従姉妹は普通じゃない!
「え~、今日からこのクラスの一員になる、米沢魔穂さんと米沢勇美さんだ。この二人は双子の姉妹で……」
担任による紹介の最中も、従姉妹の視線は俺に集中している。そう、この二人は俺の従姉妹で、この俺――相模相太と同じ高校に通うべく新学期から2ヶ月すぎという中途半端な時期に転入してきたんだ。そう、俺と一緒に通学するために渋る両親を説得し、俺の実家で同居ってわけ。
のろけ話は聞きたくない? まぁ聞け。
確かに二人は美少女だ。すっげぇ可愛い。今もクラス中の野郎が鼻の下を伸ばしてるに違いない。
まずは姉の魔穂。クールな表情に爽やかなストレートロングで、振り向くとファサッと靡くところが実にいい。何となく良い香りがしてくるし。
続いて妹の勇美。目に焼き付いて離れないツインテールにピンクのリボン。更に小悪魔的な笑みで男を釣るところはあざとい! 実にあざとい!
フリフリ
あ、俺に手を振ってきた。勇美は満面の笑みで、魔穂は少々照れくさそうに。その仕草に勘違いした何人かが手を振り返してやがる。
ふっ、残念だったな。その仕草は俺に対する――って、結局はのろけ話だろって? いやいや、ここからが本番だ。
実はこの二人は少し――いや、かな~~~りおなしなことを言っててさ。これは先日家でカミングアウトされた内容なんだが……
~~~~~
「は? 魔王と勇者の生まれ変わり?」
「そうだ。魔王として君臨した私と勇者として立ち上がった勇美とで対立してな、長く続いた戦乱の末にその世界は滅びたのだ」
「…………」
俺氏、思わず絶句。10年近く会ってなかったんだが、いったい魔穂に何があったっていうんだ? 真顔で冗談を言う性格じゃなかったはずだが。
それに悪ふざけは勇美の専売特許だし、勇美の性格なら悪ノリで茶化してくるはず。
だが……
「あ~、あれは切なかったねぇ。互いに最強の技を繰り出したら愛しのソータまで消しちゃったんだもんねぇ。それであたしと魔穂は自害したんだよ。ソータの居ない世界なんてな~んも楽しくないし」
重い、重すぎる! しかも勇美のこの反応、茶化してる時には絶対に見られない。こりゃ信じる以外にないのか? だが「はいそうですか」と信じられる内容じゃないのも確かだし……
「相太は、その……信じてくれるか? 今の話を……」
「これ、ぜ~んぶホントのことなんだよ? 信じてくれるよね?」
そ、そんなウルウルした目で見られたら信じる以外に選択肢はないも同然じゃないか。ああ、答えはイェスだ。
いや、二人が可愛いのとは別の話だぞ? 選考基準には含まれないからな? 絶対だぞ?
「ま、まぁ、取り敢えず信じるとし――」
ガバッ!
「さっすがソータ! 話が分かる~!」
「ちょ、勇美!?」
ヒシッ!
「ありがとう相太。信じてくれるとは思っていたが、話すまで不安だったのだ」
「お、おい、魔穂まで」
や、やべぇ、やべぇッスよオヤッサン!
正面からは勇美に抱きつかれ、後ろからは魔穂に手を回されてるこの状態。小柄な勇美の胸元がチラリと見えそうだし、背中に当たる魔穂の巨乳が存在感をアピールしてくるしで、俺の理性が限界を迎えそうだ!
