(8)
3人は長老に言われるがまま、相手と目の高さが合う様に椅子に腰掛けた。
その際にアリーが、すっかりずぶ濡れの3人に布を被せていく。
まるで3体の幽霊の様な姿が、少女の茶色をした瞳を震わせる。
そんな彼女を、ビクターは布の隙間からじっと見つめた。
自分と同じ瞳をしている、と。
未だ震える少女だが、大人達は話せるかどうかを促してみた。
名前や居場所、何が起きたかについてもだが、好きなものも訊いてみた。
それでも彼女は一言も話さなかった。
否、話せなかった。
唇は動き、喉も何かを放っている様な動きを見せるにも関わらず。
「泣いていたのに妙だ。発語がまだなのか?」
マージェスはじっと観察する。
途轍もないショックを受けたせいだろうか。
泣いて訴える事はできても、発言は難しい様だった。
書いてみてはどうかと、アリーが板と墨を渡してみる。
だが少女はそれも拒んだ。
苦労を顔に滲ませたまま、首だけでイエスかノーかの意思表示を続けた。
「じゃあ、なんて よぶんだよ」
名前が分からなければ呼びようがないと、ジェドは小さな足を揺らす。
「ふく に かいてんじゃねぇの」
ビクターがそう言うのには訳があった。
彼は、周りの大人達がこの島に辿り着く前に拾われた。
名前は、当時着ていた服に記載されていたため、そのままそう呼ばれている。
そこでアリーが少女に触れようとしたが、彼女は怖がって大きく身を引いてしまった。
「じゃあ何か考えてやろう……この子が教える気になって、名前が分かったら、そう呼んでやればいい」
「アンバーとか、サニーとか、シェルとか」
長老に目を見開くフィオが溢す言葉に、ジェドとビクターは顔を歪める。
少女が瞬く大きな目に、フィオが2人に眉を寄せる様子が映った。
「なーに? おにんぎょうの なまえよ」
「おま……フィオ……このこ、にんぎょうじゃねぇ」
おもちゃに名前をつける事があっても、誰かに名前を贈った事などないのは当然だ。
長老や他の大人達は、そんな3人に愛らしく微笑んだ。
「願いを込めて考えるのよ。印象なんかも見たりしてね」
フィオと共に暮らす女性は、印象とは何かを3人に話して聞かせた。
この時ビクターは、少女が海で抱えられているところを思い出した。
「月……」
光を受けていないにも関わらず、少女の髪は月の様に明るく、暗闇でも分かるほどだった。
「こわがってる」
ジェドは、未だに身を縮める少女から長老に目を向けて言った。
「たかーい こえ を してた」
泣き声を思い出したフィオが長老を見上げる。
長老は白い顎髭に触れながら、子ども達からの情報を整理していく。
最も近い存在になる3人から贈る形にしたかった。
少女がこの先どうなるかはさて置き、彼等と同じ様に笑い、安心して生きてもらいたかった。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非