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15 楽しい暗黒ショーがはじまるよ♪

ついに、貴族による貴族のための裁判が、ピンクブロンド不在で開廷される。




 華やかな王宮の一角。

 豪華な調度に飾り立てられた大回廊から脇へそれ、少し入った所にその部屋はある。


 看板も場所表示のプレートもない、素っ気ない扉。

 そこで『高等特別裁定所』は開かれるのだ。


 王宮の中では地味な部屋のひとつで、中は、絵の一枚すらかかっていない白い壁。

 コの字方に並んだ机と椅子しかない。


 机は艶々とした黒い光沢をもつ南方の珍しい木の一枚板。非常に高価なものだ。

 よく見れば椅子も、細かい装飾が施され、名工が丹精込めて作り上げたものだと判る。

 だが、それを知っていたとしても、地味な印象は変わらない。


 そのうえ、頻繁に使われるわけでもない部屋なのだ。


『高等特別裁定所』とは、

 王族隣席の元に、貴族同士の婚姻解消。

 または、破綻に至った経緯の事実認定などを行う場なのだ。


 これは裁きの場ではない。

 高貴な血筋の人々のプライベートを見世物にするべきではない、という貴族達の尤もらしい主張が通り、こと貴族身分の婚姻解消関連に関する審理だけは、裁判所に管轄が移らなかったのだ。

 関係者は貴族のみ、という建前があったのも、この特権が貴族に残った要因だったのだろう。


 それに、ここで交わされる遣り取りは、全て儀礼的なもの。

 審理が行われる前に、関係する貴族達のあいだで事前折衝が行われ、実質的な審理は終わっている。

 貴族の婚姻が、王族の承認の元に行われるという形式を維持するためのみに残っているのだ。


 つまり。


 ここで行われるのは劇にすぎない。


 今回の劇の演目は


『マカロン・モンブランとザッハトルテ・オペラの婚約解消についての事実認定』だ。


 出席者は。


 モンブラン侯爵家当主、マカロン・モンブラン。

 オペラ侯爵家当主、ケーニッヒ・オペラ。

 ワッフル侯爵家当主、マンネルハム・ワッフル。

 シュプリッツ侯爵家当主、ザーリッシュ・シュプリッツ。


 そしてまだ姿を現していない、第二王子フェルディナンド。


 破綻した婚約を、どう処理するかを話し合うのだ。


 だが、それは表向きでしかないことを、出席者全員が知っている。


 これはモンブラン侯爵家に発生した『ピンクブロンドの呪い』を処理するための集まりなのだと。


 遺憾ながら、モンブラン侯爵家に現れたピンクブロンドは、未だ処理されることなく、グリーグ中等学園に通っている。


 第一の罠であった婚約破棄が行われる筈のパーティ会場で、婚約破棄が行われず。

 第二の罠であった事前の婚約解消も婚姻成立も法律を盾にくぐりぬけられ。

 第三の罠であったモンブラン侯爵家の資産横領の件でも、逃げ切られた。


 しかも、今回のピンクブロンドは遣り手の法曹家まで準備しており。

 上記の件に関しては、全て無効であるという正式な書類まで作られてしまったのだ。


 ピンクブロンドの両親こそ収監できたものの、肝心のピンクブロンドは、自由の身のままだ。


 この間違いは正さなければならない。

 ピンクブロンドは滅びなければならないのだから。


 審理に先立って、モンブラン侯爵家の新当主であるマカロン・モンブランは、さまざまな交渉を行った。


 廃嫡され平民落ちが決まったザッハトルテ・オペラへ、所有する小さな飛び地を与え、新たな男爵家を作らせた。

 更にオペラ侯爵家とは、共同事業におけるオペラ侯爵家の取り分を割り増す協定を結んだ。

 ワッフル侯爵家とシュプリッツ侯爵家には、まだ開発途上の鉱山の経営権を譲渡した。


 それらには全て説明可能な理由があり、断じて賄賂ではない。

 高貴な人々は不正などしないのだ。


 男爵家を作らせたのは、元婚約者を哀れんでであり。

 取り分を譲ったのは、オペラ侯爵家のほうが、より多く投資をしているからであり。

 経営権を譲渡したのは、非効率的な事業を整理するためである。


 これらの交渉と、これから彼らがする証言とには何の関係もない。


 これから侯爵達は証言するのだ。


 一ヶ月前、ワッフル侯爵家主催のパーティの会場で。

 某平民の女がザッハトルテ・オペラを誘惑していたのを目撃したと。


 まだ若く哀れなザッハトルテは、ふしだらな誘惑にたぶらかされ。

 導かれるままに、ドレスの胸元から手をいれさせられ、娼婦の乳房のやわらかさに心を奪われ。

 目の前のアバズレを女神と思い込まされて、婚約破棄宣言をしてしまったのだ。

 彼は犠牲者なのだ。断じて、間抜けな愚か者などはない。

 悪いのはピンクブロンドの娼婦なのだ。


 侯爵家当主が証言している以上、それより下級の貴族の証言は必要ない。何人いたとしても必要ない。

 当然、バームクーヘン男爵家令息の証言など、聞くにも値しない。

 それが高貴なる貴族の秩序というものなのだ。

 高貴な者達の証言は誰よりも重く、また彼らが高貴な者達は虚偽など話すはずがないからだ。

 虚偽が真実になるのではない、虚偽などないのだ。


 既にザッハトルテ・オペラは己の所業を深く悔い。自らの恥ずべきところまで隠すところ無く証言している。

 その内容は、他の証言と寸分違わず整合している。そこには嘘などないのだ。

 当人はここにいないが、嘘偽りなしという誓約のもとで作成された陳述書が提出されている。


 卑しい某平民の肉体的な誘惑さえなければ、この婚約は破綻などしていなかったはずだ。

 ザッハトルテ・オペラとマカロン・モンブランはお似合いの婚約者で仲睦まじかったのだから。

 全て某平民のふしだらなふるまいが悪なのだ。


 それがこの『高等特別裁定所』において事実として認定される。


 某平民の証言は必要ない。

 卑しい平民なのでこの部屋に入る資格はなく、よって証言も認められない。

 もしモンブラン侯爵家の養子であれば、証言が認められたかもしれないが、某平民は猶子でしなかったし、現在ではそれすら解消されている。


 事実の認定が終わると、次は損害の認定となる。


 モンブラン、ザッハトルテ両家の婚約を破綻させたことは、両家に莫大な損害を与えた。

 その巨額な賠償を、某平民の女は払わねばならない。

 当然、某平民は資産など所持しておらず、その身をもって償うこととなる。


 裁定が下され次第、執行が行われる。


 某平民は、グリーグ学園の寮に住んでいる。

 既に学園の出入り口には、隠密のうちに両家の私兵が配置され、裁定の報せが届き次第、某平民の身柄を確保する手はずだ。


 娼館送りでは返済の見込みがないため、辺境の鉱山での強制労働となる事が決定している。

 ワッフル侯爵家の所有する鉱山である。


 湿気が充満した灼熱の地底で某平民の女がどういう扱いを受けるか。

 それはこの場には関係ない。

 某平民の女がピンクブロンドであることも、審理には関係ない。


 ここは貴族間のトラブルに正しき裁定を下すだけのための部屋なのだから。


 これらは全て決定事項なのだ。


 裁定を下す王族は、第二王子フェルディナンド。


 彼がここに現れ次第、審理は始まる。


 今度こそ、ピンクブロンドは破滅するのだ。


 陥れられるのではない。

 当人の罪によって破滅するのだ。



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