昭和18年
ルンガ沖夜戦に勝利するも主目的のガ島への補給に失敗した日本軍はガ島での戦いを更に悪化させていった。ガ島に上陸している日本軍は既に三万人にも及ぶ、しかし、補給は満足にできておらず、戦闘可能な者は1000人にも満たない。ガ等は正しく餓島と化していたのだ。
これに対して12月31日、日本軍は御前会議でガ島からの撤退を決断する。
しかし、この頃、既に航空機搭乗員、将兵、航空機の消耗が激しく、海上作戦の基幹となる駆逐艦と、物資運搬の要である輸送船を大量に喪失したことは、日本軍の基本的な作戦遂行能力を喪失した事を意味していた。
昭和18年、西暦1943年2月1日から7日にかけてガ島撤退作戦、ケ号作戦が実施され、これに成功する。これまでの間、ガ島では、陸軍部隊の飢えと病の状況はひどく、死んだ戦友の肉を食べ、食糧を奪い合うなど、戦争をする部隊とは言えないものだった。
その後、日本軍は敗色が濃くなったが、作戦目標をソロモン諸島の西に位置するニューギニア島の連合国軍の拠点都市であるポートモレスビーを攻略に変更した。
しかし、陸海空のいずれの攻撃も成功することなく、次第に連合国軍に追い詰められた。 残った日本軍はニューギニア島の高地にこもって終戦まで戦いを続け、補給は途絶え、自給自足を強いられたこの方面での日本軍の犠牲は13万人にのぼる。
昭和18年、西暦1943年4月、山本五十六長官は前線のブーゲンビル島へ視察に行く計画を立てました。もちろん、僕はここで何が起こるのか長官には伝えていた。
危険な前線への視察に大勢が反対したが、山本長官はこれを強行した。この計画は暗号電文の解読によって米軍に正確に察知されており、山本長官機は史実通りに待ち伏せの戦闘機に撃墜され、山本五十六長官は戦死した。
日本海軍には衝撃が走った。連合艦隊はここにきて、精神的な柱を失った。
山本五十六長官の死は僕に大きな衝撃を与えた。僕はブーゲンビル島で何が起こるのか長官に伝えていた。しかし、長官は知っていて敢えて現地視察を強行した。僕には長官がまるで自殺したかの様に思えた。いや、長官は負けるとわかっている戦いを強いられた。僕が伝えた歴史通りに進んで行く事実。そして、負けるとわかっている戦いにたくさんの将兵を送りだした彼は、自身も死ぬとわかっている場に自身を捧げたのかもしれない。それが多くの地にたくさんの将兵を送りこみ、たくさんの戦死者を出した者の務めと考えたのかもしれない。
「不知火中尉、だいぶ顔色が良くなってきましたね?」
「ああ、心配をかけた。いつまでもくよくよしてたら、天国のキュウに笑われるさ」
「あの茶色の髪の可愛い子が戦死したなんて、驚きました。正直、代わってあげたい」
「海老名中尉、ありがとう。彼女を人間として見てくれるんだね?」
「当たり前ですよ! どこから見ても人間ですよ!」
「上の連中は兵器としてしか考えてくれなくてね。誤魔化すのが大変なんだ」
「心中、お察しします。ソロモン海では随分暴れた様ですね?」
「気がついていたのか? 海老名中尉?」
「ええ、米戦艦の弾薬庫の爆発事故って、あれ嘘でしょ?」
「ああ、僕は彼女らの能力を過小評価気味に報告してたから、誰も戦艦ワシントン撃沈が魔法小隊の雷撃だなんて思わなかった様だ」
「それは幸運でしたね」
「ああ、知られたら、どれだけこき使われるかわかったもんじゃない。何よりそんなに簡単に戦地に投入されたら、また、犠牲者が出る。それだけは阻止したい」
「僕もそう願います。あんな可愛い女の子が戦死だなんて話は聞きたくない。戦争は男がやるもんです」
「なかなかいい心がけだな」
「恐縮です。それと…教えてくださいよ。かなり変化があったんでしょう?」
「ああ、僕の知っている歴史との差だろ? かなりあるよ」
「何があるのですか?」
「航空機では、局地戦闘機雷電があっさり完成した。既に配備されている。そのおかげで艦政は次世代の艦上戦闘機を開発する事ができた。それが零戦53型だよ」
「53型ですか? あの七面鳥みたいなヤツですか? 以前のスマートな零戦と比べて、随分頭でっかちでカッコ悪いなぁと思えたんですが、あれが次世代なんですか?」
「ああ、中身は別物だよ。山本長官の作戦だよ。連合艦隊は零戦の早期改善を求むと艦政に連絡してたんだ。だから三菱名古屋に零戦の改善を要求した」
「どんな形になったんですか?」
「ああ、改善だなんて噓八百なんだ。ホントは全部新規設計。永野軍令部総長の工作で、零戦の設計者へこっそり密令を送っていたんだ」
「どんな密命だったんですか?」
「航続距離は500kmでいい。代わりに防弾や降下性能、機体の頑丈度を十分にして欲しいという物だ。そして、発動機は栄21型ではなく、金星を使えとね」
「金星って? あれ、攻撃機用発動機じゃ?」
「そうなんだけど、他にいい発動機はないんだ。幸い局地戦闘機雷電の成功で、検証が上手く進んだと思う。あれ、プロペラの強度さえ上げれば問題なんて発生しないんだ」
「問題が発生していた事自体を知らなかったのですが、そんな事を裏でやっていたんですね?」
「いや、主に山本長官の意思だよ。僕が次世代の艦上戦闘機用の発動機誉はポンコツだと伝えたんだ」
「それで、金星なんですね」
「その通りだよ。零戦53型は零戦の後衛機だ。金星だと出力は1500馬力はいける。栄だと1000馬力程度の出力だし、誉は製造も品質も安定しないんだ。公称2000馬力だけど、実際は1000馬力しかでないんだ。出るのはベテラン整備員の傑作だけさ」
「人頼みって、そんな発動機…」
「ポンコツだろう?」
「…まさしく」
僕の影響、というより山本長官と永野総長の影響だろう。僕から聞いた意見は航空機に大きく反映された。次世代の艦上戦闘機として金星搭載の零式53型戦闘機、発動機を水冷アツタから空冷金星に換装した彗星、発動機を早期に火星へと換装した天山等だ。
これで艦上戦闘機の性能は互角になる。マリアナ沖海戦でも少しは頑張れるじゃないだろうか? 少なくとも、爆装の零戦だなんて馬鹿な物は出撃させなくていいだろう。
航空機の性能だけではない、艦載航空隊の編成は攻撃機中心から戦闘機中心に変わってきている。つまり、攻撃機、爆撃機ばかり搭載するのではなく、十分な数の戦闘機。米軍と同様、つまり艦載機の半数は戦闘機となった。
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