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歌声天使も普通じゃない!

「どうなんですか? 十針(とばり)さん」


 詰め寄る神崎さんだが十針は俯いたまま。いよいよ警戒心を丸出しに、神崎さんは俺の前へと立つ。

 ――が、十針は口元を歪めたと思うと……



「プッ――――ハハハハハハ! な~んだ、気付いてたんですねぇ。てっきりバレてないもんだと思ってたから驚いちゃいましたよ」

「ではやはり、相模君の命を狙って!」

「ハハハハ――」



「――ハッ? 命?」


 笑い顔が一転し、十針は不思議そうに首を傾げる。


「とぼけないでください。貴女も転生者であると、私の感が告げています」

「あらららら~♪ そこまでバレてたんですねぇ」

「そうです。もはや言い逃れは――」

「いや、待ってください。それとこれとは話が別です。確かに我輩(わがはい)は元セイレーンの転生者ですけど、その我輩が相太君の命を狙う? なぜ? どういう理屈で?」


 あっさりと転生者であることを認めた。でも俺への殺意は否定している。確証はないが、十針は信用してもいい気がするな。


「往生際が悪いですよ? この期に及んでまだシラを切ろうと――」

「あ~神崎さん、さんちょっと待って。十針は嘘を言ってるようにはみえないよ」

「……え?」


 それに殺気も感じないし、やはり無意識に信用してしまう感覚が湧く。

 どうしてかと思い返せば、さっき神崎さんに迫られてた時、不意討ちで俺を狙えたはずだからだ。それをやらなかったということは、害意はないと考えられる。


「尾行してたのは本当で、俺たちが路地裏に入ったからここまで来たんでしょ?」

「その通りで~す♪ 我輩ってばコンビニ巡りが趣味なもんで、こっち方面には来たことなかったんですよ~。偶然目についたお二人についていけば、素敵なコンビニに出逢えそうな気がしまして~」


 聞けば十針はコンビニが超が付くほど大好きらしく、自宅周辺から学校周辺のコンビニまで絶賛網羅中とのこと。


「アイ・ラヴ・コンビニ~♪」


 そこはラヴではなくライクなんじゃ……と思ったが、ウキウキしてる様子を見るにラヴでも間違いではない気がしてきた。

 それを見た神崎さんも十針が危険ではないものと理解し、一応は落ち着く。


「……それで、コンビニを探してわざわざ尾行を? 個人の時間をどう使おうと私には関係ありませんが、学生は勉強が本分。貴重な時間を無駄にしてまでご苦労なことですね」

「フフフン♪」

「……な、なんですか?」




「甘いです!」

「ヒィッ!?」

「顔から火が出るほど甘いです! たかがコンビニと一言で括ってはいけません。店によって微妙に異なるラインナップが我輩を猛烈に刺激するのです。この感動を体感しないなんて、思春期の半分は損してますよ。コンビニで例えるなら、新規でご近所にできたコンビニに何年もの間一度も足を運ばないに等しいです!」


 それ、コンビニで例える必要あるのか? いや、そもそも顔から火が出るほどの甘さが全く想像できん……。

 それに思春期の半分とは大きく出たもんだな。残りの半分がちょっとだけ気になる。


「ちなみに残りの半分は何だ?」




「……優しさ?」

「いや、バフ○リンみたいなこと言われても困るんだが……」

「まぁとにかくですね、コンビニは素晴らしいんです! ちょうどすぐそこにコンビニがあることですし、さっそく寄ってみましょ~♪」

「お、おい……」

「ちょっと、十針さん……」


 命の危機はなかった。しかし、何故だか十針のコンビニ巡りに付き合うことに。

 強引に手を引かれ、表通りの向かい側にあるコンビニへと駆け込む。



「いらっしゃいませ~!」

「いらっしゃいました~♪」


 子供かよ! ――と思わず突っ込みたくなる十針に連れられ、ガムや飴が並んでいるコーナーで立ち止まる。


「あった~これこれ~♪ 我輩が愛用する【天使ののど飴】」

「そういや合唱部だっけか。あ、なら今日の部活はどうしたんだ?」

「今日の我輩は休みで~す♪ 部活動は週一ペースなので~す♪」

「「少なっ!」」


 つ~か殆ど参加してねぇ! でもその少なさでありながら歌唱力は凄いんだよなぁ。やっぱセイレーンってのは間違いなさそうだ。


「ふむふむ……ふんふん……なるほどなるほど~……」

「今度はどうしたんだ? 真剣な顔でメモしだして」

「このコンビニの間取りをですね~」


 調べてどうすんだよ……。


「なんで呆れた顔してるんですか? とっても重要なんですよ~♪」

「……例えば?」

「よくぞ聞いてくれました! 商品の配置や通路のスペースにも黄金比というものがあるんです。分かりますか? 黄金比ですよ!? この条件を満たしてこそ、最高のコンビニと名乗れるんですよ~。コンビニで例えるなら、ホコリの被ってる商品がなくて床の清掃も行き届いている感じなんですよ~♪」


