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熱血少女も普通じゃない!

「フフ、面白い……実に面白い。それでこそ倒し甲斐があるというものだ――セャ!」


 バシン!


「あれを見ても冷静でいられるとは。せいぜい楽しませてください――よっと!」


 パシン!


 そこからしばらく、互いの実力を確かめ合うかのようにラリーが続いた。


神崎絵留乃(かんざきえるの)――だったな? その名、後世まで語り継ごうじゃないか。無念にも私に敗れ、相太を奪い返された噛ませ犬としてな!」


 バシン!


「いいえ、私は負けません。むしろ返り討ちにあった恥ずかしい挑戦者として、貴女方を語り継いで差し上げます」


 パシン!


「その必要はないよ。勝つのはあたしたちなんだから!」


 バシン!


「大した自信やないか。なら証明してみぃや」


 パシン!


「いいだろう。我が力の前に平伏すがいい――トルネードスマァァァシュ!」



 バシィィィィィィン!



「米沢魔穂選手、ここで仕掛けたぁぁぁ! なんとなんと、球の周囲を台風が覆ってるかのようにネットを破壊していくぞぉぉぉ!?」


 いやいや、もろに気体が渦巻いてんのが見えるんだが! しかもネットとどころか台までバッキバキに壊れてくし、先生になんて言えばいいんだよ!?

 だが俺の心境とは裏腹に白熱した雰囲気の中、神崎さんが台風球に挑もうとしている。


「いいでしょう。その魔球、打ち返して――」



 バチィィィン!



「いっっったぁぁぁぁぁぁい!」


 ――と、息巻く神崎さんだったが、ラケットごとフッ飛ばされ、利き手を擦って上体を起こした。

 端から見たらわざとフッ飛んだように見えるが、魔穂の正体を知ってる以上あの球には魔王の力みたいなのが働いているに違いない。

 うん、今さらながら確信した。魔穂(恐らく勇美も)は普通じゃない――って、そんなことより神崎さんが心配だ。


「もぅ何なんですかあの球! 手が折れるかと思ったじゃないですか!」

「大丈夫、神崎さん? ほら――」

「あ! え~と……あ、ありがとう御座います、相模君……」


 差し伸べた手を取り、神崎さんが起き上がる。ん? よく見ると手の甲が赤く腫れてるなぁ。


「神崎さん、怪我してるみたいだけど大丈夫?」

「フッ、心配には及びません。この程度の魔球で――」

「だから神崎さん、メガネ外すのはやめよう」

「――失礼。ですが怪我よりも勝負の方が大事です。これしきのことで中断はできません」

「そう? 膝も擦りむいてるみたいだし他にも怪我があるかもしれないから、肩を貸して一緒に保健室へ行こうと思ったんだけど」

「え?」

「でもまぁ、そこまで言うなら――」


 ――と言いかけたところで神崎さんがヘナヘナとへたり込み、意味不明なことを叫んだ。



「ああ、魔王の邪な波動が私を蝕む! ああ、酷い! ああ、なんてこと!」

「……へ?」


 俺も周りもポカ~ンとしっぱなし。けれど神崎さんは更に続ける。


「クッ、まさかここまで強力だなんて!」

「あ、あのぉ……神崎さん?」

「これは陰謀です、邪悪に満ちた者の狂気に違いありません!」

「もしも~し、神崎さ~ん?」

「お願いです相模君。一刻も早く、私を安全なところへ!」

「え~と……取り敢えず保健室でいい?」

「はい、今日のところはそこで我慢します。本来なら相模君のプライベートルームで手厚くもてなしていてだくのが筋でしょうが、それは次回に期待します」

「よく分かんないけど分かった」


 打ち所が悪かったのかもしれない。ひとまず試合は中断し、神崎さんに肩を貸して保健室に――



「ああ、しまった! 力を込め過ぎたせいで腕がぁ!」


 何故か魔穂も同じようにへたり込む。


「まさか魔穂もか?」

「そうみたいだ。大人気なく本気を出すべきじゃなかったな。すまないが肩を貸してくれ」

「分かったよ。ほら、反対側の肩に掴まれ」


 右に神崎さん、左に魔穂という状態で、イソイソとギャラリーを掻き分けていく。これで1対1だし、試合は続行できるだろう――と考えた俺が甘かった。



「あ~ん、もうダメェ!」


 今度は勇美がバタリと倒れた。

 

