レイテ沖海戦1
レイテ沖海戦、昭和19年、西暦1944年10月20日から25日にかけて、フィリピン沖にて日本軍と連合国軍の間で交わされた海戦。日本軍はフィリピン死守を目指して航空艦隊を囮に水上打撃部隊を揚陸中の輸送船団に突撃させる無謀な計画をたてた。圧倒的に有利な筈の迎撃戦ではあったが、日本軍は作戦用航空機を既にマリアナ沖海戦台湾攻防で失っており、日本軍にまともな作戦などできる筈がなかった。
「…連合艦隊より発令があった」
「フィリピン沖ですか?」
藤沢艦長のつぶやきから、僕はおそらくフィリピン沖での戦い、レイテ沖海戦に空母祥鳳が参加する事になると考えていた。史実と違い、マリアナ沖海戦で米軍正規空母2隻、軽空母2隻を撃沈するという大戦果をあげた日本軍だが、作戦可能な機体は大幅に減少した。そしてなけなしの稼働機は台湾沖で使い潰されてしまったのだ。今の日本軍にまともな艦載機はない。しかし、空母には囮という使い方がある。
「祥鳳には零戦が20機程あるが、第一機動艦隊には満足に稼働機はない筈だ。連合艦隊は一体何を考えているのだ?」
「…囮ですよ」
一瞬、藤沢艦長の顔がこわばる。当然だろう、空母を囮にだ等正気の沙汰ではない。しかし、日本軍にはもう後がないのだ。既にグアムを失陥、台湾を失陥、そしてフィリピンを失陥したら、次は沖縄だ。もう、日本には空母戦力を整えている時間などはないのだ。
「つまり、艦載機を積んでいない空母で敵機動部隊を引き付けて…」
「おそらくそうです。日本には水上打撃戦力しか残っていません。ちょうど、珊瑚海海戦で祥鳳が敵機動部隊を引き付けて囮になったように、今度は水上打撃艦隊の為に機動部隊を囮にするのだと思います。他に作戦なんて思いつかない」
みんな、ああという顔をする。空母のりにとって考えもしなかった事態だ。
「それでは日本はこれから先、どうやって戦うのだ? 空母もなく、航空機も無く…」
「マリアナ沖でこの戦いの勝敗は決しています。作戦可能機のほとんどを失った日本軍の負けです。正直、降伏するしかありません」
「それは軍人にはどうする事もできない事だ…」
「僕も軍人になって初めて悟りました。戦争を始めるのも終わらせるのも軍人の仕事じゃない。政治家の仕事です。僕達は停戦の命令が下されるまで、戦い続けるしかない」
みな、沈痛な面持ちだ。誰も口にしなかったが、本当はわかっていた筈だ。今の海軍の兵士の本音はこうだろう。『早く降伏してくれ』と…実際、敗戦は時間の問題なのだ。本気で神風が吹くとでも思っている軍人なぞいない。そんな事を考えているのは内地で安全な処いるヤツと右翼思想に包まれた一部の人間だけだろう。それにしたって、本土が焦土としたら、同じ事を思うだろう。
「どうやって、機動部隊を守り切るかだな?」
「それは僕に任せてください。新しい戦力も入りました」
「いや、君は違うんだ」
「えっ?」
僕は藤沢艦長の言葉に驚いた。
「不知火中尉、君には本日付けで大尉に昇進してもらい、第二艦隊第二戦隊戦艦扶桑艦橋付けとなってもらう。正式な辞令は本日中に到着する予定だ」
「馬鹿な!?」
僕は思わず怒鳴ってしまった。僕の考えでは、レイテ沖海戦で機動部隊を僕の魔法小隊で守りきり、日本軍の残存航空兵力を結集し、沖縄沖で決戦を挑むつもりだった。もちろん、焼石に水で、大して結果は変わらないとは思っていた。しかし!
「君のいいたい事はわかる。だが、君の方が生き残る可能性は高い。祥鳳の事は気にするな。死ぬなよ。自分が生き残る事だけを考えろ」
「藤沢艦長…」
藤沢艦長は決してこの時代の将兵が口にしてはいけない事を口にした。僕の影響だろう。
「なに、我らだって君から教わって生き残り作戦をたっぷり考えてある。いざとなったら、早々に海に飛び込んで、米軍にでも救助してもらうさ」
「生きて下さい。僕も生きる事だけを考えます。生きていれば、戦後の日本の復興に貢献できます。死んだら、犬死も同然です。これまでに死んだ人には意味があったのかもしれない。でも、既に敗戦しかない今、死ぬことには何の意味もないです!」
藤沢艦長はやはりこの時代らしくないな。だが、僕には心地良良く感じられた。
僕の配属先戦艦扶桑はレイテ沖海戦の西村艦隊の旗艦だ。スリガオ湾に突入して圧倒的な兵力差の米水上打撃艦隊と交戦、なすすべもなく敗れた。敵をして、『あの様な死に方はしたくない』と言わしめた戦艦だ。僕はみんなに今回ばかりは説明をしなかった。
レイテ沖海戦の編成は
第一遊撃部隊
第一部隊(栗田艦隊)
戦艦 大和、武蔵、長門
重巡洋艦 愛宕、高雄、摩耶、鳥海、羽黒、妙高
軽巡1駆逐艦9
第二部隊(志摩艦隊)
戦艦 金剛、榛名
重巡洋艦 熊野・鈴谷・利根・筑摩
軽巡1駆逐艦6
第三部隊(西村艦隊)
戦艦 扶桑 山城、伊勢、日向(この世界では戦艦伊勢、日向の航空戦艦化は実施せず)
重巡洋艦 最上
駆逐艦4
第一機動艦隊(小沢艦隊)
空母 瑞鶴 、雲龍、蒼龍、龍驤、千代田、千歳、瑞鳳、祥鳳(作戦機280機)
軽巡洋艦3駆逐艦8
米軍
正規空母 ホーネット、ハンコック、イントレピッド、レキシントン、エセックス 、フランクリン
護衛空母16
作戦機1000機
戦艦12(オルデンドルフ艦隊含む)
重巡洋艦11
軽巡洋艦15
駆逐艦141
オルデンドルフ艦隊(西村艦隊と激突)
戦艦6隻、重巡洋艦4隻、軽巡洋艦4隻、駆逐艦26隻、魚雷艇39隻
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