ムードメーカーも普通じゃない!
「リッチ~~~!?」
高遠が言うには、金持幽子の正体はあのリッチの生まれ変わりなんだと。
「そういうこっちゃ。不死術士言うたら不死身の魔術師ってのが定番やん? コイツもな、陰湿でやっかいなもんを使うてきよるんよ」
「待った待った~! 確かに実家は湿気でジメジメしててカビも生えててナチュラルチーズがカマンベールになってたりするけどぉ、わたくしが陰湿ってのはバッチリモッチリキッカリ事実無根だからね~? そこんとこ夜露死苦ぅ!」
別の意味で夜露死苦という単語がハマってるやつは早々いないよなぁ。
「それといい機会だからハッキリさせとくね~。異世界だったら死者を呼び起こして使役とかしてたけどぉ、今はもう退化しちゃったからもちろん無理無理ぃ。せいぜいできるのは簡単な手品だよ~」
ポン!
有言実行みたいな感じに金持は手から薔薇を出して見せた。
少し驚いたが、鍵が掛かったドアをすり抜けるのはトリックとは別な気がする。それを追及しようとしたところで、金持は急にヘコヘコし出した。
「こ、こんな感じでよろしいでしょうか、お三方?」
「……え?」
お三方と言われて気絶していた三人を思い出す。慌てて振り向くと……
「うむ、言及点だな。相太を怖がらせまいとした気配りは評価しよう」
何故か上から目線の魔穂。てっきり気絶してるものだと思ってたんだが。
「ま、いいんじゃない? 敵意や殺意は感じなかったし、生存圏にいるのは許可してあげる」
こちらも上から目線な勇美。それに敵意はともかく殺意ってなんだ? 学校に敵がいるのか!?
「そうですね。いざとなれば精霊魔法で消し去ってしまえばいいですし、何も問題ないかと」
いやいや、神崎さんのその発言がアウトだよ!
「なんや三人とも、やっぱ起きとったんか。下手したらウチ1人で金持を相手せなならん思うてえらい緊張したわ」
「天井に頭ぶつけたくらいで気絶しないって。それに金持が襲ってくるならこのタイミングだと思ってたからね」
「どういうことだ勇美?」
「あ~、それはわたくしから説明しますね~」
そう言っていつも通りの明るい雰囲気で語り出す金持。
簡単に言うと、魔穂と勇美が転入してくるまで神崎さんや高遠は暗黙の了解で互いに不干渉だったそうだ。
「あ、不干渉ですよ不干渉。決して不感症じゃないですからね~?」
「いいから続けろ」
スパ~ン!
「あたっ!? 魔穂ちゃんどっからハリセン出したの~!?」
「もう一発いくか?」
「話を続けます!」キリッ
……コホン。で、魔穂と勇美は転入の前にこの学校を調べたんだそうだ。
調べるといっても資料を引っ張り出して目を通した――とかじゃなく、実際に侵入したらしい。事前に用意した制服を着てな。
そこで見つけたのがエルフや獣王の生まれ変わりだってんだから、そら驚くわな。
「あ、ちなみにですけど、中学の時の高遠さんはオシッシーって渾名で呼ばれてました!」
「んなっ!?」
「獅子代のししから取ったみたいですね~」
「「「…………」」」プルプル
これには俺を含む他三人も必死に笑いを堪えた。本人には悪いが、付けたやつは中々のセンスだと思う。心の中だけで笑うから許せ高遠。
「テメェコラ、何バラしとんじゃい!」
グリグリグリグリ!
