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使い魔ジャック

 見合い相手についてそれぞれが考え込み、束の間部屋が静まり返った。

 そして最初に口を開いたのはジャックだった。


「あのさ、隣国の王子の中で獣人なのは末子の第五王子だけなんだよ。差別されて育ったんだから、憎しみで心が真っ黒になっても仕方ないんじゃない?」


 さらりと言った言葉にデイジーは驚いた。


「えっ、なんでそんなことジャックが知ってるの?」

「もちろん事前調査だよ。王子様がうちに来た時に教えてくれた情報だけでは足りなかったから、知り合いに連絡して聞いたんだ」

「まあ、本当に優秀ですわ」


 王女が感嘆の声を漏らす。


「虐げられた第五王子が他国の王女に求婚する理由なんて限られてるよ。それを踏まえて対応したらいい」


 ジャックはさも簡単なことのように言い、目の前に置かれたティーカップに口をつけた。


「おお、さすが王室。うちの茶葉とは香りが違うね。すごく美味しい」


 いつでも、どんな時でも焦らず余裕の態度のジャックに今までも驚かされてきたデイジーだが、改めてその鋼の精神に疑問が湧いた。


「ジャックが焦って右往左往することってあるの?」

「あー、どうかな?最近はずっと平和だったから思い出せないな」

「そ、そう」


(ちょっと理解出来ないわね)


 そう思いながらデイジーも紅茶を飲み、華やかな香りに驚いた。


「わっ、お花みたいな香りがする!」

「だよね!?デイジー、うちの紅茶もこれにしようよ。あ、このクッキーも美味しい」


 二人の様子に王女はふっと笑った。

 ほんの少し前まで自身の魔力に悩み、闇に染まった王子に怯えていたというのに、この穏やかな空気感は何だろうかと可笑しくなったのだ。





 和やかな雰囲気の中、皆でお茶を飲んでいるとコンコンと扉を叩く音がした。


「エドワードだ。入ってもいいかな?」

「どうぞ、お入りになってお兄様」

「内緒話は終わった?」


 重厚な扉を押し開き、麗しき王子がやって来た。王子は菫色の瞳にからかうような色を滲ませ、親指を立てると廊下に向けた。そこには追い出されたオリバーが直立不動で待機していた。


「ええ、わたくしの話は終わりましてよ。お兄様も今日のお仕事は終わられたの?」

「ああ、終わったよ」


 王子は小さく頷き、来客二人に声をかけた。


「デイジー嬢、ジャック君、ようこそ我が家へ」


 デイジーは立ち上がり令嬢らしくドレスをつまみお辞儀をした。


「ご公務お疲れ様でした、エドワード殿下」

「いや、私より慣れない馬車に長時間揺られていたデイジー嬢の方が疲れてるだろう。今日はゆっくり休んでもらいたいから、仕事の話は明日にしよう。オリバーに部屋まで案内させるよ。もし部屋に足りないものがあれば、遠慮なく言ってほしい」

「お気遣いありがとうございます」


 デイジーは緊張した面持ちでお礼を述べた。

 王子と会うのは二度目になるが、そのきらびやかな容姿を見て平常心を保つのは難しい。特に宝石のように輝く菫色の瞳が自分の方に向けられると心音が大きくなってしまう。

 王子はジャックと話せなかった。それは魔力を持たない証となるのだが、この魅力的な瞳には美の女神から与えられた特別な力が宿っているに違いない。デイジーは心の中でそう確信していた。


「デイジー嬢には無理を言って来てもらったのだから、滞在中は快適に過ごしてもらいたいんだ。もちろんジャック君にも」


 そう言った王子の視線は、デイジーの後ろ斜め下だった。


「?」


 疑問に思ってデイジーが後ろを振り返ると、ジャックは黒猫の姿に戻っていた。


「なんかその呼び方気持ち悪いから、呼び捨てにしてって伝えて」


 しれっとした態度の使い魔に、デイジーは一瞬口を開いて文句を言おうとしたが、なんとか思い止まった。


(どうして今、猫に戻っちゃうの!?それと言い方!失礼すぎる!)


 眉間にシワが寄りそうだったが、無理に笑顔を作り言葉を変換する。


「エドワード殿下、どうかジャックとお呼び下さいと申しております」


 やはり王子にジャックの言葉は通じていないようだ。黒猫を見た後で視線がデイジーに注がれたのだから、ニャーとしか聞こえなかったのだろう。

 そして、その一連の様子を見ていた王女は首を傾げた。兄が来たとたん、使い魔が猫に戻ってしまったのはなぜだろう?もしかして、話したくないほどに嫌われている?まだ会って間もないというのに?

 疑問に思ったが、王女の奇異な魔力は発動していないので黒猫の感情を読み取ることは出来なかった。

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