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04 ピンクブロンドの呪いというたわごと


『ピンクブロンドの呪い』は、起承転結のカタが決まっている。


 卑しい生まれのピンクブロンドとその母親が、愚かな男を欺して侯爵家に入り込み、正しい血筋のお嬢様(ヒロイン)を虐げる。これが起承転結の『起』。

 お嬢様(ヒロイン)に味方する奉公人達を次々と辞めさせ、お嬢様(ヒロイン)自身も本宅から離れへ追い出す。

 そして卑しい親娘はお家の乗っ取りを企み、お嬢様の婚約者(バカ)を淫らな手段で誘惑して奪い取る。

 ピンクブロンドは得意の絶頂。この辺りまでが『承』

 だが、事態は一転、その罪を徹底的に暴かれ破滅する。この辺りが『転』

 そんな下劣で愚かな親娘の破滅にすら、正しい血筋のお嬢様(ヒロイン)は涙を流してくださったりする。


 そして『結』は……。


「君は断罪されるけど、ヒロインの慈悲で修道院送り。君の両親は鉱山送り。

 んで、ドアマットヒロインには、絵に描いたようなヒーローが現れて、幸せになる。

 正義は栄え悪は滅びる。っくっくっく。様式美だね」

「ドアマットヒロイン?」

「下々の間では、血筋がよろしいのに虐げられているヒロインを、そういう風に言うらしいよ」


 目の前のニヤニヤ笑いにうんざりして、アタシは窓を見た。


 森のような木々が窓の外を流れていく。

 貴族という蛇どもの巣を囲む木々だ。

 3年間過ごしても、アタシとは縁遠いままの世界だ。


 どこか遠くで、真夜中の鐘が鳴るのが聞こえた。

 日付が変わったのだ。

 アタシの義姉(ヒロイン)であるマカロン嬢が18歳になった。


「それにしても眼福だね。髪を染めず、伊達メガネもかけていない君を見るのは」

「じゃあ交換する? 鏡でいくらでも好きに見られるわよ」

「交換するほどボクの顔が好きってことかな?」

「アンタの顔とも交換したいほど、この顔が嫌いなのよ」

「うーん、でも交換しちゃったら、君の刺激的な格好も見られなくなっちゃうから遠慮するよ」


 馬車が止まった。

 高い塀に囲まれた木立の向こうに、大理石の豪邸が見える。


 あそこに、ついさっき18歳になったマカロン嬢がいる。

 勝利を確信して、愚かな両親とアタシを破滅させる準備万端を整えている。


「さて、淑女の中の淑女に勝つ自信のほどは?」

「あると思う?」


 この勝負の勝敗は最初から決まっているのだ。


 向こうはアタシを破滅させられる。

 アタシは、向こうを破滅させることはできない。

 持っているカードが悪すぎる。ブラフもできやしない。

 お貴族様は、お貴族様というだけでアタシら平民に対して圧倒的なのだ。


 今までだって何人、いや何十人ひょっとすると何百人ものピンクブロンドの義妹が破滅してきたのだ。全員が全員、玉の輿を狙うバカだったはずもないのに、確実に破滅している。

 多分、何人かは罪をでっちあげられ、無理矢理破滅させられたのだ。


 アタシは勝ちなんて望んでいない。

 望みは、ささやかな引き分け。

 でも、それすら、あやうい。

 だから、コイツというジョーカーまで準備した。


 鉄の正門が、耳障りのする音を立てて開く。

 アタシ達を乗せた馬車は、蛇の巣へ滑り込んでいく。


 さぁ退却戦の始まりだ。一歩間違えたら殺される。


「いい? アンタは余計なこと喋らないこと」

「へいへい。仰せのままに。ゆっくり見物させて貰うよ」


 コイツはどうして自分が連れてこられるか知ってるだろう。

 知ってて何も言わないあたりが、食えない。

 だが、そういう性格だからこそ、土壇場になったらコイツに賭けるしか無い。


 ああ、嫌だ嫌だ。


 三年住んでもぜんぜん慣れないお屋敷に御帰還。

 といっても、アタシはすぐ学園の寮に入っちゃったから、この本宅にいた時間は、全部合わせても半年がいいところだから当然かもだけど。


 エスコートしようとするニヤニヤ少年の手を振り払って馬車から降りれば、見上げるばかりの正面玄関。人間の住むサイズじゃない。


 豪華な正面玄関ホールに足を踏み入れれば、奉公人達がわらわらと集まってくる。


 かあちゃんや実父が穴埋めで雇った奴等(ゴロツキ)は、いかにもダメそう。

 騒々しく、服装もだらしない。そのうえ手癖もよろしくない。

 アタシが知ってる範囲だけでも、ちょっとした備品や小金をちょろまかしたりするヤツばかり。


 元々いる人達は、どんな時でも落ち着いたもの。

 流石は一流の貴族の一流の奉公人。

 でも、その目には、卑しい生まれのアタシをさげすむ光がチラチラしてる。

 普通ならわかんないでしょうけど。

 アタシ、生まれ育ちのせいで、人の顔色うかがって大きくなったからわかっちゃうのよね。


 でも、安心して、汚物なアタシがここへ来るのも今夜限りだから。


「お嬢様。急なお帰りで。付けた者達も見当たらないようですが。何があったので御座いますか?」


 ロマンスグレーの執事セバスチャンが聞いてくる。先祖代々この家の執事だそうだ。

 名前も先祖代々セバスチャンなんだと。

 この男だけは、アタシを卑しんでる様子を一度も見せなかった。

 大したもんね。


「オペラ侯爵家のザッハトルテ様との間で重大事が出来しましたので、

 報告のため、急遽、帰ってまいりました。

 この家の重大事でもあるので、お母様とお父様にお話しなければなりません」

「おふたりなら応接室でお待ちです」


 アンポンタンな婚約者が、マカロン嬢からアタシに乗り換えたっていう報告を待ってるんでしょうね。

 バカな人達。


「誰も入れないように」

「承知しました。そちらのご令息は?」


 ニヤニヤ野郎は前へ進み出て


「バームクーヘン男爵令息のハイドと申します。

 こちらのお嬢様が急遽お帰りの様子だったので、送らせていただきました。

 それに会場で起きた件について第三者の証言も必要かと」


 完璧な平凡さ。

 これなら有象無象の男爵家のパッとしない令息にしか見えないわ。


 さぁ戦闘開始ね!



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