「わ、分かった、分かったから落ち着け。こんなとこ、親に見られたら誤解されるだろ」
「え~? あたしは別にそれでも――」
「ダメだっての。万が一にもお前らの両親に知られたら俺が八つ裂きにされちまう」
「「あ~確かに……」」
そう言って残念そうに離れる二人。
コイツらの両親――主に父親(俺視点だと叔父にあたる)の方はメッチャ怖いんだよ。二人が俺の家から通学するって言い出した時も大反対したらしいからな。バレたら怒鳴り込んで来るかもしれんし、俺のヘタレな両親じゃ絶対に止められねぇ。
「そういう訳でだな、スキンシップはほどほどに頼む。学校でもNGな」
「通学路もか?」
「もちろん」
「電車の中は~?」
「おもいっきり通学中だろ……」
「休日の外出時もか?」
「当然」
「お休みのショッピングは~?」
「それも外出時! ……コホン。まぁとにかくさ、あまり目立たないようにしたいんだ。噂が広がって叔父さんの耳に入っちゃって同居解消――とか嫌だろ?」
「「絶対嫌!」」
俺だって嫌だ。同居解消も残念だが叔父さんに半殺しにされるのは絶対に御免だぜ。
「あ、でもさ~、外がダメでも家の中なら大丈夫だよね~♪」
「……え?」
「うむ、勇美の言う通りだな。こうしてまた巡り会えたのだし、これからは1つ屋根の下、共に愛を育もうではないか」
「ええっ!?」
離れた二人が再びにじり寄る。
「おい、待てって。家の中でも親に見つかったら――」
「確か今日はご両親共に夜まで帰らないのだろう?」
「つ~まり~、今がチャンスってことじゃ~ん」
そうだった。今日は日曜ってことでショッピングに出掛けてんだ。
「――という訳でぇ……」
ダキッ!
「おぉう?」
「これからはずぅ~っと一緒だよ♪ 魔穂が邪魔だけど我慢してね」
「邪魔とはなんだ、私からしたら邪魔なのはお前の方だ!」
ダキッ!
「おおおぉう?」
ヤバイヤバイヤバイ! また二人に抱きつかれちまった!
「ちょっと魔穂~、あたしとソータのプライベートを邪魔しないでくれる~?」
「何を言う、勇美の方こそ目障りだぞ? 妹ならおとなしく譲れ」
「はぁ? 双子なのに姉とか関係ないし~、双子じゃなかったとしても遠慮する必要ないじゃ~ん。ね、ソータも魔穂が邪魔だよね~?」
ムギュ!
「い、いや、あの……」
「戯けたことを。私が居れば勇美は不要。邪魔物は失せるがいい」
「だ~か~ら~、邪魔なのは魔穂!」
「い~や、勇美だ」
「魔穂!」
「勇美だ!」
徐々に険悪になる二人。掴み合いに発展かと思いきや、別の方向へと向かい……
「もぅ! こうなったらどっちが先にソータを落とすか勝負よ!」
「望むところだ。私の全身を余すとこなく使い、相太を魅了し尽くしてくれる!」
「あたしだって、スレンダーな魅力を堪能させてやるんだから!」
ムギュギュギュギュ!
美少女二人のサンドイッチきた~! しかも上着まで脱いでてブラジャー越しに大小異なる感触が――って、俺の理性も飛びかけてる~!
いやもうマジ激ヤバ! 両親はまだ帰らないが、家にはまだ――
ガチャ!
「ねぇ相兄、英語の参考書を貸して欲し――」
「「「あ……」」」
そう、家には受験勉強中の妹が残っていたんだ。そんな我が妹――愛漓が目を丸くして固まっていたかと思うと、ハッとなってスマホを取り出し……
「え~と、110番110番……」
「だぁぁぁ違う違う違う違う! 誤解だから、間違いだから、何もかもが嘘だからぁぁぁ!」
「何が違うのよこのゲス野郎! 同居するのをいいことに初日から襲うなんて、とんだ変態野郎じゃない!」
「だから違うんだって! 二人ともちょっと混乱してるだけなんだって! 魔穂が魔王で勇美が勇者なんだって!」
「警察だけじゃなく救急車も必要みたいね。今すぐ呼んだげるからさっさと二人から離れなさい!」グイグイ!
