レイテ沖海戦4
9時頃西村艦隊には多数の攻撃機が来襲した。その後はおよそ40機だった。米軍は正規空母を1乃2を基幹とする機動部隊を編成していて、空母を伴わないこの艦隊にはそれ程多くの攻撃機を割かなかった様だ。
「レイ、紫電改、頼む!」
「仕方ないわね。偶には駄犬の言う事も聞いてあげるわ」
「―――――~~~~ッ!!!!」
二人が米軍の艦載機に襲い掛かる。未だ航空機にレーダーを搭載できていないだろう。仮にレーダーを装備していても人のサイズのレイや紫電改を探知する事は不可能だ。米艦載機は奇襲攻撃を受けて粉砕されるだろう。
程なくして、レイから連絡が入る。
「葵、全機撃墜したわ。ご褒美の逆さ吊りはちゃんとしてあげるから、期待していいわよ」
「そんな本格的なの嫌!」
「葵はツンデレなのかしら?」
いつ僕がデレた? レイは何を言ってるのかな? 罰として後で漢字の書き取りを2時間やらせよう。レイはあの知的なクールビューティな容貌の癖に凄い馬鹿だった。ソロモン海海戦からしばらく暇だったので、僕は軍学校で学んだ事をみなに教えた。そんな中でぶっちぎりで赤点だったのがレイだ。いや、軍学校どころか一般教養すら危うい赤点具合なのだ。
僕は魔法通信を切ると、司令に報告した。
「西村司令、敵機は全機撃墜しました。続いてスリガオ湾の敵艦隊への攻撃を許可ください」
「うむ、わかった。頼む」
「了解しました」
僕は再び魔法通信を開くと、レイ達に命令した。
「レイ? 紫電改、彗星、ナナ、銀河の5人で敵艦隊に攻撃して、先ずは魚雷艇と軽巡洋艦以下の小型艦艇を攻撃して」
「また命令なのね? 生意気ね、後でやっぱり逆さ吊りが必要な様ね、もちろん鞭でもぶってあげるから安心して…もう、ドMにはご褒美ね」
「いや、ドMはレイの方だろ? 逆さ吊りはむしろレイの方がされたいんだろ?」
「そ、そんな、葵、みんなの前でそんなご褒美が欲しいだなんて言えないわ!」
やっぱりして欲しかったか…いや、そんな本格的なの無理だからね? そもそもあれの何処に快楽があるのかがわからん。
「とにかく、突撃!」
「わかったわ葵! 私、逆さ吊りの為に頑張る!」
もう、レイは何処まで残念なの? 逆さ吊りされたい為に頑張る女の子はいくら美人でも嫌だな。特にレイは馬鹿という残念な特徴まで備えており、一番残念だ。僕としてはレイに勉強を教えている時、むしろレイにいつものドS口調で「こんな事もわからないのかしら? むしろ私が教えてあげる、葵の様な馬鹿さんには…」というのを期待していた位なのに、全く。
しばらくするとレイから連絡があった。
「葵、奇襲成功。敵駆逐艦6、魚雷艇20撃破。もう、ご褒美に逆さ吊りしてください」
もう、レイは本気で僕がそんな事すると思っているのかな? 僕は常識人だよ。それにドM設定もドS設定も忘れて可愛く逆さ吊りをおねだりするって何なの?
「レイ、僕はそこまで、アウトな事はできないから、それ以上期待しないで…」
「えっ!? そんな、じゃあ、レイ、何のためにあんなに頑張ったの?」
しらないです。
「じゃ、じゃあ、葵、逆さ吊りが無理なら、ご褒美にレイの事を殴って?」
「まさかぐーで?」
「う、うん、お願い…」
いや、駄目だろ? 女の子をぐーで殴るのだなんて、
「レイ、無理」
「じゃ、せめてビンタお願いします」
「だから、暴力は駄目!?」
プチンと言ってレイが魔法通信を切った。怒ったらしい。でも、レイの方が悪いよね?
僕は気を取り直して、加賀に魔法通信を送った。
「加賀先生、射程に入り次第、敵艦隊への航空攻撃をお願いします」
「あら、先生だなんて、加賀嬉しいわ。でも、呼び捨てにされるのもいいわね。できれば時々『駄目な先生だな。生徒を好きになるのだなんて』、なんて言ってくれると嬉しいな」
加賀先生、僕に告白する前に僕の事好きなのバレバレなのどうしたものなの?
「加賀先生、それはおいておいて、航空攻撃を、敵魚雷艇が前方に20隻程展開している様です。それをお願いします」
「了解、葵君、上手くできたら、先生の事、好きにしていいからね」
「いや、先生何言ってるんですか? 駄目な先生ですね。生徒を好きになった上、好きにしていいだなんて…」
「ああ! 葵君、その嘲りが最高にいい!」
ふう、疲れる。加賀先生へのご褒美はこれ位で十分なのである。レイに比べると唯の言葉責めなので僕にも何とかこなせる。レイの要求は変態の極致だからほとんど無理だ。
加賀先生が弓を引き絞る。放たれた矢は妖精さんの乗る航空機となって、敵魚雷艇群に襲い掛かる。魚雷艇はたちまち殲滅された。
史実では空襲に悩まされた西村艦隊は全く空襲の心配もなく、進撃を続ける。後に重巡洋艦最上が発見する筈だった敵魚雷艇群は残骸だけが発見されるだろう。
栗田艦隊から無電が入り、空襲を受けている事が判明する。この戦いが計画されたのは、ひとえに基地航空隊が米機動部隊のほとんどを撃沈した事になっており、米機動部隊からの攻撃はほぼ無い事を想定してたてられた。そのくせ、艦隊の提督は誰一人として基地航空隊の戦果を信じてなどいなかった。全く無駄なプライドと遠慮が僕をはじめ、多くの将兵を危険、いや、無謀な戦いに赴かせた。
西村提督が有名な麾下の艦艇に激励の信号を送る。
「皇国の興廃は本決戦に在り。各員一層奮励皇恩の無窮に報い奉らんことを期せ」
真面目な性格なのだろう。この無謀と愚鈍な上級士官の決断に黙って従う西村司令。武人とはそういうものだとわかっていても割り切れるものではない。彼は生粋の武人なのだろう。ただ、生まれた国が悪かった。米軍ならその手腕を発揮し、名将と呼ばれる事もあったかもしれない。しかし、日本軍の艦艇を指揮し、指示通りに動いた彼は世界で最も不幸な提督となった。
時に、1944年10月22日、終戦まで後、10か月である。
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