「いでででで! しょ、しょうがないでしょ~? 経緯を話さなきゃと思ってたら急に思い出したんですから~」
「せめてオドレの中だけに留めとかんかい!」
「すみませんすみません! もう余計なことは言わないから――イダダダダ!」
……コホン。たびたび脱線するが、つまるところこの高校には色んな転生者が集まっていたんだ。
だが魔穂と勇美は怯むことなく彼女たちと接触していき、危険な存在かどうかを直に確かめたらしいんだが、残念なことに転入までに金持と他数名とは接触できなかったそうだ。
それで今回実況をかって出た金持を誘い出した――ってことらしい。
「さっきも言ったけど、敵意はないようだから無罪でいいわ」
「ですが勇美さん、この者は元リッチであることは確か。もう少し尋問した方が――」
「あ、ちなみにですけど、神崎さんは裏口入学ですよ? 別の高校に入学する予定だったのを相模君と同じ高校が良いから~とか言って、校長に賄賂を渡したりとか」
「――って、やめなさい金持!」
経緯を説明するはずが何故か神崎さんの秘密が明らかに。
「おもいっきり腹黒やん……」
「まるでダークエルフだな」
「他にも何か有るんじゃないの~?」
「失礼な! これ以上は何も――」
「それがあるんですよね~。担任からクラス委員に推薦されたのも神崎さんが事前に根回ししてたからですし~。「これ、つまらない物ですが」とか言って担任のお宅にお邪魔してましたよ~」
そういやそうだったなぁ。あの時は担任と神崎さんが顔見知りなんだとしか思ってなかったが。
ゴツン!
「いった~~~い!」
「いい加減にしなさい! 余計なことをペラペラと口走るんじゃありません!」
「ちょいと神崎さん、何もグーで殴ることなくない? わたくしのおでこ、メッチャ腫れてきたんだけど」
「どうせ不死なんだからいいでしょう!?」
「いやいや、さすがに死ぬからね? 血も出るからね? メッチャ痛いからね? 物理世界なめんなこんちきしょ~です!」
とまぁ、そんなことより……
「1つ気になったんだけど」
「何ですか相模君? わたくしの知ってることなら何でも答えますよ~。あ、ちなみにスリーサイズは秘密で~す♪ 知りたいなら二人きりの時に――」
「そうじゃなくて! ……コホン。みんなが俺と同じクラスなのって、やっぱり何か細工したからなのか?」
「「「…………」」」
はい、今の沈黙により確定しました。コイツら全員真っ黒くろすけです。
「……コホン。ま、まぁ良いではないか。偶然にも同じクラスになったのだから、これからは仲良くしていこう」
「そそそそ、そうだね。魔穂の意見にさんせ~い♪」
「こ、これからも良しなにお願いしますね。オホ、オホホホホホ」
「まぁウチは最初から敵対するつもりやなかったしなぁ」
「どうやら一件落着ですね~。でもでも、今後も油断は禁物ですよ~? わたくしが調べたところ、まだこのクラスには転生者が紛れ込んでるみたいですし~」
まだ居るのかよ!
「危険分子はこの私が排除する。いったい誰なんだ?」
「さぁ? そこまでは。ですがわたくしたちと同じく相模君を狙ってる可能性は高いでしょうね~。性的にせよ物理的にせよ」
「物理的? それってつまり……」
「はい。相模君のお命ちょうだい的な展開ですよ~」
「えええ!?」
冗談じゃねぇ。性的には歓迎するけど命を懸けた学校生活とか馬鹿げてる。
そもそもなんで狙われなきゃならねぇ? こちとら一般ピープルだぞ。
「ソータは納得できないだろうけど、あたしたちの居た世界が滅んだのはある意味ソータが原因とも言えるからね~」
「私と勇美は相太を我が物にせんとして、多くの種族を巻き込んで争ったからな。その結果、他種族の代表まで相太を手に入れようとしたようだが」
「「「…………」」」フィッ!