 店員にはお疲れ様ですと言いたいところだが、それって普通のコンビニやん……。


「フッ、何を言い出すかと思えば、黄金比などという如何にもにわかが好きそうな――」

「だからメガネ外しちゃダメだっての!」

「――失礼。……コホン。とにかく、私たちは貴女に構ってる暇はないんです。先に帰らせていただきますよ」


 そう言って俺の手を引く神崎さんだったが、十針から思いもしない言葉が。


「じゃあ相太くんの家までついていきますね~。米沢さんに頼まれてますので~♪」

「「……え?」」


 俺と神崎さんが目を点にして固まる。米沢って名字なら魔穂と勇美しかあり得ない。少なくとも俺の中では。


「あれ? 聞いてませんでしたか? 米沢さんたちが正式に転入する前に一度会ってるんですよ。その時に相太くんの護衛をお願いされちゃいまして。……本当に聞いてません?」

「「いえ、まったく……」」

「あらららら。勇美ちゃんはともかく魔穂ちゃんならしっかり伝えてると思ったんですけどね~。トラブって忘れてたんですかね~」


 そういや高遠が暴走してたっけ? 壁に頭をぶつけて記憶が飛んだのかもしれん。

 そもそも魔穂はしっかりしてる割にはどこか抜けてるところがあるし、今頃は伝え忘れたことに頭を抱えてるかもな。


「ま~そんな感じでですね、今後とも宜しくお願いしますね~♪」

「あ、ああ。宜しく頼むよ」

 

 しかし、そうなると益々気になるのが敵意を持ってるやつの存在だ。実はいませんでしたって言われた方が安心できるんだけどなぁ。

 ――な~んて考えながらも自宅に到着。付き添ってくれた二人に礼を言いつつ別れようとするも……


「ありがとう二人とも。じゃあまた明――」

「お邪魔しま~~~す♪」

「ここが……相模君の……お城……。お、お邪魔します!」

「はえっ!?」


 なんてこった! 勝手に上がられちまったい!


「相太くんの部屋は~二階ですかね~♪」

「ああ、奥の右手が――ってそうじゃなくって、なんで勝手に上がり込む!?」

「そんなの~~」



「今がチャンスだからに決まってるじゃないですか~♪ ね~神崎さ~ん?」

「ああ、素晴らしき相模君の匂い!」クンカクンカ


 後ろにいたはずの神崎さんが既に部屋へと突入してる! しかも俺の私服を手にして匂い嗅いでるし!


「聞いてませんねこの人~。じゃあせっかくなので~、二人で楽しんじゃいましょ~♪」

「た、楽しむ――って何を?」

「決まってるじゃないですか~♪ 思春期の男と女が同じ部屋に二人きり(匂い嗅いでる変態は除く)。両親は夜まで帰宅せず。何も起こらないはずもなく……フ~♪」

「……(ゴクッ!)」


 背後に回った十針が抱きついてきた。しかも吐息が首にかかる――いや、わざとだ、わざとかけてやがる!

 

「魔穂さんと勇美さんもマヌケですね~。我輩に護衛を頼むということは~、こうなることを想定しないと~♪」


 すっげぇ甘い声に押し付けられる胸。この誘惑に耐えられるやつは出てこい!

 あ、やっぱ出てくるな。この場は俺が堪能する!


「前世では魔王と勇者に敵わなかったですからね~。二人が取り合う様を歯軋りしながら見ていたんですよ~? きっと他の子も同じだと思います~♪」


 そんなにモテるって、前世の俺は何者なんだ? まぁ知っても意味ないし聞かないけど。


「さぁ相太く~ん、あっちのアホは放っておいて~、我輩との仲を進展させちゃいましょ~♪」


 もはや拒む理由はない。昼間もさっきも良いところで邪魔が入ったし、これ以上は待てぬのだ(戦国武将劇画タッチ風の顔で)!


「と、十針……」

「違いますよ~? 今は~、歌折(かおる)って呼んでくれないと~」

「じゃあ……か、かおる……」

「は~い、相太く~ん♪」


 頬を紅く染めながら目を瞑る歌折。俺は意を決して唇を近付け……




 ガチャ!




「ねぇお兄ちゃ~ん。この参考書、破けてるところがあって――」




「「「……あ」」」




 はい。おもいっきり抱き合ってます。

 つ~かどうしよこれ……。すっげぇデジャブを感じる上に、避けようのない未来が見える。




「へ、へ、へ――」




「へっくしょん――とか言わない?」

「言うかボケェェェェェェ!」


 ドッゴォォォ!


「グッホォ!?」


 十針と抱き合っていたのに俺だけをキレイに蹴飛ばしやがった! どんだけ足技すげぇんだよ!


「いい加減にしなさいよ変態! どこまで頭が性欲まみれなの、この果てしないエロ猿!」


 マズイ、このままだと愛漓に蹴り殺されちまう。何とか言い訳を考えないと!


「まままま待て、落ち着くんだ愛漓。俺たちは何もやましいことはしていない」

「そうですよ妹さ~ん、ただのスキンシップで~す♪」

「そそそ、そうですね、私は匂いをチェックしていただけで、おかしなことはしてません。精霊に誓って!」

「…………」



「……ホントに?」

「「「ホントホント!」」」

「ふ~ん? まぁいいけど」


 よかった。とりあえずタマが潰されずにすんだ――と思ったのも束の間!


「このことはキッチリと魔穂ちゃん勇美ちゃんに伝えるからね」

「んげっ!」

「そっちのお姉さんたちもだよ?」

「「ひぃぃぃ!」」


 すまねぇみんな。俺に明日は来ないかもしれん……。


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