうと必死だった。
この島に来た時、自分にとって適した場所を用意してくれた様に、彼にもまた、それをどうしても返したかった。
「……そうだ、ミラー族を呼べ!
竜の彼女でも、誰でもいい!
魔法なら絶対に助かる!」
「止めろっ……!」
長老はアイザックの閃きを即座に断つ。
浅い呼吸の中、懸命に絞り出した声は、下の皆にまで響いた。
急な発声に、長老は余計に息を荒げる。
それを落ち着かせるべく、ライリーは彼に自分を振り向かせる。
鼻から緩やかに空気を吸うよう促し、腹に触れて膨らみを意識させていく。
そのまま、口からゆっくりと息を吐いていく音に合わせて、腹が萎むのを手で感じさせた。
慌てるのではなく、とにかくゆっくりと繰り返すよう告げると、長老は、久方振りに薄目を開いた。
「ならんぞ、ザック……延命の術など、求めては……」
一度はリヴィアの力によって、丈夫な足腰を手に入れた。
これに喜びと複雑さを噛み締めており、それ以上の回復を求める事を拒んだ。
たとえ、事態の要因が常軌を逸したものであっても、来るべくして来るその時を受け入れる事が定めだと、細い眼力だけで周囲に訴えかけた。
そして、ライリーの手を力強く掴んで引き寄せ、微々たる声で語り始めた。
「アレクサンドラ・ゴーティエ……か……」
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非