「おいおい勇美まで?」

「だって疲れたんだもん。こんなところでバテるなんてもう最悪~!」

「その割には元気そうな気が……」

「そんなわけないじゃん、もう1時間目の授業だよ? 疲れるに決まってるっしょ~!」


 そう言って駄々っ子のように手足をバタつかせる勇美。もう1時間目というフレーズがよく分からないが、保健室に連れてったほうが良さそうだ。


「分かった。じゃあ誰か別の奴に――」

「ソータじゃないとダメーーーッ!」

「――って何で?」

「別の奴に連れてかれるとか意味ないじゃ~ん。あたしはソータのために倒れたんだよ? だったらソータが連れてくのが常識っしょ~?」

「なるほど、そう…………なのか?」

「そうなの! ほら、早くおぶって」


 半ば強引に首へと跨がられ、おんぶならぬ肩車状態に。というか他の二人に肩貸せてないよな……。

 ともあれ4人中3人が退場ってことで、やはり試合は中断。このまま保健室へと思ったが、そうは問屋が卸さなかった。



「あ~タタタタ! お腹痛いわぁ。昼に食った学食があたったんかなぁ……」


 トドメと言わんばかりに高遠までへたり込んだ。


「途中から予想はしてたけど、高遠もか? というかまだ1時間目で昼飯とは程遠い時間だが……」

「細かい話はどうでもええねん! ウチが倒れたのが重要やねん! なんなら朝飯でも晩酌でも構わへん! まさかウチだけ放っておくつもりやないやろなぁ?」

「いや、そうは言わないが、両手と背中は埋まってるし物理的に……」

「あ、そんなら大丈夫や――せぃや!」

「お、おい!?」


 何を思ったのか、高遠は俺を強引におぶっちまった。つ~か4人分の重さだぞ!? いくら女子は軽いからって4人担いで走り回るとかぜってぇ普通じゃねぇ!


「っしゃあ、保健室までいっくでぇぇぇ!」

「ば、ばかものぉ! 乱暴に走ったら、私が振り落とされるではないか!」

「そうです高遠さん! せめて早歩きにしなさい!」

「え~? 別にあたしは平気だよ~?」

「「それは肩車をしてるからだろ、いい加減にしろ!」」


 左右にぶら下がってる魔穂と神崎さんは今にも落とされそうだったりする。

 肩車してる勇美は落ちると危険だし、勇美だけは俺がガッチリと支えてる状態だ。

 そんな俺らを知ってか知らずか、高遠が更にスピードを上げる。


「オラオラァ、どけどけどけどけぇ! 高遠獅子代のお通りやぁぁぁ!」


 ――つっても授業中で誰も出歩いてないんだけどな。

 いや、これが昼休みとかじゃなくてマジ助かった。だって一人の女子生徒が男を含めた4人を担ぎ上げてんだぞ? こんな奇妙な状態なんざ、悪目立ち以外の何物でもないって!


「あ~くそ、腕がダルくなって――」



 バコン!



「あぐっ!?」

「うっし、1人脱落や」


 方向転換する際に壁へと直撃した魔穂。哀れにも気を失ったようだが、手だけは信念で離していない。


「ちょっと高遠さん、いくらなんでも乱暴すぎま――」



 ボコン!



「へぐっ!?」

「っしゃあ、2人目ぇ」


 神崎さんも魔穂と同じようにウォールアタック。同じく気を失なうも、やはり手だけは離してないようだ。


「へぇ~、邪魔者を効率よく消すとか中々やるじゃん?」

「別にあんたのためやない。ぜぇ~んぶウチのためや。さて、残るはあんただけやなぁ?」

「でもあたしのポジションはソータの肩の上。絶対的に有利なんだけどな~」

「そんでもないでぇ? ――そりゃ!」



 ゴツン!



