土下座令嬢は王太子を改心させる
「やった! ローズ様と同じ1位だ。ローズ様のおかげですね。ありがとうございます」
「私は3位です。見直しが甘かったですわ。ローズ様、せっかく教えてくださったのにすみません」
「ローズ様、僕もお揃いの1位です。クラスの皆は大体1〜3位以内ですね! ありがとうございます! この調子でいけば王宮魔術師特待候補生も夢じゃない……」
今日の王立アイステリア貴族学院にぎやかだった。
朝のホームルームの後、時間をとってテストの結果が廊下に張り出される。
その結果で、生徒たちがワイワイとおしゃべりしているのだ。
その中でも、学年順位を1年2組の者達が独占していた。
2組は、皆がローズ・フィルス・フィリフォリア子爵令嬢に好成績であった感謝の気持ちを伝えている。
「2組の奴らが1位から3位独占だなんて……」
「フィリフォリア子爵令嬢が2組の奴らに勉強を教えているんだ」
「魔法により不正はあり得ないが、何か抜け道があるんじゃないのか」
「俺は次からフィルフォリア子爵令嬢に頭を下げて勉強を教えてもらう」
「おいっ、抜け駆けするな」
1年1組の面々は高位貴族の中でも成績優秀のものが集まったはずだったのだが、今回のテストでは2組に全員が成績を抜かされていた。
それというのも……、
「何か御用でしょうか。王太子殿下。モンブラン侯爵令嬢様」
皆の視線の先には噂の『ローズ・フィルス・フィリフォリア子爵令嬢』が居た。
濃い茶色の目に茶色の髪で、よく見ると美人かも……? というような顔で目立つタイプではない。
だが、2組の学力の源である人物である。
それゆえに、今回最下位と最下位から2番目という順位をとってしまった二人から絡まれていた。
それはなんと、
「貧乏子爵令嬢の分際で生意気だぞ、貴様!」
「この国の王太子をたてるということも分からないなんて、本当におバカさんね」
こんな発言をしてしまう、この国の王太子と婚約者の侯爵令嬢だった。
2人とも金髪に青い目の整った容姿をしているだけに残念感がある。
この国の王太子と有力貴族の侯爵令嬢の暴言に、周りの貴族たちはひそひそと囁きあう。
中には、「そんなこと!」と声をあげて抗議しようとする令嬢さえいた。
しかし、ローズはそんな令嬢を優しく押しとどめて王太子に向き直る。
「生意気でバカで申し訳ございません。誠に勝手ながらウチの家は貧乏なものでして、1位を取らないと学園に通い続けられない上に、実家に引き戻されて棒叩き100回の上に30も年上の変態と名高い商人に売り飛ばされてしまうのです。そして推測ですが売り飛ばされた後1年以内に死にます。特殊なご趣味をお持ちの商人のようで」
ローズは簡素な黒一色のワンピースのまま床に這いつくばって土下座した。
服が汚れるのも辞さない覚悟だ。
ちなみに、この学院は私服も許されているが、もちろん皆制服を着ている。
黒のワンピースを着ているのはローズだけである。
「勝手な事情で申し訳ありません。何卒心の広い王太子殿下、女神のようにお美しく優しい侯爵令嬢様にはお許しいただきたく。申し訳ありません。矮小な私でも命が消えるのは惜しいのです。何卒、生きることをお許しください」
ローズは繰り返し「お許しください」と床に頭をこすりつけた。
「な、なによ……」
貴族令嬢が土下座をして這いつくばっているいるという前代未聞の事態に、モンブラン侯爵令嬢はどうしていいか分からないようで少し後ずさった。
「貴様の事情は知らんが、周りの組の者まで点を上げるのはやりすぎではないのか?」
王太子のもっともな突っ込みに、またローズの取り巻きの令嬢が「それは!」と抗議の声をあげようとしたが、ローズはすごい勢いで首を振って押しとどめる。
「皆さま優しいので、雑草をかじり、水をのみ、食堂の隅においてあるわずかな無料のパンの切れ端を食べていた私を哀れに思って食べ物を下さいました。何かお礼はできないかと、唯一の私の取柄である勉強をお教えすることとなったのです。申し訳ありません。才覚溢れる王太子殿下やモンブラン侯爵令嬢様と違って勉強以外はできない哀れな私をお許しください」
「むぅ……」
王太子は少し何かを言うと、大変過ぎる事情がたくさん返ってきてしまうため口をつぐんだ。
王太子はローズの目立つ黒一色のワンピースについてもとがめようと思っていた。
が、きっと何か事情があるのだろう。買えないとか大事にとってあるとか。
