クラス委員も普通じゃない!
勢いよく立ち上がったクラス委員――神崎絵留乃が担任を睨み、矢継ぎ早に言葉を投げつける。
「先生、この席はくじ引きにより公平に決まったんですよ!? 転入生だからって要望通りにするのはどうかと思います! そもそもくじ引きを提案なさったのは先生ですよね? それを無に返せと?」
「い、いや、しかしだな……」
「それとも転入生に気を使えと? 人は生まれながらにして平等なんです。甘ったれた根性で通えるほど、うちの学校は安くはありません」
「いや、だから……」
「だいたいポッと出の女のくせに、相模君を名前呼びとか100年早いですよ。私なんていまだに恥ずかしくて言えずじまいなのに。まぁ家ではこっそり練習していますので、近々言わせてもらいますが」
いや、練習するほどのことか? それに名前呼びでも別に構わんけどな――
「「…………」」ジロッ!
――って、汚物を見るような二人の視線が神崎に!? 神崎は神崎で負けじと睨み返してるし、早くも波乱の幕開けかよ!
「……そもそもですよ? こんな事態に発展してるのは担任の貴方が不甲斐ないからです! ええ、そうに決まっています。そんなだから彼女にフラれるんですよ」
「ちょっ、なぜそれを!」
どうでもいいけど担任が涙目になってるんだが、止めた方がいいのかこれ? 特に彼女云々のくだりとか。
従姉妹の哀れみの視線が担任に向いてるじゃねぇか。
「はぁ……先生にはガッカリです。所詮は仮性○茎ですね。そんな有り様で女が寄り付くと思っているのなら大変おめでたい。この先一生モテる事はないでしょう。いえ、この場で断言します。先生、貴方はどうしようもない負け犬です。犬なら犬らしく3回まわってワンと吠えて、チン○ンしながらご退場願います」
「クスン……」
容赦ない神崎の口撃により、担任敢えなく撃沈。
だがそれだけでは終わらない。次の矛先は魔穂と勇美に向いた。
「邪魔者は消えました。次は貴女たちです」
「我々だと? いったい何をするつもりだ」
「まさか暴力にでも訴える~? あたしはそれでもいいけど~、貴女――え~と……」
「神崎絵留乃です、米沢勇美さん」
「オッケ~、エルルンね」
「馴れ馴れしいですね……」
「まぁそんなことよりさ~、エルルンって細身だけど運動できんの~? いかにも勉強好き過ぎて、すぐにヘタリそうじゃ~ん?」
「フッ、そんなことですか」
勇美の挑発を受け、神崎さんがメガネを外した。目を瞑った表情からは余裕綽々。意外にもスポーツが得意だったのかもしれない。
「心配ご無用。これでも毎日適度な運動を心掛けているのです。決して運動音痴では――」
あれ? そういや神崎さんって視力悪かったような……
「あの~、エルルンどっち見てんの? あたしたちはこっちだよ?」
「……すみません。視力が悪いもので」
だったらメガネ外すなよ……。
スチャ!
「ふぅ……。やはり慣れないことをすべきではありませんね」
「そだね~。で、どうするの? やるの、やらないの?」
「もちろん受けて立ちますよ。貴女たちにその気が有るのならね」
腕組みを解いてクイクイっと指でカモ~ンみたいな挑発を始めた。
「さぁ、欲しければ自力で勝ち取りなさい。只で明け渡すほどこの特等席は安くはありませんので。それこそ殺す気で挑んでください。所詮弱者は踏み台なのですから」
特等席? ……かどうかはともかく、最後に指をビシッと突き付けながら言う。個人的には命懸けという部分に突っ込みたいが、対する魔穂と勇美は乗り気のようで、不適な笑みを浮かべつつ――
「フッ、いいだろう。そこまで言うなら挑もうではないか。なぁ勇美?」
「もっちろん! どっちがソータの隣に相応しいか教えてあげる」
「勝負するんですね? では体育館へ向かいましょう。今日の一時間目は体育ですので、雌雄を決するにはピッタリでしょう」
そういや今日の体育は陸上だったな。先生はいまだにダウンしてるから自習になるだろうけど、この三人にとっては好都合だろう。
★★★★★
魂が抜けた担任を放置し、着替え終わった全員が体育館へと集まった。
クラスメイトが輪になった中心に魔穂と勇美。その二人と対峙する神崎と、何故か後ろに茶髪ポニテの熱血スポーツ少女――高遠獅子代が。
「そちらは確か高遠さん……だったか? まさかこの神聖なる戦いを邪魔しようというのではあるまいな?」
「フッ、そんなんじゃありません。2対1では不公平――」
「だからエルルン、メガネ外しちゃ見えなくなるって」
「――失礼。そちらの人数に合わせたにすぎません。これで2対2なのですから公平です」
勝負と言えど生真面目なところは変わらないらしく、キチンと助っ人を頼んだようだ。
でも神崎さんと高遠はあまり反りが合わなかったと思うんだが、どうしてこの二人が組んだのやら。
「まさかウチが神崎と組むことになるなんてなぁ。まぁ事情が事情やし、相太が絡んでるんならしゃ~ないか」
「え?」
発言内容が気になるんで、高遠にこっそり耳打ちしてみた。
「なぁ高遠、俺が絡んでるのが組む理由なのか?」
「せやで~。次の席替えでウチが相太の隣になるっちゅ~条件を付けたけどな~」
「俺の隣――って、席替えはくじ引きじゃ……」
「確かにくじ引きやけど、神崎だけあらかじめ袖の下に仕込んだ紙を使ったんや。それでまんまと相太の隣にっちゅ~ことやな。聖人みたいな面しよってホンマ悪党やわぁ」
ぜんっぜん公平じゃねぇ! あの生真面目な神崎さんはどこ行った!?
