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28 ピンクブロンドはイヤな予言を聞かされる。

「なんかさぁ。ふたりきりで狭い空間にいると、いかにもつきあってるって感じだよねぇ」


 いつ見てもイラッとするニヤニヤだわ。

 こうやって至近距離で見るとなおさら。


「で、フリってなによフリって」

「うーん。フリじゃイヤ? 本気でつきあう?

 ボクは別にどっちでもいいけど」

「ちがうわよっ」


 始終イラッとするヤツとつきあえるほど、アタシは心が広くない。


「ボクにキュンとなってても不思議じゃないと思うんだけどなー。

 あの婚約破棄騒ぎでは、プライスレスで協力したし、

 今回だってこうやって特待生失格危機に参上したわけだし、

『こいつってばアタシに惚れてるわね』とか

『ピンチになると必ず助けてくれるナイト様』とか

 勘違いしてもいいじゃん」


 だってアンタ、特等席で楽しんでるだけじゃん。


「自分で『勘違い』って言ってる辺りでダメでしょ」

「だよねー」

「アンタ。アタシが怒るって判ってて、あの手紙と小瓶を渡したんでしょ」

「まぁねー。

 君が乗り込んできたらモンブラン女侯爵がどう反応するか、見て見たかったんだよね。そんで君って甘ちゃんだからさ、罠にはめられて、拉致られちゃうとか期待したんだ。

 だけど彼女もボクが思ってたより、甘ちゃんだったみたいだね。つまんない」


 アタシの思い込みによる推理も、こいつに関してだけは当たらずとも遠からずだったらしい。


「……そんなことほざくヤツとつきあうワケないでしょ」

「だから、フリじゃん」

「そもそも、どうしてアレをアンタがもってたのよ」


 おねえちゃんとコイツが組んでいたのなら、話は簡単だったんだけど。  


「君ってさ、学生としては問題児じゃないけど存在としては問題児じゃん。

 学長とかも出来れば君を退学にしたかったみたいだけど、問題起こさないからそれも出来なかったんだよね。だからなるたけ君と関わりたくないみたい。

 困ってたようだったから、ボクが渡しときますって言ったら、ホッとしてたよ」

「なによそれ。ふざけてる」

「まぁそんなわけで、君は扱いが面倒な危険物ってみなされてるのさ。

 君が無事卒業して消えてくれると、中等部の教職員はホッとするだろうね」


 ニヤニヤ少年は相変わらずニヤニヤしたまま続ける。


「で、今度は高等部がその危険物を引き受けるわけだ」

「アタシのどこが危険物だっていうのよ」

「なんせ『不純異性複数肉体交友で必ず問題を起こすピンクブロンド』だからね」

「問題起こさなかったし!」

「そこは学長も不思議がって不気味がってたよ」


 不思議なんか!


「『ピンクブロンドの呪い』ってたわごとは終わったでしょ!」

「確かにね。

 君は貴族ども達にとって

『ピンクブロンドの呪い』から『ピンクブロンドのトロフィー』に変わったのさ」

「どういう意味よ」


 碌でもない言われようって事は判るけど。


「今の君は、貴族令息どもにとって『たらしこんで手に入れれば自慢できる存在』ってこと。

 なんせ、モンブラン侯爵家に泥を塗った上で生き残った珍獣だからね。

 そんな女を貴族の優雅な手練手管でハントして……メロメロにしてたっぷり遊んで楽しんで」

「ゴミのように捨てるって?」

「正解!