(現実はもっと悲惨で、国から無償支給されたローズの制服はライトグレーの良い素材でできている為、バラバラに家族に取られていた。)
その場に居た他の貴族の子達は、お馬鹿すぎる王太子が察する事をしたのに驚いていた。
「制服はコレで購買で買えっ!」
王太子は従者に言って、金貨をその場に10枚ばら撒かさせた。
それは王太子が初めて他者にした施しだった。
「恐れ多い事でございます」
ローズは見た事もない金額が周りに散らばった事に、普通に目を回していた。
昔、親がくれると言った銅貨を拾おうとした時すごい勢いで手を踏みつけられた事がある。
罠だったのだ。
だからローズは拾わないで平伏を続けた。
「立ちなさい。平民みたいな事してないで」
モンブラン侯爵令嬢が自分の侍女に命令してローズを立たせる。
もっと早くローズを立たせるべきだったと後悔した。
モンブラン侯爵令嬢は自分は人に傅かれるのが好きだと思っていた。人を屈服させるのが、大好きだと思っていた。
しかし、初めて貴族(一応ローズは子爵令嬢だ)に平伏された結果、なんとも嫌な気持ちになった。
金貨は平民の用務員が来て拾い集め、ローズに渡した。
うなだれたローズが立ち、場に重苦しい空気が流れた。
「何か行き違いがあったようだ。珍しい菓子を集めた茶会へ皆のものを招待しよう。空いている時間は?」
王太子は久しぶりに理性的で合理的な事を提案した。
王太子の言葉に2組の貴族が止まって、周りの者と目配せをしあう。
「レオン。ガリ勉の方たちは勉強まみれで空いてる時間がないのじゃないかしら」
モンブラン侯爵令嬢が王太子に愛称で呼びかけた。
「なるほど、では勉強しながらお茶会というのはどうだろうか」
「いいんじゃない」
レオン王太子とモンブラン侯爵令嬢が微笑み合う。
その後開催された茶会で、1組と2組の者は和解した。
ローズはいつも食べられないお菓子をお腹いっぱい食べて満足し、王太子とモンブラン侯爵令嬢に今後の忠誠を誓った。
その後も、ローズによってさまざまな事件は引き起こされた。
しかし、王太子や侯爵令嬢、温かいクラスの面々により、楽しくも茶番すぎる学園生活が続いていったのだった。
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……ふぅ、危ない危ない。
お茶会でハッピーエンドとなったのを見て1人の貴族令嬢が胸を撫でおろしていた。
ローズに、
「私は3位です。見直しが甘かったですわ。ローズ様、せっかく教えてくださったのにすみません」
と声をかけた男爵令嬢だった。
その後もローズを責めようとする王太子と侯爵令嬢に、「そんなこと!」とか「それは!」とか『無難に』抗議しようとした令嬢である。
彼女は日本から転生し、前世でプレイしていた乙女ゲームであるこの世界のヒロインポジションに付くはずだった。
だが、入学早々に『ローズ・フィルス・フィリフォリア子爵令嬢』という自分がプレイした乙女ゲームにはいない濃いキャラを発見し、自分はその取り巻きとなって隠れる事を考えたのだ。
令嬢がヒロインのはずなのに、ローズがただ一人制服ではない黒のワンピースを着ている、食堂で貧しすぎる食事をしている、学用品も揃っていない、だけれどもものすごく頭が良い。
ちょっとかわいいだけの自分より目立つ。
試しに令嬢がローズに飴をあげて勉強を教えてもらうと、これがなんとまあ分かりやすかった。
令嬢はローズを見て思った。
自分がうまくいくか分からないヒロインをやるより、ローズにヒロイン役をやってもらった方が無難で得なのではないか。
令嬢の前世では、ヒロインは「ざまあ」される物語が多かった。
目立つものは嫉妬や妬みを受ける事が多い。
そういう事で、令嬢はローズを友達としてサポートしながらモブに徹する事にしたのだ。
結果は大成功だった。
王太子と侯爵令嬢の仲は壊れないし、キャラの濃すぎるローズは皆に援助してもらえる結果になった。
そして令嬢は適当なクラスの男子をひっかけてくっつこうと思うだのだった。
なんなら成績発表の時『王宮魔術師特待候補生も夢じゃない』とか言ってた男子に、この前告白されたばっかりである。
読んで下さってありがとうございました。
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話の構造がだいぶ前に書いた「何気ない婚約破棄騒動の背景」に似ている……。
学生がたくさん集まったらヒロインより濃い人がいる可能性十分あるよね。




