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人造人間は語り継いだ

 人造人間が生まれたのは、ロボットの時代から少々先。人類が、人類自身について洞察を深めようとしていた頃のことだった。


「当時の人類は、『人間とはなんぞや』という疑問を解決するために、『人間の模造品を作ってそれをとことん人間に近づける』というやり方を取っていたんだ」


 最初はパーツ単位で、それが叶えば丸々一つの人体を。宇宙進出を果たした者たちが扱う、人体を機械に置換する技術はこの頃に起源を遡ることができる。

 この試みの一つの到達点として生まれたのが、人造人間だ。


「今はもう廃れた技術だが、生体認証ってのがあったんだ。当時は人体の模造が難しくてな。特に血管や細かなシワのパターンなんかは、個人の識別に使える情報だったんだ。……俺たちが生まれるまでは、な」


 彼ら人造人間は、情報さえ得られれば特定個人を、判別がほぼ不可能な程度には高い精度で模倣して製作することが可能な存在だった。生体認証すら突破するほどには。

 物質的には人間と何ら変わらない存在であり、製作時にマーカーを埋め込む等しなければ、人間か人造人間かの判別すら不可能だった。


「なんかもう、嫌な予感しかしないんだけど」

「だろうな。俺たちのやり方は、ロボットの旦那と発想自体は同じだったんだ」


 一部分のみ抽出して覗き見するような使い方はできなかったが、一人分丸ごとであれば記憶複写の技術も当時は確立されていた。


 肉体というハードウェア、精神や記憶というソフトウェア。その双方において本物と見分けのつかない、人間の模造品によるすり替えが行われた。そして、その事実が公のものとなることにより生み出された相互不信という名の毒が、人類社会をひどく蝕んだ。


「俺たちを作って、そうするよう命令していた人間たちがいたんだ。そいつらがどうなったか、ロボットの旦那なら想像つくんじゃないか?」

「互いを出し抜こうとして、共食いをしたのでは」

「ご明察」


 道具に過ぎなかった人造人間たちは、使用者たちの破滅を間近に眺めていた。社会全体に不信をまき散らした彼ら自身が、真っ先にその毒によって滅びたのだ。その目的を知るものは、もうどこにもいない。


 混乱を煽るものがいなくなり、人造人間によって起こされる事件も発生することがなくなった人類社会は、時間をかけて落ち着きを取り戻していった。

 社会に浸透した人造人間は、各々が出自を隠して人間として生きていくことになった。人造人間を製作する技術は彼らによって秘匿され、ロストテクノロジーとなる。


「俺が当時のことをこうして話せるのは、語り部として記憶を受け継いでいるからさ」

「ぼくらみたく、心もコピーしてるの?」

「ああ。別人の記憶を継承し過ぎると、自分が誰だか分からなくなる」


 あくまで人造人間の語り部として、彼は長い時間を産まれ直しながらも生き続けてきた。大多数の人が、人であることにこだわらなくなったとしても、原種としての人の在り方を保とうとし続けた。


「だからここに合流したのさ。ここなら、俺は人造人間であり続けられる。人間ではなく、な」

「そこに一線を引かれるのは、私の敬意に近い想いを抱いているから、でしょうか」

「ああ。古いものを先の時代まで伝えるのは、容易いことじゃない。伝えるものは違っても、俺自身そうしてきたからこそ、それがよく分かる。だから俺は、爺さんの最期に立ち会う一人になれて、良かったと思うよ」

「……ふたりとも良いなあ。話すことがあって」


 これまでロボットと人造人間の話を聞いてきたAIは、自身にもそういった何かがないかと記憶の中を探る。


「過去が無い、という訳ではないのでしょう?」

「こん中じゃあお前が一番若いんだし、無理もないさ」

「んー。……あ、あったよ。僕にもそういう話」


 ふたりみたいに、人類を滅ぼそうとした訳じゃないけどね。そう前置きをして、AIは自身の過去を語り始めた。


「自分の体を持たないでコンピュータ内で過ごす人たち、今すごく多いでしょ。実はぼく、コンピュータ内で産まれた最初の世代なんだ」


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