 (オス)として貴族として自尊心が満たされまくって最高でしょう」

「……娼館にやってくる奴等と変わんないわね」


 裸にすればみんな同じ。


「君が高等部に入ったら、下心と征服欲でパンパンに膨れ上がった奴等が、わんさか押しよせてくる。

 有名になりすぎたせいで、髪を染めても、伊達メガネをかけても、奴等の下心に対する防壁にはならないだろうなぁ。

 かえって、変な同情されるだけになるだろうね。

『なんてかわいそうなピンクブロンドなんだ! 俺様が助けないと』ってね。

 君は、そういう手合いには引っかかりにくいだろうけど、ウザクは感じるんじゃないかな?」


 想像しただけでウザッ。


 アタシは、押しよせてくるヤツらを、波風立てないように断り続ける。

 すると今度はお高く止まってるってなじられたり、陰口を叩かれるようになる。

 自分の気を引くためにつれない態度をとってるとか勘違いする奴等も出る。

 そいつらに婚約者とかいた日にゃ、アタシは婚約者を誘惑しまくってるとか言われて、同性も敵に回すはめになる。


 あーやだやだ。


「ところが、そのピンクブロンドが、よりによって最下級の貴族のガキにメロメロってなれば、

『呪われたピンクブロンドだったくせに、ずいぶんとやっすい相手を捕まえたモンだ、所詮その程度の安い女なのかぁ、しょうがないか卑しい平民だからな。そんなのに手を出したら貴族の名折れだ……』ってなことになる」


 最下級、ね。

 突っ込まないけど。


「確かに、アンタ冴えない顔してるし、何もかも平凡だし。

 いつもニヤニヤしてるし、誠実さもないし。

 そんなのと付き合ってる女は趣味悪く見られてもしょうがないわね」


 とちょっとだけ嫌みをこめて返すけど、こいつは馬耳東風。


「しかもボクはどう調べてもしがない男爵家の令息。

 誰かの側近候補ってわけでもない。上へつながるツテもない。

 ボクを踏み台にして玉の輿狙いだ、とかの見当外れの陰口も言えない」


 アタシは、いつか必ずそういう行動をする、って見られてるワケね。

 ヤレヤレだわ。


「しがない男爵家と言っても貴族は貴族。

 グリーグ学園の高等部は子爵家令息以上はほぼ入学してこない。

 となると男爵令息でもいい弾よけになるってわけさ」

「……彼氏がいる女をモノにしたがる困ったゲスが出るだけよ」


 ニヤニヤ少年は、妙にさわやかに笑う。


「くっくっく。

 いいじゃんいいじゃん。

 困ってる君の前に、颯爽と現れて助けるっていうなかなか面白い演技ができるしね!

 楽しみだなぁ」


 こいつなら、アタシが困ってるのを見て、ニヤニヤしてそうだけど。


「どう? 悪くない話でしょ」

「アタシの得はわかったわ。なんかむかつくけど。

 で、アンタの得は?」

「話したじゃん」


 イヤな笑いだわ。


「……まさか。

 アンタみたいな男爵令息ごときがアタシと付き合ってれば、あの『ピンクブロンド』をたらしこんだっていうことで、アンタに対する男どもの評価はうなぎ登りってことなの?」

「そうそう。

 んで、ないことないこと喋りまくるわけ。

『あんなだけど、ベッドの中ではかわいいんだ』とか。

『下も見事なピンクブロンドなんだぜ』とか。

『娼婦あがりだけあって、すっごいテクニックなんだ』とか。

『でも今では、ボクのにメロメロなんだぜ!』とかね。

 若い男ってそういう話を聞くのが大好きだからね! くっくっくっく」


 うわ。

 こいつってば最低。


「あ。引いた?」

「引くわ! 降りる!」

「まぁまぁ落ち着いてよ。

 ホラ吹かれるのがイヤなら、本当にすればいいだけだし。

 せっかくだから、ここで今からしてみる?」


 アタシは溜息をついた。


「アンタ、そういうのしないでしょう」

「あれ? あれれ?

