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黒猫の異変

 朝陽が昇る頃、デイジーは自然と目を覚ます。それは森にあるブレア家から城壁に囲まれた王城に生活の場が移っても変わらない。

 カーテン越しの僅かな光が目覚めの合図となる。

 今日もデイジーは瞼をゆっくりと開けて、まばたきを一つ。見慣れないカーテンや家具に一瞬戸惑ったが、すぐに王城にある自室だったことを思い出す。


(ああ、そうだ。私、侍女になったんだった)


 横向きに寝ていた身体を起こそうとしたデイジーは、ウエストの辺りに何か温かいものが乗ってることに気が付いた。それだけでなく、触れてはいないが背中側にも何か温かいものがあるような気がした。

 それが何なのか確認するため身体を反転させると、目の前に艶やかな黒髪と陶器のように滑らかな肌をした顔があり、デイジーは思わず声をあげて飛び起きた。


「なっ!!」


 驚いて大声を出しそうになり、慌てて自分の口を手で押さえる。


「ん、おはよー」


 背中側に寝ていたジャックは、目を閉じたまま言葉を発した。

 温かさの原因は人型に変身したジャックだったのだ。背中からデイジーを抱きしめるように腕をウエストに乗せて眠っていたらしい。


「な、な、何っ!?どうして一緒に寝てるのっ?」


 デイジーの慌てた声にジャックの瞼が少しだけ開き、金色の瞳が細く覗いた。先程までデイジーの腰に伸びていた左手で跳ね上げられた羽毛布団をたぐり寄せながら、眠そうに返事をする。


「いつも一緒に寝てるのに、何を今更―――っていうか寒いから布団めくらないで」

「ねっ、寝てるけど!違うでしょ」


 デイジーはまた眠ってしまいそうなジャックの手から布団を取り上げて更に追求した。


「何が?」

「今まで寝る時は猫のままだったでしょ!人型で一緒に寝たことなんて一度たりともないわよ!」

「あー、うん。そうだね。だけど人型だと抱きしめてあげられるから暖かかったでしょ。僕も暖かくて気持ちいいし、この方が良くない?」

「良くないわよっ!」

「どうして?何が良くないの?」

「…………何がって」


(私だって、いちお未婚のご令嬢なのよ。男の子に抱きしめられて寝るなんてダメに決まってるじゃない!)


 早朝に大声を出しては、何事かあったと思われ衛兵が来てしまうかもしれない。分かっていても知らぬ内に声が大きくなってしまうのは全てジャックのせいだ。

 なんとか平常心を取り戻そうと心の中で呪文のように「ジャックは黒猫、ジャックは使い魔」と唱えるが、瞳を閉じて再び眠りに落ちたジャックの顔を見るとなかなか気持ちは落ち着かない。


(どうして急にこんなことしたのよ)


 昨日の夜、デイジーがベッドに入った時はいつも通り黒猫の姿だった。そして、今までなら朝まで黒猫であり、普段の生活でも手を使う仕事を頼まなければ人型になることはない。そもそも人型になるには魔力を多く消費するため、体調が悪い時には変身出来ないと以前聞いたことがある。眠る時に人型になるなんて魔力の無駄遣いだ。

 デイジーはふーっと長く息を吐き出し、とりあえず顔を洗うことにした。ジャックのことが気になるが、身支度を整え今日も侍女の仕事とダンスレッスンを行わなくてはならない。


(ああ、でも夜にもう一度人型になって寝るのはやめてって言おう)


 デイジーは黒猫だ、使い魔だと言ってみても、とにかく恥ずかしい気持ちになって今朝のような状況に耐えられそうにない。

 しかし、そんな気持ちを黒猫ジャックは汲み取らない。彼には彼の目的があってそうしているのだ。だからこそ翌日の朝もデイジーは慌てふためきベッドから飛び起きた。


「ジャック!人型はやめてって言ったでしょ!どうして今日も変身してるのよ!」


 早起きが得意なデイジーと違って、ジャックは朝が苦手だ。声に反応して身体を横向きからうつ伏せに変え、大きな枕に深く顔をうずめたものの返事はない。

 デイジーは細身であるジャックの背中をベシベシッと叩き、強引に目覚めさせる。するとジャックは、諦めたように枕をギュッと抱え込んでから身を起こした。


「デイジー、それは(あるじ)としての命令?それともただの要望?」


 無表情で問われ、デイジーは一瞬言葉を詰まらせた。


「――――も、もちろん命令ではないわ。要望よ」


 その返事に対し、ジャックはふわりと花が開くかのように微笑んだ。まだあどけなさを残す中性的な顔立ちが、より一層魅力的に見える。

 デイジーはうっかりときめいてしまい、顔が熱くなり赤くなった。

 その様子にジャックは満足そうに目を細め、身を乗り出すようにしてデイジーに近付いた。


「デイジーが人型の僕と一緒に寝るのが絶対に嫌だというのなら、もう二度としないよ。だけど本当に無理?僕はデイジーと心の距離まで近くなるようで今の方が嬉しいんだけど」


 至近距離から金色の瞳で見つめられ、デイジーは思わず逃げ出したい気持ちになった。胸が波打ち、先程まで当たり前だと思っていたことが正しいのか、間違っているのか分からなくなってしまった。


「………嫌なわけではないわ。ただ心臓に悪いからやめてもらいたいのよ」

「そっか。じゃあ、しばらくは人型になるのはやめておくよ」

「うん。ありがとう」


 お礼を言ってから頭に疑問符が浮かぶ。

 そもそも急に余計なことを始めたジャックが悪いのになぜ自分がお礼を言わねばならないのか。しかも「しばらくはやめる」とはなんなのか。

 デイジーはいまいち納得出来ないものを感じたが、それ以上は何も言わずに身支度を始めた。

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