25 ピンクブロンドは見知らぬ天井を見る。
目が覚めると、視界いっぱいに豪華な天井が飛び込んで来た。
天使とか精霊とか、そんな感じの女の人が飛び回っている絵が描いてある。
「え……」
アタシはまっしろな浴室にいたはずなのに。
「あ……」
そうだった……。
夢のおねえちゃんに化けたマカロンお嬢様に抗えなくて。
体をさんざん弄ばれて、ゲス男を喜ばせるための化粧をされたあと、
化粧品に偽装して塗り込められたクスリで眠らされちゃったんだ。
慌てて自分の体を触って確かめる。
下着もなんにもつけてないタオル一枚だけの恥ずかしい姿だけど、違和感はない。
眠っている間に辱められてはいないみたい。
焼き印を押されたり、ピアス穴を開けられたり、入れ墨をいれられたりもしていなそう。
縛られても、手かせをつけられてもいない。
裸のままなことに恥ずかしくなると同時に、ふつふつと怒りも湧いてくる。
もちろん眠ってしまう前の自分に対してだ。
あの時、アタシはすっかり諦めていた。バカよ!
なにが、アンタの勝ち! だよ。
相手が最後の最後で油断することだってありうるのに!
それに、一度負けたって、辱められたって、生きてればその次があるかもしれないんだから!
状況を確認しないと。
見知らぬ部屋に全裸で寝かされてるっていうのは、いい状況でないとは思う。
辱められていないのは、これから辱められる、ってだけだろう。
だけど、目を背けてたらチャンスは掴めないもの。
アタシはフワフワして高そうな掛け布団を胸の辺りに引き寄せながら、なるべく音を立てないように上半身を起こして、改めて周りを見回す。
天井だと思ったのは、ベッドの天蓋。
ベッドは一人用とは思えないくらい大きい。
ここの主人は、女の子を同時に何人もベッドに引っ張り込む人間らしい。
娼館で大きなベッドの使い道といえばそれしかなかったもの。
差し込んで来る日差しからすると、まだ夕方にはなっていない。
そして、なぜか聞こえてくる寝息。
枕元に誰かいる。
アタシは音を立てないように慎重に、枕元を見た。
「すー……すー……フランってばかわいいですわ……むにゃ……」
「!」
おっおねえちゃん!?
思わず声をあげそうになって、慌てて口を塞ぐ。
起きたのを気づかれたら、何をされるかわからないもの。
マカロンお嬢様は、ベッドに向かって跪き、枕元で組んだ腕に頭を乗せて、アタシを見守る姿勢で、すやすや寝ている。
なぜ、どうして!?
アタシは、眠らされている間に、ゲス男に売り飛ばされたはずなのに。
どうしておねえちゃん……じゃなくてマカロンお嬢様がいるの!?
しかも、寝ているアタシを見守ってます、みたいな態勢で!?
アタシを罠にはめるのに大成功したんだから、お芝居を続ける必要なんかないはずなのに。
それとも、辱められて泣き叫ぶアタシを見物に来たの?
でも、それだったらここで寝てないわよね。
起きたアタシが一か八かで襲ったりするかもしれないもの。
貴族のお嬢様だから護身術くらい身につけてて素人のアタシならどうとでも出来るってこと?
あー判らない!
アタシは思わず頭をかきむしった。
もしかしてクスリでも打たれて記憶が飛んでるとかなの!?
既に余りに非道な辱めをうけてしまっていて、心を守るために色々忘れてる、とかっ?
「うーん……あら、起きましたのね!」
邪気の全くない声。
アタシの体を弄んでいた時と、全然かわらない声。
警戒心が抜かれそうになる声だ。
でも、今度は油断しないんだから!
「ここは、どこなの!?」
お嬢様は、まだちょっと眠そうで、目をこすりながら。
「わたくしの部屋ですわ」
「ど、どうしてっ!? だって、あのまま、アタシ」
あのまま売り飛ばされる筈だったよね!?
もしかして、アタシに敗北を自覚させるために、起きるまで待っていたの!?
でも、それなら、こんなふかふかのベッドに寝かせておかないで、素っ裸できつく縛って床にでも転がしておくわよね。
「ええと……その、やる予定にないことまでしちゃって随分と時間がかかってしまってのだけど」
「なによ! その予定になかったことって!?」
思わず聞いちゃったわよ。だって凄く不安になるじゃん!
「あ、あのね、その……お手入れしてないみたいだったから、
やりすぎかなとも思ったのだけど、脚の付け根とか思わず整えてしまいましたわ。
余りに綺麗なピンクブロンドなので、ぜんぶは剃りませんでしたわ!
トランプのハートの形にしておきましたのよ!
もちろん、傷一つつけませんでしわよ!」
アタシは思わずタオルの下を覗き込んだ。
「!」
綺麗に整えられちゃってる!?
「う、うあ」
「でも、その、フランが余りに可憐でちっちゃくてかわいいんで、他の部分もたっぷり時間をかけて丁寧にやったのだけど、それでもまだフランはぐっすり寝てて。
寝顔がすごくかわいくて……ああ、こんなにも綺麗で、性格もいい女の子がわたくしの妹なのだと思うと、うれしくて、ついつい、しばらく眺めていたのですけど」
起こしなさいよ!
というか、勝手にアタシの恥ずかしい部分をキレイにする前に起こせ!
「いつまでも愛らしい裸のままだと風邪をひいてしまうけど、起こすのもまたかわいそうでしょう?
ですから、ベッドごとわたくしの部屋まで運ばせましたわ。
あ、フランの生まれたままの姿はわたくししか見てませんわよ!
ちゃんとタオルでくるんでからベッドに移しましたもの!」
一瞬。
お嬢様がベッドを運んでいる絵が浮かんだけど、奉公人さん達が運んでくれたんだろう。
だけど、どうして!? 辱めるなら裸のまま運ぶよね。
確かに、アタシに巻かれているタオルは、あのベッドに敷かれてたのけど。
無理矢理剥ぎ取るのが趣味とか!?
でも、それなら服を着せるはずよね……。
なんなの?
この人、何を企んでアタシを眠らせたりしたの?
辱めるためなのになんでわざわざ手間をかけるの?
わけがわからない!
「わたくし、フランに謝らなければなりませんわ」
「え」
何で謝られるのか判らない。
いや、売り飛ばそうとしたのが悪い、とかなら判る。言うはず無いけど。
それとも、これはブラックユーモアで『その埋め合わせとして男と遊ばせてあげる』とかに続くのかしら。
ああ、もう。さっきからお嬢様の考えてる事が全然判らない!
「え、ええと、なに……が? それにさっきから、フランって」
「フランボワーズだからですわ。仲が良い姉妹みたいでいいと思って……嫌ならやめますわ」
「……嫌です」
どこが仲がよい姉妹よ。
本当に仲がよかったら、アタシが欺されて裸にされてるのってありえないでしょうが!
「くっ。仕方ないですわね」
「何を謝るって言うのよ!」
「退屈しましたわよね?」
「は?」
この展開のどこに、退屈という言葉が入ってくるの?
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