サンドイッチ状態だった俺を愛漓が強引に引っ張り出す。
ここで我に返った魔穂と勇美が弁明を開始した。
「聞いてくれ愛漓、本当に違うんだ。相太は何も悪くない」
「そうそう、ちょっとした悪ふざけだよ。久しぶりに会ったからテンション上がっちゃった~みたいな」
「……ホントに?」
「「ホントホント!」」
「……ふ~ん? まぁ二人がそう言うならそういう事にしときましょ。でも襲われたらいつでも言ってね? すぐにこのエロ猿を叩き出してやるから!」
「う、うん……」
「あ、ありがとうアイリン」
我が妹ながら実に悲しいことを言う。従姉妹が来てから――つ~か来たのは今日だが、どうも愛漓の俺を見る目が厳しい気がする。
友達が少ない愛漓にとって、この二人は数少ない話し相手っていうのがあるのかもな。
……いや、それともアレか? 冷蔵庫の奥に隠されてたレアチーズケーキをこっそり食ったのがバレたか?
恐らくは愛漓の分だっただろうし、それに気付いて不機嫌なのに違い。ここは1つ、先に謝っておくのが得策かもしれない。
ガバッ!
「「「!?」」」
「すまん愛漓、お前の怒りはもっともだ。今後は絶対に手を出さないと誓う!」
「そ、そう? まぁ土下座するくらいだし、反省してるならいいんだけど……」
「ああ。これからはお前に聞いてから手をつけるようにする」
「……は? 手をつける?」
「ごめんな愛漓、勝手にレアチーズケーキを食っちまって」
「はぁぁぁああああああ!? アレ食べたの相兄だったのぉぉぉ!?」
「あ、あれぇ? その反応だと知らなかったように見えるんだが……」
「今知ったわ! てっきり非常識な勇美ちゃんが無神経に食べ尽くしたのかと思ってたのに実は相兄だったなんてね! ホンッッットに最低!」
【速報】俺氏、墓穴を掘る。
どうやら今日のおやつに食べようとしたら既になく、ガッカリしてらしい。余計なこと言わんきゃよかった……。
「相太、妹のを勝手に食べるとか、さすがにそれは……」
はい、海よりも深く反省しております。
「というかあたし、軽くディスられてなかった?」
残念ながらディスられてます。
その後、暴れる妹を宥めてるうちに夜になり、うやむやのまま就寝。
今後に不安をいだきつつ……
~~~~~
今に至る――と。そんな二人と同居しなきゃならねぇしクラスも一緒だしで、この先不安しかねぇっての。
いや、何度も言うが同居はいいんだよ? 但しな、こうも毎回振り回されるんなら精神が持たないって。
――などと考えていると、担任の言葉で現実に引き戻された。
「――という訳でだな、二人の席をどこにするかだが……」
担任が教室内をグルリと見渡す。基本席は男女ペアで座るんだが男子の人数が数名多く、野郎同士でペアになっている残念な4組がいるんだ。
こうなると彼らにとっては大チャンスであり、8人が急にソワソワし出したのが遠目でも分かるんだが……
「あ、だったら先生、あたしソータくんの隣がいいな~!」
勇美の一言によりクラスメイトの視線が俺に集中する。
「え? 相模の知り合い!?」
「くっそ~、あんな可愛い姉妹と顔見知りかよぉぉぉ!」
「しかも名前呼びですと!?……マジうらやまですぞ!」
クラス中の野郎から向けられる羨望と嫉妬の眼差し。特に例の8人から。
なんかもう、クラスの大半の野郎を敵に回したような気がする。
あ~もぅ、明日から休みてぇ……。
「ふむ、相模と知り合いか。なら相模、お前の隣に――」
――と担任が言いかけた瞬間、隣の席がガタッと音を立てた。
「ちょっと待ったぁぁぁ!」
俺の隣で勢い良く立ち上がったのは、曲がった事は毛ほども許さずな、ポニーテールに黒渕メガネのクラス委員長――神崎絵留乃。
新たな波乱の幕開けである。