19 ピンクブロンドは蛇の巣へ乗り込む。
わきめもふらずに歩きながら、アタシは思った。
アタシはバカかと。
多分、自分が思っているよりバカなのだ。
最初の罠をかいくぐり、次の罠もアタシが知らないところで壊れてた。
アタシは『ピンクブロンドの呪い』を生き残った。
なのに自分からアタシを狙う蛇の巣へ足を踏み入れようとしている。
マカロンお嬢様とは、一生関わらないのが安全。
そんなことは判っている。
今のこの瞬間だって、アタシの冷静な部分が『バカはやめろ』と喚いてる。
だけど足は止まらない。
どうしても言ってやりたいのよ。
アタシは、どんな目にあっても、そんなに簡単には死なないんだからって!
あんな贈り物なんていらない!
アンタからなんてなんにもいらない! ただ放っておいてほしいって!
それに、何が破滅なんだか、ふざけるんじゃないわよ。
こちとらから見れば、何も失っていないじゃない!
破滅したとか、終わったとか悲劇のヒロインみたいぶるお嬢様に、なーにが破滅だって!
破滅ってのはね。
『あーはめついですわ、かなしいですわぁ。おほほ』みたいなもんじゃないのよ!
ドロドロで、惨めで、取り返しがつかないもんのことなのよ!
確かに、グリーグ学園にも、モンブラン侯爵家の破滅と凋落っぷりは伝わって来た。
事情通ぶった下級貴族子弟のクラスメート達が、評論家づらしてピーチクパーチク言ってた。
侯爵家を訪ねてくる貴族達は激減し、パーティにも招待されなくなった。
モンブラン侯爵家はもう終わりだって。
みんな、そういうものなのか、高位貴族ってサバイバルだね。大変だねって。
判ったような顔で納得してるフリしてる。
でも、アタシに言わせればバッカバカしい。
だって何も失ってないじゃん!
凄いお屋敷に住んでて、領地も資産もたっぷりあるんだから!
それを元手にすればなんだって出来るじゃない!
少なくとも新しい明日へやり直しだってできるじゃない!
ふっざけんなぁっ! 考えるとやっぱり腹立ってくる!
破滅したんでしょ? だったらこのプレゼント返すから使ったら?
アタシが絶望したら使えっていうんだから! 自分で使ったら?
どうせ自分が使うなんて考えてないから、恩着せがましく使えとかほざけるのよ!
それにしても、まだ肌寒いのに汗かいちゃうくらい歩いてるのにまだつかない。
無駄に大きな区画ばっかり。
庭にはえてる木々が、森みたいに茂ってるわ。
お貴族様だって、生きてくのに必要な空間なんて平民と変わらないでしょうに。
そういえば馬車に乗らないでここへ来るのって初めて。
馬車で移動する前提で出来てんのね。
歩きなさいよ! 歩かないからアタシに一発殴られたくらいでダウンしちゃうのよ!
道の石畳は手入れが行き届いててキレイ。
学園の周りなんか、石畳が波打っちゃっても半年は直らない。大違いだ。
雨が降ればぐちゃぐちゃ、日照りだと土埃まみれの娼館街や貧民窟とは別世界。
こんな中、着古した制服着て、汗まみれで歩いているアタシは、とっても場違い。
さぞ、ちっぽけで、みすぼらしく見えるんでしょうね。
そりゃ、片付けたくもなるでしょうよ。
でも!
それでも!
ひとこと言って突き返してやんなきゃ気が済まないのよ!
門前払いされたって入り込んでやる。
居候していた時、いつでも逃げ出せるように、お屋敷をしらべまくったのよね。
それで見つけたのよ。
塀の表面があちこち剥げてて、足がかりになる場所を。
そこから木を伝えば庭に降りられるの。
こんな勘違いでありがた迷惑な贈り物は、絶対に叩き返してやるんだ!
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