(4)
コアはジェドを掴もうとする。
だがジェドにはスローに捉えられ、彼は透かさず宙を飛び、新たな足場に乗り換えると、仮面の嘴に向かって駆けた。
先端に辿り着くと、リヴィアの雷によって深い亀裂を負った頭部を目指しては、握っていた小さなナイフを減り込ませた。
コアが激痛に大きく揺れ、ジェドはなけなしのナイフに縋って身体を支える。
振り払われるか否か、這いつくばりながら拳を掲げると、留めにナイフの柄を打ち叩いた。
打ち壊したい一心で叩きつける威力が、新たに深い亀裂を生む。と、ジェドは苦痛に叫ぶコアの反動で振り解かれた。
それを捉えたビクターは、精霊に宙で支えられたままジェドを目掛けて腕を伸ばす。
意思に従って伸びた黒い陽炎は、落下していく彼の胴体に巻きつき、宙吊りになった。
ジェドは激しく揺られる中、陽炎に馴染みある温度を感じ取る。
ここまで共にやってきたビクターに巻き取られている様な感覚に、体内を巡る熱が冷まされていった。
ジェドの動きを仰ぎ見ていたフィオは立ち上がると、槍を握り、再びコアの腹を目指そうとする。
だが、その場に追いついたシャンディアに手を引かれ、接近を妨げられた。
足場から不意に海へ引き込まれたフィオは、シャンディアの速い泳ぎに身を任せるのがやっとだった。
「シャンディア戦わせて! あと少しなの!
コアはもう、光を蓄えられないところまできてる!」
シャンディアは耳を疑いながらフィオに振り向くも、間もなく新たな足場に降り立とうとするビクターとジェドの元へ彼女を導こうとする。
「コアが本来求めているものは、お母さんがくれた鏡の路が証明してる! お願い、今はそこに立たせて!」
この時、シャンディアは耳を澄ませた。頭上で降り立ったビクターとジェドの足場から、数多くの幸せに満ちた声や音が海に伝わり、胸を震わせてくる。
その震えは次第に涙に変わると、鏡の双眼に輝かしい大海原の景色が浮かんだ。
「泣かないで。もう、大丈夫だから」
“大丈夫だから”
シャンディアは眼を見張ると、鏡の涙を流しながらフィオを抱き締める。
もう2度と聞こえない先代の声が、フィオの言葉と重なった。
触れ合う肌は同じ様に冷たいのだが、そこから伝わるのは温かい心だ。
髪を撫でてくる手の動きに息が震え、大粒の涙に喜びと深い悲しみが混ざり合う。
大いなる存在の死を、そう容易く受け入れられた者はいない。
人間に向かっていく先代の決断を恐れ、止めようとした。
その際に告げられたのが、人間から学んできたその言葉だった。
「オルガ様……」
小さな子どもの様に泣くシャンディアを、フィオは強く抱き締め返す。
この時、母に縋ろうと必死になっていたシャンが、腕の中で悲しむシャンディアに重なっていく。
母は、父と自分の目の前で水と化し、砂に染みていった。
ミラー族は、ただ先代オルガを失った事を悲しんでいるのではない。
彼等はこの悲しみを、どこへも向ける事ができずにここまできたのだ。
「大丈夫。今度こそ、全部大事にする。
貴方達の気持ちも、皆でね。
さぁ手伝って、もうすぐ太陽が見えるわ」
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
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インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非