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11 ヒロインの失敗 母の死(義姉視点)

義姉視点です。


 わたくしの母、ヴェーネレ・モンブラン女侯爵が亡くなったのは三年前の冬でした。


 雪が静かにふりしきる寒い寒い日でした。


 執務室で仕事中、突然血を吐き、そのまま倒れ、二日後に亡くなりました。

 遊び呆けている父は、その場におりませんでした。


 わたくしは、モンペルテ中等学園を早退し駆けつけました。

 厳格な母は、取り乱したわたくしを叱りつけ、学園に戻るよう命じました。

 その声がひどく弱々しいものでしたので、わたくしは従いませんでした。


 考えてみれば、わたくしは、あの時はじめて、母の言いつけに背いたのでした。


 必死に看病していると、母が急速に死へ染まっていくのが伝わって来ました。

 死の気配と匂いが濃厚に漂っていたからです。


 母も自らの死期を悟ったのでしょう。

 わたくしと執事のセバスチャンだけを枕元へ呼び、苦しい息の下、言葉を紡ぎ始めました。


 父と元奉公人であった娼婦との間で、汚らわしい関係が続いていること。

 ふたりの間には、わたくしより3歳年下の庶子がいること。

 娼館生まれの庶子は、すでに娼婦の鑑札を取得し、客を日に十数人もとっている評判の淫乱だということ。

 自分が死んだら、父は娼婦母娘を屋敷へ迎え入れるだろうこと。


 その声は弱々しいのに、籠もった憎しみのせいか、はっきりと聞こえました。


 あんな父でも、母は愛していたのか。

 それとも愛人とその娘への憎しみだけなのか。

 わたくしは今でも判りません。


 庶子の存在は珍しいことではありません。

 そして、それは必ずしも忌むべきモノではなく、引き取って猶子あるいは養子にすることもありえます。

 なんらかの才能があれば、お家の政略や経営に役立つことももあるからです。


 とはいっても、すでに淫乱な娼婦であれば話は別です。

 誰の種を孕むか判らぬ淫婦では、政略結婚の道具に使うことすら出来ません。

 普通なら猶子にさえしません。


 ですが、母が亡くなるのが早すぎました。

 わたくしが当主の権限を受け継ぐのは、18歳になる3年後。それまでは後見人である父がここの主です。

 父が、彼女らを引き取ると決めたら、わたくしに逆らう権利はないのです。


 淫乱な義妹を、猶子とはいえ家に入れる……悪夢です。


 しかも母は、更に恐ろしい事を告げました。

 腹違いの妹は『呪われたピンクブロンド』である、と。


 呪われたピンクブロンド。それは見事なピンクブロンドの髪をもつ娘達。

 貴族の家に庶子として生まれたら、災いをもたらす兆しとみなされている存在。

 知性に欠けたけた殿方を虜にする愛くるしさで、貴族の世界に侵入して混乱をもたらす邪悪。


 ピンクブロンドは、常に、淫乱で邪悪。存在自体が害悪。


 大部分のケースでは、猶子にさえせず拒んでしまうのですが、今回はそれが出来ません。


 我々高貴な者達にも、こういう災害はまま起きるのです。

 5年から10年に一度くらいトラブルを巻き起こすのです。


 母は、うめき。

 嗚呼こんなことになるなら思い切って始末しておけばよかった、と嘆きました。

 そして、わたくしの目を熱の籠もった目で見ると、か細いのに突き刺さる声で。


「生かしておいてはなりません。殺すのです。殺すのです。あの娘は殺すのです。

 淫乱なあばずれに慈悲などかけてはなりません。

 そうは見えないと思わされるかもしれませんが、それは欺されてかけているのです。

 あの女とあの娘を、モンブラン侯爵家のために殺すのですっっ。殺せぇっっ」


 叫びと共に、口から血の塊が吐き出されました。


 わたくしは、血まみれの毛布から飛び出した母の手を両手で握りました。

 そして釣り込まれたようにうなずきました。


「はい。お母様。わたくしは誓ってピンクブロンドを適切に処理いたします」


 母は、安堵したようにほほえみ……亡くなりました。



 思えばあの時。


 わたくしは大きな間違いを犯していたのです。


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