08 ピンクブロンドはかあちゃんにさようならを
「アンタ! なんで母親のワタシに教えなかったのよ!
そうすればこんなことには!」
「アタシは何度も言ったわよ。
この人をいじめたと取られるようなコトをするな。無駄金を使うな。
奉公人の首をポンポン切るなって」
「それじゃないわ! アンタが養子じゃなくてナントカだってことも!
嫌みで高飛車なあの女の娘が、この屋敷の主人だってことも!
アンタが言ってくれさえすれば、殺しておくことだってできたのに!」
あーあ。言ってしまった。
こういうこと軽はずみに思いついてやりかねないから言えなかったのよ。
「……毒でも手に入れるつもりだった?
それとも、ゴロツキでも雇って襲わせるつもりだった?
もしかして、自分で殺そうとした?
あのね。この屋敷にはアタシらの味方なんて誰もいないの。
事前に計画が漏れるに決まってるわ。
アタシら平民がお貴族様を殺そうとしたら、それだけで死罪よ」
実際やろうとしたらある程度は順調に進んでるように見えたでしょうね。
でもそれは泳がされているだけ。
証拠を全部揃えられて、平民の分際で貴族殺しとお家乗っ取りを企んだと断罪されて、一家全員死罪。当然、アタシも巻き込まれる。
「今の発言は、罪になるんですか?
計画を立ててたこともないらしいですけど」
こんなことを訊いてしまうなんて、アタシもまだまだね。
切り捨てるつもりでも、そんな簡単には割り切れない。
マカロンお嬢様が答える前に、背後のニヤニヤ少年が。
「なんないだろうね。
だって今の今まで考えてなかったみたいだし。
考えただけで殺人計画なら、
王族から貴族からみんな処断されてるだろうからね」
「あ。そう」
これで、かあちゃんもおっさんも死罪にはならずに済むようだ。
一応産んで貰った分の義理は果たしたと思う。
そう思うしかない。
でも、それは自己弁護でしかないのかもしれない。
だけど、それでもアタシは未来を。
マカロン嬢が、目の前の騒ぎを打ち切るように告げる。
「……お父様とこの女を地下室へ」
「承知しました」
執事が目で合図すると、屈強な奉公人達が、かあちゃんとおっさんを取り押さえ部屋から引きずり出した。
我ながら薄情な娘だ。
何も感じない。
血の繋がった他人としか思えない。
そう思うしかない。
ぎゃあぎゃあと喚く見苦しいふたりが消えると、アタシとニヤニヤ少年、淑女と執事だけが残された。
「薄情な娘ですわね」
「育てられた覚えもなければ、愛された覚えもないので。
それに一応、おっさんはマカロンお嬢様の父親でもあるでしょ」
「……お互い薄情ですわね」
それに。
四年前、娼婦の鑑札を持っていないアタシを襲ったヤツ。
アイツからかあちゃんが金を貰っていたのを事前に見ていた。
アタシは、長い間、それ以上考えるのをやめていた。
娼館で生き残るには、物を考えるのを止める才能が必要なのだ。
でも、もういい。
ヤツにアタシを売ったのはかあちゃんだ。
そういうことだ。
さようならかあちゃん。おそらく永遠に。
さようなら……。
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