そういうことか。うん、おもいっきり納得できんな。一方的に巻き込まれてるだけだし。
「ですが安心してください相模君。貴方の命は絶対にお守り致します。キャリアーエルフの名にかけて」
「ウチも頼ってくれてええんやで?」
「わたくしも強力しますよ~」
「あ、ああ。ありがとう」
でもまぁ、可愛いクラスメイトたちに護られる生活ってのも悪くはないか。家にも魔穂と勇美が居るし、楽しくないわけがない。
あ、でも野郎共には嫉妬されるだろうなぁ。そこだけが問題だ。
キーンコーンカーンコーン♪
あ~、何もしないうちに一時間目が終わったな。サボれたからいいけど。
★★★★★
でもって放課後だ。
魔穂と勇美には部活に入るから先に帰っててほしいと言われ、高遠は陸上部へ、金持は放送部の活動に行ったため、今日は神崎さんと帰ることになった。
「ごめんね神崎さん。帰り道が逆なのに付き合わせちゃって」
「大丈夫ですよ。相模君を失うリスクを考えれば安いものです」
――とまぁ、こんな具合に俺を外敵から護るために付き合ってくれてるわけだ。
うん、メッチャありがたい。せめてお礼にジュースの一本でも奢ってあげなきゃな。どこかに自販機は――――っと、見っけた。
「神崎さん、何か飲む? せっかくだから奢るよ」
「え? そんな、悪いですよ」
「いいからいいから。あ、もしかして糖分の多いジュースとかは苦手だったりする?」
「それも多少はありますけど……。あ、でも相模君が選んでくれたものなら何でも。……本当にいいんですか?」
「もちろんだよ」
ガコン!
完全に予想で買ってみた。知的でメガネな神崎さんの外見的イメージから炭酸を省き、果汁の少ない果物ジュースを省き、コーヒーも省いたところでお茶しか残らなかった。
無難だけどいいよな?
「はい、神崎さん」
「ありがとう御座います。では……ん~~~」
「……へ?」
何を思ったのか、目を瞑って唇を向けてきたぞ?
「あの~、神崎さん?」
「飲ませてくれるんですよね?」
「そりゃ飲ませ――」
――って、ちょっと待て! まさか俺が飲ませるのか!?
「いや、さすがに溢すと思うんだけど……」
「大丈夫ですよ、口移しなら」
「ああそっか、口移しね――って口移し!?」
待て待て待て待て、口移しってあれだよな? キスするってことだよな!?
「どうして遠慮してるんです? その気だったからこんな人気の無いところに寄ったんですよね?」
「!?」
言われて見渡すと、確かに表通りからは路地裏に入った場所で奥は行き止まり。自販機を盾にすると誰にも見られない場所だった。
「ゴ、ゴメン、こんな人目に付かない場所だとは知らなくて……」
「フフ、でも今回で覚えたじゃないですか。さぁ、覚悟を決めましょう。それともキスを飛ばしてこっちにしますか?」
「うぉ!?」
神崎さん、ネック部分を引っ張るからピンクのブラジャーがチラリと!
「それともこっちがいいでしょうか?」
「ちょっ!」
今度はスカートをスススッと上げていく。
ヤバイって! マジでそれ以上は!
「今なら邪魔な連中も居ませんし、好き放題にできますよ? さぁ、勇気を出して」
「…………(ゴクッ!)」
そこまで言われたら我慢するのがバカらしくなってくる。据え膳食わぬは――って言葉もあるし、ここは腹を括って……
「あっれれ~? 同じクラスの神崎さんと相模く~ん」
「「!?」」
背後からの声に驚き、俺と神崎さんは咄嗟に離れた。
「ど、どうも。同じクラスの十針歌折さん」
「ぐぐぐ、偶然だね。ここはよく通るの?」
「は~い。学校帰りに寄り道するのが楽しみなんで~す♪」
クラス委員の前で堂々と寄り道宣言とか、図太いのか忘れてるのか。
「へぇ、寄り道ですか……」
あ、神崎さんがメガネを掛け直した。気のせいか眼光が鋭くなったように感じる。
「まさかとは思いますが十針さん、相模君の後をつけていた――なんてことはありませんよね?」
「…………」
眼光に圧されてか十針さんが押し黙る。彼女の答えは……