終戦
あれからどれだけの日にちが経ったものか? 僕は連合艦隊司令長官の前で暴言を吐いた為、憲兵に連行されたが、温情が心労だろうという事から病院に入院させられた。しかし、それは入院では無く監視付きの監禁だった。
「少なくても2年近く経っている筈だ? 日本は一体どうなってしまったのか?」
そうなのである。入院してから最初は日数を数えていたが、あまりに長い間満足に人と喋っていないせいか、意識が朦朧として、日数がわからなくなっていた。少なくても2年近くはここにいる筈だ。最初は正確な日数を数える事ができたが、何もなく、筆記道具もないこの病室では困難な事だった。
僕は収容されてのは、おそらく八王子の病院だ。連れて行かれる時の道路から見える街並みから推定した。時々空襲警報の音が聞こえた。だが、既に終戦は迎えている筈なのだ。一体何が起きているのだ?
そんな時、監獄の様な僕の部屋を訪れた人物がいた。僕の部屋へは食事を受け渡しする時に人が近ずく以外人が来た事はなかった。食事係も小さな窓からトレーに乗せて差し入れられるで、話した事はなかった。
「誰だ?」
音が近ずく、食事の時間はつい小一時間前だ。すれに靴の音が全然違う。
靴音は二つだった。そして、ドアがノックされる。
「不知火大尉の部屋ですか?」
「そ、そうです。不知火です」
僕は久しぶりの人の声に興奮を抑えきれなかった。それに、この声は聞き覚えがあった。
「今、開けてもらいますので、しばらく待っていてください」
ガチャガチャと鍵の音が聞こえる。そう、僕の病室は正しく監獄だった。
ドアが2年ぶりに開くとそこには懐かしい顔を見た。
「げ、源田大佐…」
今は大佐だろうか? わからない。あの懐かしい一航艦の航空参謀源田実がそこにいた。そしてその隣にいたのは祥鳳の艦長藤沢大佐だった。
「源田大佐、それに藤沢艦長!? 生きていたのですか?」
「ああ、君の指導通り、海の飛び込んだらね。米軍が救助してくれた。礼儀正しくしていたから、扱いもよかったよ」
「全く、君の意見を聞いていれば、日本はこれ程壊滅的な被害はでなかったものを…」
源田実大佐は自嘲気味に言った。
「い、今は昭和何年なんですか?」
僕は息せき切って聞いた。一体今は何時なんだ?
「今は昭和21年12月18日だ。戦争がようやく終わった」
「戦争は終わったのですか?」
僕は目頭を押さえて聞いた。あの忌まわしい戦争がようやく終わったのか?
「君の言っていた歴史とは少し違うが、戦争は昭和21年8月15日に終わった」
「そうだ。青森の大湊と北海道の札幌に原子爆弾を落とされてようやくな」
「大湊と札幌…」
僕は全集中で思考した。今、原爆が大湊と札幌に落とされたと言った。何故長崎と広島ではないんだ?
「君の知っている世界と随分と変わってしまったらしい。全てはフィリピン沖海戦(レイテ沖海戦)が原因だ。あの勝利が結局戦争を長引かせた。米軍の輸送船団の陸軍兵を西村艦隊と志摩艦隊が叩いた為、米軍はフィリピンで足止めをくったらしい」
「そ、そんな…」
僕は思わず呻いた。何故なら西村艦隊がレイテ湾に突入したのは他でもない僕が原因だ。僕がこの無駄な戦いを長引かせてしまったのか?
「まあ、つもる話もあると思う。まずはここを出よう。本当は君はとっくに解放されてしかるべきだったんだが、関係者が戦死してしまって、君の事が忘れられてしまった様なんだ」
「一体どういう事ですか? 源田大佐?」
「今は大佐じゃないさ。今は無職だ。GHQは旧軍人を全員無職にしたんだ」
「GHQ…」
おかしい。GHQができるのが早すぎる様な気がする。そもそも東京裁判が未だの筈だ。何故源田大佐は軍人じゃないんだ?
「先ずはここを退院しよう。ここは精神を病んだ軍人の病院だが、君の場合一時措置の筈が、連合艦隊司令長官が戦死されて、その後の措置が忘れられてしまったんだ」
「そういう事だったのですか?」
僕は納得がいった。正直何故これ程長く監禁されるのかわからなかった。本気で監禁する気なら本物の牢獄に入れるべきだろう。僕がいた病院は何も無いが清潔なベッドと風呂もトイレもついていた。自由さえあればむしろこの時代好待遇だ。それに終戦間近にも関わらず食事も出された。奇跡的な事だった。
僕は身支度を整えると、源田は自動車を用意していた。そして、東京に向かって走っていった。そこにあったものは僕が子供の頃歴史書で見た戦後の焼野原だった。
「こ、これが東京…」
「君の言う通りだった。日本は焼け野原になってしまった」
「だが、私達には未だやるべき事がある…」
「何なんですか?」
「祖国統一だ」
源田の言葉に僕は息を呑んだ。その意味するところは?
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