26 ピンクブロンドはヒロインと約束する。
「わたくし、フランを知れば知るほど好きになってしまって。
だって、こんなに素敵な妹なんですもの。
きっと妹じゃなくても好きになっていたはずですわ。
でも、自分のせいで、もう二度と会ってもらえないって思って……
報告書を読み直したり、貴女との貴重な会話を思い出したりで、一日一回は泣いてましたのよ」
「なっ泣いてた……?」
このひと、なにを言ってるの!?
それに会話って言っても、慇懃だけど非友好の極みだったじゃない!
しかも、アタシの呼び名がフランに戻ってるし!
「当たり前ですわ。
こんなに素敵で健気で努力家で、でも心がまっすぐで、
情にあつくて、しかも美人な妹と二度と会えないんですもの!
泣きますわよ! 貴女にも素敵な妹が突然現れたら判りますわ!」
この人、アタシのこと言ってるんだよね?
別人にしか聞こえないんですけど!
この世界のどこかに、フランボワーズっていう女がもうひとりいるんですか?
「それなのに、フランはわたくしに会いに来てくれましたわ!
もう、お屋敷中大騒ぎで」
「なんで大騒ぎになるのよ!」
「わたくし、フランへの仕打ちを心から反省して、
身近からそれを示そうと思いましたの。
まずは、奉公人達が持っているフランへの誤解を解くことから始めましたのよ」
なにやったんだこの人!?
「お屋敷に勤めている奉公人達を全員集めて。
フランがいかに頑張り屋で、諦めない心の持ち主で、賢い子か!
そして過酷な日々をいかに生き抜いてきたかを、知ってる限り語りに語りましたのよ!
わたくしの権力を暈に着た非道な仕打ちの数々に、知力体力を駆使していかに見事に立ち向かったのかを! そしてわたくしが自分の行為をいかに悔いたかを!
皆、最後には涙涙で、貴女にしてしまった仕打ちの数々を振り返る大反省会になりましたのよ!」
「……」
うわ……。
だから、ああいう風に迎えられたのね。
あの歓迎ぶりは芝居じゃ無かったってこと……?
って、ダメよ! また欺されそうになってる!
「貴女が来てくれて、わたくし、いえわたくし達がどれほど舞い上がってしまったことか!
憎まれてても仕方がないですけど、せめて話は聞いて欲しい! その一心でしたわ!
そうしたら、月に一度は来てくれるなんてやさしいことを言ってくれるんですもの!
フランはやっぱりやさしくて情に篤い子でしたわ!」
だって、あんまりこの人が、やさしくて。
欺されてもいいなんて思ってしまって……。
でも、もしかして、アタシ、欺されてなかった……?
だから、欺されちゃダメよアタシ!
「そうなると、貴女ともっと話したい。少しでも引き留めたい!
そう思ってしまうのも当然ですわ!
だから、一緒にお風呂に入ろうと思ったんですの!」
「……」
アタシはポカンとしてしまった。
一緒にお風呂に入ろうと思った?
嘘をつくなら、もっとマシな嘘があるでしょうがっ!
「わたくし、どこかで聞いたことがありましたの。
親しくなりたかったら、裸のつきあいがいいと。
でも、裸を見せ合うなんてはしたないですし、
相手が異性ならどんな間違いが起きるかわかりませんわ。
ですから、ずっと忘れていたんですの」
お願いだから!
忘れたままでいてよ!
「でも、わたくしはどうしても、ほんの少しでもフランと仲良くなりたくて!
隠し立てをしていない事を示すために何もかも脱ぎ捨てて裸でぶつかろうと決心しましたの。
それに幸い同性ですもの、間違いが起きる気遣いはありませんし!」
「その口実が……髪だったってこと……?」
なにこれ。
この人……バカじゃないの?
い、いやいや。
アタシは二度と欺されないんだから!
「ええ! フランの髪が傷んでるのに気づいて咄嗟に思いついたんですの!
お風呂にいけば、ふたりとも裸になるしかありませんもの。
裸のつきあいになりますわ!」
なりますわって……。
「ちなみに、お風呂の用意がしてあったのは本当ですわ!
だって、入浴が嫌いな人なんていませんもの!
ですけど皆様遠慮なさって、お入りになる方はおりませんのよ」
そりゃそうでしょう。
真っ昼間から他人の屋敷のお風呂に入るとか! 普通しないから!
というかお貴族様でもその辺は変わらなくてちょっとホッとした。
「ですけど、貴女は酷い場所でも必死に貞節を守ってきた子ですわ。
同性とはいえ肌身を見せるのに、抵抗があるにちがいありません。
だから、思い切ってわたくしが先に脱ぎましたの。凄く恥ずかしかったですわ」
「え……堂々と見えたけど……」
「そんなことありませんわ!