あ、でもどうしてインチキまでして俺の隣に? まさか神崎さんも魔穂や勇美と同じように? じゃあ高遠も!
「お? その表情、ようやく気付いたっぽいなぁ? ホンマ鈍感なやっちゃで~、このこのぉ!」
「い、いや、今までそんな素振りは無かっただろ。なんだって急に……」
「そら互いに牽制し合ってたからなぁ。軽く喧嘩にまで発展したこともあるし、なるべく表沙汰にせんように暗黙のルールがあったんよ」
そうか。だから神崎さんと高遠は仲が悪いように見えたのか。
「けどそのルールも昨日までや」
「何でだ?」
「そんなん決まっとるやろ。あの双子があからさまに相太に色目つこうてるやん。そんなんされたら暗黙もクソもないっちゅ~ねんホンマ。だからこうしてぇ……」
ムギュ!
「ちょ、高遠!?」
む、胸が……高遠の巨乳が俺の腕に押し付けられている! これはこれで魔穂とは違った感触が!
「なぁ相太ぁ、今日あたりウチと二人きり、放課後にでもどや?」
「放課後に――って、何をする気だ?」
「まったまたぁ、分かってるくせにぃ。ウチら思春期の男女やで? 若いウチらがやる言うたら1つしかないやろ」
「それって……」
「まずは日が沈むまでデートやろ? それでお互いの距離を縮めるんや。特に相手の好きなものや好きなことを素早くインプットすんのを忘れずにな。あ、ちなみにウチの好物はコンビニの唐揚げや。バッチリ記憶した頃にはウチもクタクタになってんやろし、疲れたウチを労りつつ「少し休んでいかないか?」って問いかけるんやで。するとな、目の前には都合よくムーディーな建物が――」
スパスパスパーーーン!
「いったぁぁぁぁぁぁ! 何すんねんおどれら! いいとこやったのにぃ」
「勝負する前に抜け駆けをするからだ」
「エルルン、パートナーはしっかり選ぶべきだよ?」
「すまない、肝に命じておく」
ハリセンでブッ叩かれた高遠がズルズルと中央に引きずられていく。
高遠が俺に絡んでる間に対戦内容は決まったらしく、審判を買って出たショートカットに青いヘアバンドがトレードマークの金持幽子がマイクを手に実況を開始した。
「さぁ皆さん、これより始まるのは相模相太の隣は誰だというその他大勢にとってはどうでもいいが本人たちは至って真剣だぞ対決でぇ~す! でもって実況はわたくし、なかなか寝付けなくて深夜にヒトカラしてたら裏手にある墓地から幽霊による苦情が大量に寄せられてしまったみんなのムードメーカー、金持幽子がお送りしま~す!」
ヒューヒュー!
パチパチパチパチ!
金持の台詞に反応し、周囲から拍手と歓声が上がる。
いやいや、その他大勢にとっちゃ関係ないんじゃなかったのか――と思ったが、授業が潰れて喜んでるだけだな、多分。
ちなみに金持、深夜のヒトカラは止めとけ。家族にも近所にも幽霊にも迷惑だから。
「ルールは簡単。卓球ダブルスによる対決を行い、先に11点を獲得した方が勝ちとなりま~す。但し時間を無駄にしたくないので、10対10になってもどちらかが11になった時点で試合終了で~す。また試合を盛り上げるため、サーブ権は失点した側に回されま~す。ではセットレディ――」
「「…………」」
「「…………」」
ピンポン球を手にした金持が中間に立つ。そして真上に向けて……
「ゴーーーッ!」
シュババッ!
天井に向かうピンポン球を追い、勇美と高遠が飛び上がる。
脚力は互角のようで、ほぼ同じ速度で球に追い付くと、下の卓球台に向けて――って、卓球ってそんなスタートだったか!?
「いっくで~、ウチのウルトラスマッシュよう見ときや!」
「ふ~んだ、勇者舐めんな!」
バシィィィ――――――――ダン!
「決まったぁぁぁ! なんと、先制したのは米沢チーム。勇美選手の華麗な一撃がコートの中にめり込みましたぁぁぁ!」
すでに本来の卓球から離れつつあるが、勇美たちが先制したようだ。
「どう? 今なら泣いて土下座すれば惨めな思いはしなくて済むよ?」
「フッ、バカなこと――」
「だからエルルンメガネ!」
「――失礼。バカなことを言わないで下さい。たかが先制したくらいで勝った気になられては困ります。最後に勝つのは私なのですから!」
バシィィィ!
「反撃とばかりに神崎選手による鋭いサーブが放たれたぞ~? さぁさぁ、米沢チームは防げるかぁぁぁ!?」
「フン! そんなちゃちなサーブ、あたしが打ち返して――」
スイッ!
「えっ!?」
おいおい、どういうことだ? あからさまに球が向きを変えやがったぞ!? それこそ90度近く変わったようにすら見えた。
ストン!
「そんな!」
結局打ち返すことができず、1対1の同点となってしまった。
呆然としている勇美を尻目に神崎さんが素早く俺に駆け寄り、目の前で起こったことを親切に耳打ちしてくれた。
「どうです相模君。肉体労働は不得意ですが、精霊を使って軌道を変えるくらいならできるんですよ?」
「せ、精霊?」
「はい。私の前世はキャリアーエルフですので、あの程度の精霊魔法なら造作もありません」
突然のカミングアウトにまたしてもたじろぐ俺。まさかクラス委員まて普通じゃないとは……。