 もしかしてボクって信頼されてる?」

「してないわよ。

 でも、アンタはしないって判るわよ」


 コイツはイヤなヤツだ。

 いつも高みの見物で、ニヤニヤしてる。


 だけど、性的にイヤらしい視線で見られたことはない。


「いやー判る? 愛を感じちゃうなぁ」

「判るだけよ!」


 ニヤニヤ少年は、珍しくアタシから視線をそらして窓から外を見た。


「ちっちゃいころからボクはすっごく女に興味があってね。

 だってさ、歴史とか読んでるとさ、女で身を滅ぼした英雄とか多いじゃん。

 実際、父親は女が大好きで、とっかえひっかえだし。

 でもさ、周りの女に人たち見てても、なんで身を滅ぼすほどのめりこむのがわかんなかったんだよね」


 懐かしそうに語るコトかよ。


「だからさ、ある日、おつきの侍女に、裸になって全部見せてよって頼んだんだ。

 いやがったけど、ほら、ボクって我が儘でロクでもないから権力ちらつかせたわけ。侍女じゃ坊ちゃんの命令には逆らえない。

 わくわくしたなぁ。これで世界の素敵な秘密があかされるんだって。

 ボクも女に溺れちゃうんだろうってさ」

「その口ぶりからすると、期待外れだったみたいね」


 ニヤニヤ少年は、ひどくつまらなそうに。


「まぁ、ね。

 全部脱いでもらって、色々なポーズしてもらって、隅から隅まで見たけど。

 見ただけじゃなくて、触ったりなめたり吸ったり広げたりもしたんだけど。

 ああ、こんなものかって。

 これで殺し合ったり、滅びたり、ドタバタするってわかんないなぁって。

 構造自体はさ、犬や猫と大してかわんないしね」


 こいつは、もしかしたら好奇心の化け物なのかも。


「……その侍女の人はどうしたのよ」

「ボクが『なんだこんなもんか』って言っちゃったら、呆然として、泣きだしたなぁ。

 それからすぐ辞めちゃった。

 でも、ボクに世界の秘密を教えてくれたわけじゃん。

 父親に『ボクをとってもよく世話してくれたからいっぱい報いて』ってねだってさ。たっぷり払ってもらったよ」


 ふぅ、と溜息をつく横顔は、珍しくサマになってたけど。

 話してることはサイテー。


「次に、もしかしてボクは男に素敵な秘密を感じるのかなって。

 今度はおつきの男でやってみたけど。やっぱりピンと来なかったよ」


 うわ……。

 その人がどうなったか聞くのは我慢した。

 どうせ碌な結果ではないだろう。


「まぁそんなわけで。

 君に対して欲望とかないんだよね。

 そんなボクから見ても、君の見てくれは、きれいだと思うけど」


 コイツにはハナから異物感を感じてたけど。

 ホント、異物だわ。


「……聞きたくもない話を聞かされたわ」


 ニヤニヤ少年は肩をすくめた。

 そして視線をアタシに戻し、


「で、どう? 付き合う?」

「そんなキモい昔語りされたら、

 付き合う気があったとしても、その気が蒸発するわよ」

「だよねー。でもあくまでフリだからさ」

「フリでもいやなこった」


 ヤツは大して残念そうでもない顔で、


「そっかー。残念だなぁ。

 君が単に計算高いだけのピンクブロンドなら、

 断らなかったんだろうなぁ」


 そして珍しく、実に楽しそうに笑って言った。


「ま。そんな君じゃあ面白くもなんともないか」


 アタシは睨んでやった。


「アンタを面白がらせるために生きてるわけじゃないわよ」

「クックック。

 君がどう思おうと、あと4年は同じ学び舎に通うことになるんだけどね」


 そうなのだ。

 アタシとアンナがグリーグ高等学園に進学するのと同じく、コイツも進学するのだ。


「どうせ、これからの4年間。

 君はいろんなことにまきこまれるだろうからさ。

 面白いものが見られそうだよ」

「イヤな予言ね」


 ニヤニヤ少年は、イラッとする笑みを浮かべて、


「予言じゃないよ。決まってることだよ。

 だって君は、『珍しく生き残ってるピンクブロンド』なんだから」


次回で最終話です。


もし読んでみて面白いと思われましたら、ブクマ・評価・感想などお願いします!


お暇でしたら、他のお話も読んでいただけると、更にうれしいです!

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