「うぐっ!?」

「よっしゃ、ミッションコンプリートや!」


 最後まで余裕の笑みを浮かべていた勇美だったが、天井に頭をぶつけられて気絶。

 残った高遠はスカッとしたようなニコニコ顔で、保健室へと飛び込む。


 ガラララ!


「あらあら、そんな大勢でどうしたんだい?」

「ゴメンなおばちゃん。今度なんか奢るさかい、何も言わずに出てってや」


 ポイッ!


「あ~れ~~~」


 勢いに任せて保健室のオバサンを閉め出すと、気絶した3人をそこらに投げ捨てる。

 ドアにはカチリと鍵をかけ、何故か俺はベッドへと降ろされた。


「さ~て、これでウチらを邪魔する野暮な奴らは居らんくなったなぁ? こっからは獅子代タ~イムやで~」


 バサッ!


「ちょ、高遠お前、上着を!?」

「ん? そりゃこれから致すこと考えたら服は邪魔やろ?」

「いや、邪魔って……。それに腹痛はどうしたんだ? もう治ったのか?」

「な~に言うとんのや、ウチは最初からピンピンしとるわ。あんなもん口実にすぎん。ま、大事なのはこれからや」


 スルッ!


「おおおお前、下まで!」

「キャハハハ! 相太はおもろい反応するなぁ。下着姿になっただけやん。別にやましいことするんとちゃうし、堂々としてればええねん」

「おもいっきりやましいし、堂々としてられるか! こんなの他の誰かに見られたら――」

「それはそれで興奮するんちゃうか?」


 あ~ダメだ。話が通じない……。


「というか何だってこんな真似を……」

「そらウチだって穏便に行きたかったんよ。けどな、これぜ~んぶ魔穂と勇美のせいなんやで?」

「魔穂と勇美の?」

「せや。アイツらから正体明かされたやろ? 魔王と勇者の生まれ変わりってな」

「確かに聞いたけど……」


 ん、待てよ? 高遠まで二人の正体を知っている? 神崎さんも知っててあっちはエルフだった。ってことは……



「高遠、まさかお前も!?」

「お? やっと気付いたんか。ま、お察しの通りやな。ついでに明かすと前世は獣王(ビーストキング)や。な? かっこええやろ!」


 なんだか獣が大暴れしてるとこしか想像できないんだが……。

 

「あ、その目は疑惑の目やな? そんなに疑うなら直に確かめたらええねん。ほら――」


 グイッ!


「お、おい、俺の手で何を……」

「ムッフフ~、特別にウチの身体を触らせたる。ほ~ら、抵抗せんで楽になったり~や」


 グイグイグイッ!


 高遠のやつ、俺の手を強引に胸に持ってこうとしてやがる!


「や、やめろ、マジでヤバイって!」

「心配性やなぁ。そこの三人は絶賛気絶中やし、邪魔者は居らんねんで?」

「目を覚ましたら俺が責められる、他の生徒が来ないとも限らねぇ、とにかく今は――」

「むしろ今やん、今がチャンスやん、ほれほれほれほれぇ♪」


 あ~クソ、元獣王だけあって力が凄まじい。このままじゃ――



「さぁ、いよいよ決着がつくか? つくのか? ついちゃうのか~~~? カウントに入るぞ~、ワン! ツゥ! スリィ! ――って、もう終わり?」



「「金持ぃ!?」」

「は~い、みんなのムードメーカー実況の金持幽子で~す! それより続きはしないのん?」

「「できるか!」」


 カウントが終わり勝者が誰なのか分からないまま、コテンと首を傾げた金持を視界に収める。

 というかいつの間に入って来たんだ? ドアの鍵は高遠が掛けたはずだが。


「……チッ、せっかくのチャンスが無駄なったわ」

「はいはい~、残念だったね~♪」


 不意に現れた金持もそうだが、悔しそうに体操着を着る高遠に俺は違和感を覚える。あの三人をKOしておきながら、なぜ金持には手出ししないのか。そう思っていると、高遠がつまらなそうに教えてくれた。


「すまんな相太、コイツは少々やっかいやねん。何せコイツは――」


 またしても俺は、驚愕の事実を知ることになる。


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