わたくしが、すぐ裸になる破廉恥な女とフランに思われるのも怖かったですもの。
ですが、貴女と親しくなるために覚悟を決めて、思い切りましたわ!
貴族は常に堂々としているのも仕事ですものね!」
あれで……恥ずかしがっていたのか……。
「わたくし誤解してましたわ。
フランが男達から必死に貞節を守っていたのは報告書で存じておりましたから、
てっきり傷だらけかと思っていたんですのよ。
そうしたら……」
マカロンお嬢様は、ポッと頬を染めた。
「余りに愛らしく綺麗で……見惚れてしまいましたわ。
こんな素敵な子が、わたくしの妹……。
心根がよくて、賢くて、こんなに綺麗とかありえませんわ!
なんて素晴らしいんでしょう!
わたくしその場で神さまに10回連続して感謝しましたのよ!」
「10回も!?」
「11回だったかもしれませんわ!
それくらい感謝しましたのよ!」
ああ、でも。
あの時、アタシだって思っちゃったんだ。
この人は、あたしが夢見てたおねえちゃんだって。
ぴかぴかのキラキラのおねえちゃんだって。
「同時にこうも思ったんですの。
ああ、もったいない! この子は磨かれていない原石!
磨いたらどこまで綺麗になるんでしょう!
ならば、わたくしが磨くしかありませんわね!」
ぐっと拳を握るマカロンお嬢様を見ていると。
つくづく夢と現実は違うよねって思う。
この人はアタシが夢見てたおねえちゃんじゃない。
「わたくし、本当はバスタブにふたりで仲良く浸かりながら、
たっぷりと裸のおつきあいをして、仲良くなる計画だったんですのよ。
でも、フランの愛らしくて綺麗な体を見ていたら、ついつい夢中になってしまって、
化粧品を試すために身につけたテクニック全てを注ぎこんでましたわ!」
この人は……アタシが思い込んでいたのと全然違う人だ。
冷酷な貴族な面もあるけど、こんなバカでかわいらしい面もある人なんだ。
「ですからロクに話もせず、退屈させてしまったと思いますの。
ごめんなさいね。本当に反省してるんですの」
どうしよう。
アタシはすごく誤解してたのかもしれない。
ううん。かもしれないじゃない。
誤解してた。
アタシの小うるさい理性が『信じるな』って叫び続けている。
でも、アタシを欺すために、こんな馬鹿馬鹿しくて愛らしい嘘をつく人なんていない。
きっと、この人は、ほんとうのことを話してる。
っていうか。
あのニヤニヤ少年がこの人と手を結んでたってアタシの推測だって、
状況証拠と思い込みの塊で、バカバカしさではそれほど変わんないわね。
この人がアタシを『呪われたピンクブロンド』としか見ていなかったのと同じで。
アタシもこの人を『ピンクブロンドを叩き潰す貴族』としか見ていなかったんだ。
アタシは、心に決めた。
この人を信じる。
マカロン・モンブラン女公爵を。
マカロンお嬢さんを。
アタシの義姉を信じる。
夢見たおねえちゃんとは違うけど、あんなに完璧じゃないけど。
それでも、この人はアタシのおねえちゃんだ。
簡単にはおねえちゃんなんて言ってやらないけど。
ちょっと怖いけど。信じる。
そこからしか始まらないから。
「うー。やっぱり許して貰えないですわね……」
あ。シュンとしてる。
許したくなっちゃう。
でも。
ここで許すって言っちゃうのも、なんか、ね。
アタシを一時とはいえ本当に絶望させたんだから。
なんかお返ししてやらなきゃ気が済まない。
「……次の時には、アタシに貴女を洗わせてくれれば許すわ」
あ。なんかアタシ偉そう。
「そ、そんな恥ずかしいですわ!
それは! それだけは許して欲しいですわ!」
あ。ほんとうに恥ずかしいんだ。
「なら許さない。
それに、アタシに洗い方とか教えてくれるなら、
アタシだって実際にやってみないとダメだもん」
「それはもっともな理由ですわね……」
マカロンお嬢様は、しばらく悩んでいたが。
「ん? ということは!
もしわたくしが恥ずかしいのを我慢しさえすれば、
また来てくれるんですのね! なら、いいですわ!」
あれ?
それって、アタシもまた生まれたままの姿になって、
裸のつきあいをするってこと……?
あんなところやそんなところを全部見られて!?
下手したらまた整えられちゃうってこと!?
うわっうわっうわっっ。
それってすごく恥ずかしい! 自爆しちゃったかも!
「うれしいですわっ!」
でも、感極まったマカロンお嬢さんに抱きつかれると。
仕方ないなって気持ちになっちゃった。
アタシはこの人を……好きになっちゃう予感がした。
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