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実験の結果

「うわぁ、こんなにもハッキリとした違いが出るとは思いませんでした」


 魔石を埋めた翌日、仕事終わりにやって来たハリーが感嘆の声を上げた。


 西庭園の薔薇は魔石に込められた土魔法によって尋常ではないほど花開いた。比較対象として埋めたアイザックの魔石は白薔薇の花数を通常の二倍にし、ロザンヌの魔石は薄紅色の花数を三倍にした。

 魔石を埋めた一角は溢れるほどの薔薇によって甘く上品な香りが漂っている。その香りは風に乗って多くの窓から城内にも届き、数日間廊下を歩く人々の足を止めることになるだろう。


「これが質の良い魔石の効果なんですね」


 瑞々しい花びらに顔を近付けたハリーは、甘い香りを堪能する。


「はい。とても素晴らしい魔石でした」


(ロザンヌ殿下の魔力がこんなにも高品質だなんて、嬉しい誤算だわ)


 デイジーは想像以上の結果が出たことに笑みが溢れる。

 そもそも魔石を用意したのはロザンヌ殿下に魔力を大量消費してもらう為であり、使用方法などなんでも良かった。それなのに実験の結果はご覧の通り素晴らしいという一言に尽きる。


「こんな良質の魔石があれば、どんな作物も大収穫になるんじゃないかな」


 ハリーの素直な感想に、デイジーはかぶりを振った。


「そう思われる方は多いのですが、残念ながらこのレベルの魔石を大量生産することは難しいです。それに、もしも国内最高品質の魔石が手に入ったとしても、たった一つでは広範囲に影響を及ぼすことが出来ず大収穫には程遠いと思います」

「なるほど。では、魔石を多少使って育てるよりも、広大な農地で普通に育てた方が収穫量は上ということになるのかな」

「はい。そういうことになってしまいます」

「うーん、なんとももったいない気持ちになりますね」

「そうなんです。とてももったいないんです。ですが、魔石を効果的に利用するにはどうしたらいいのか、薬学研究所でも様々な実験をしているようです。いずれ解決策を見つけてくれるのではないでしょうか」

「確かに。薬学研究所はエリート中のエリートが集まってますからね」

「はい。私もどんな研究結果が出るのか期待しています」


 薬学研究所では国内外から多くの植物が集められ、フレッシュな状態の薬草と乾燥させた薬草を比較したり、それらに魔力を加えるとどう変化するのか調べている。

 また、希少な植物を増産する方法や最適な保存方法についても試行錯誤がなされており、研究内容は幅広く費用も人材も豊富に投入されていた。


 この国は資源や立地に恵まれていない。だからこそ多くの研究機関が新たな技術によって生み出した道具や薬品を輸出することによって国益としている。

 そして、それらの研究機関では魔力が必要不可欠だ。

 鉄をも溶かす火の魔法、洗浄のための水魔法、風車を動かす風魔法、作物の実らす土魔法。人の力だけではすぐに限界が見えてしまう。

 研究を円滑に進めるためには魔術師も安定供給する必要がある。そのために設立されたのが王立魔法学園なのだ。

 魔力を重要視する国王主導のもと、優秀な魔術師を出来るだけ多く育成しようという仕組みが構築されている。


(だからといってお妃様候補を魔女に限定するのは行き過ぎだと思うんだけど)


 余計なことが頭をよぎり、にこにこと話していたデイジーの顔からスッと笑みが消えてしまう。

 もちろん向かい合うハリーに表情が変わった理由など分かるはずがない。彼は疑問に思って「どうかしましたか?」と訊こうとしたが出来なかった。先に声を発する者がいたからだ。


「デイジー、そろそろ王女様のところに行く時間だよ」


 隣でずっと黙って立っていたジャックが、これ以上待たされるのはゴメンだとばかりにデイジーの腕を引いた。


「あっ、そうね。慌ただしくてごめんなさい、ハリーさん。私はこれにて失礼しますが、よろしければもう少し薔薇の香りを楽しんで下さいませ」


 再び笑顔で話しかけられたハリーは、無表情のジャックをちらりと見て言葉を一瞬詰まらせる。以前のように睨まれてはいないが、自分が煙たがられていると伝わってきたからだ。


「――そうですね。せっかくだから薔薇園を抜けて帰りますよ」

「はい。ぜひ」


 デイジーは軽い会釈の後、踵を返して城内に向かう。同じくジャックもハリーに対して「失礼します」と声をかけてから歩き出した。

 昨日のうちにジャックは主から注意を受けていた。


「どんな理由があったとしても私の使い魔には誰かを睨み付けたり、無視したりするのはやめて欲しいの。いつでも礼儀正しくしてくれないかな。ね?そうしてくれる?――ジャック、どうして無言なの?ほら、ちゃんとしますって約束して」


 目と目を合わせて、ノーとは言わせないという強い意志を持ってデイジーは注意をした。普段、主だという立場で命令したりはしないのだか、礼儀に関しては別だ。


「――努力する」


 固い表情で返事をしたジャックに対し、デイジーも真剣な顔で「うん。そうして」と大きく頷いた。


 そんなやり取りがあったため、今日のジャックは一応失礼にあたらないよう挨拶はしたし、睨みつけるようなこともしなかった。

 ずっと無表情で愛想の欠片もなかったが、そのくらいは許容範囲だ。


「ジャック、約束を守ってくれてありがとう」


 城内に入る扉の前で振り返り、デイジーは使い魔に感謝の気持ちを伝えた。

 すると、ジャックは一瞬目を見開き驚いた様子を見せたが、直ぐさま誇らしげな顔で「うん。僕は頑張った」と胸を張ったため、デイジーは思わず笑ってしまった。


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