第三次ソロモン海海戦3
昭和17年西暦1942年11月14日深夜、サボ島沖を戦艦大和を筆頭に霧島、重巡洋艦愛宕、高雄、駆逐艦朝雲、照月からなる本体は進んでいた。前方には羽黒、ユウ、ユキの三人が展開している。彼女らは電探を装備している。それも敵のレーダーより性能はいい。史実と違う状況になっている。史実では電探の無い日本軍に対してレーダーを装備する米軍。米軍の戦艦は最新鋭艦なのだ。
「羽黒、ユウ、ユキ、くれぐれも気をつけてね」
「はい、葵ちゃん!」
「はーい、葵君!」
「……」
三人共きゃぴきゃぴとした風で戦闘に出る。少々大丈夫か?と不安を覚えるが、大丈夫な筈だ。駆逐艦のユキでさえ、以前、戦闘機の12.7mm機銃に何度も被弾してたが、ほとんど無傷だ。航空機の擬人化兵器より艦船の擬人化兵器の方がタフだ。おそらく重巡洋艦の羽黒は重巡洋艦の砲撃を受けても平気だろう。レイ達は敵機の12.7mm機銃に被弾しても魔力があるうちは平気だった。羽黒が8インチ砲の直撃を受けてもおそらく魔力がある間は無傷だろう。しかし、軽巡のユウや駆逐艦のユキはわからない。
「美しい月だな」
本来愛宕で指揮を執る筈の阿部弘毅中将は大和艦橋にいた。彼は戦艦大和の壮麗さに心を奪われた様だ。その気持ちはわかる。戦艦…それは時代遅れの兵器、でもこの大和には何とも言えない魅力がある。
「綺麗な軍艦ですね。日本人の様式美を顕現させたかの様な姿の様に思えます。特に艦橋付近の造形は美しいです」
「ああ、間違いなく、日本軍の建造した艦艇の中で最も美しい艦だろう。私でさえ、美しいと思った。それに、あの46cm3連装砲、あれを見ると、敵などいないと思ってしまう」
「僕もそんな気がしてきています。羽黒達が照明弾さえ上げれば無敵な存在になる様な気がします」
「未来人の君がそんな事を言うとは驚いたよ。戦艦は時代遅れ…そう言うと思っていた」
「確かに戦艦は費用対効果が見込めない兵器になりました。航空母艦の方が使い勝手がいいです。戦艦は航空母艦の護衛や夜戦位でしか使い道がありません」
「手厳しいが、そんな君でも大和は美しいと思うのか?」
「ええ、何とも言えない、日本人を引き込む魅力がある姿だと思います」
「そうか、そう言ってくれると嬉しい。大和に活躍の場を与えてやりたい」
「それは僕も同感です。これだけの船を大事にして使わないのはもったいないです」
「確かにな」
阿部中将は意外に気さくな人物だった。予想外で驚いた。中尉の僕と先ほどから大和談義に花を咲かせている。史実では積極性に欠ける人物とされているが、この世界の彼は多少違うのか、伝わった歴史が違うのか?
「サボ島沖を通過した。鉄底海峡に突入しました」
参謀の一人が伝えた。この大和には本来旗艦愛宕に乗り込む筈の第十一戦隊司令要員全員が大和に移っていた。一番安全な処に旗艦を移したのだ。幸い大和には司令部機能が充実していた。
海峡突入に際して艦隊は4つに分離していた。その為、混乱も多く、午前8時頃、一旦敵艦隊を第二部隊が発見する報告が入る。僕は羽黒に命じた。
「羽黒、本体より南へ転進、索敵を頼む」
「任せて葵ちゃん! お姉ちゃんが手取り足取り初めてを教えてあげる!」
「いや、羽黒、いいから南を索敵してきて!」
「うまく敵艦を見つけたら葵ちゃんに初めてを教える名誉くれる?」
「駄目だから、早く行って!」
「葵ちゃんのケチ、弟に初めてを密かに教えてあげるのは姉の義務なのに…もちろん密かにその後も関係を続けるのが定番で、真の恋人ができたら、無残に捨てられるのが常識なのに…」
どんな常識だ? 索敵に行ってくれたらしいが、羽黒もやっぱり脳が壊れているが、今はそれはいい。
そして、数分後、羽黒より、入電した。
「葵ちゃん! お姉ちゃんやったわよ。見つけた! これでお姉ちゃん心置きなく、姉と弟の間のいけない秘密の関係をもつしかないわ!」
いや、普通に報告してよ。僕は使い物にならない羽黒に見切りを付けて、ユウとの魔法通信を開いた。
「ユウ、南に敵艦がいるらしいけど、羽黒が訳判らんから、頼む、索敵してきて」
「わかったわよ葵君。その代わり、貢献したら、私を凌辱してね。それもとびっきり屈辱的にお願いね☆」
いや、御免こうむる。返事はしていないから、契約は未成立だからね。
更に2分程待つと、ユウから連絡が入った。
「葵君、大変、本体から南へ10km敵艦隊発見、数、戦艦2、駆逐艦4!」
「了解、ユウ、3分後に照明弾を発射! その後、羽黒とユキと合流して、敵戦艦を屠れ!」
「了解!」
「羽黒、ユキ! ユウと合流しろ! 合流後、敵戦艦に至近距離から最大火力をお見舞いしろ! 僕がいいと言うまで発砲禁止! 一撃入れたら、至急、戦線を離脱しろ!」
「「「了解」」」
「阿部中将! 本体の南に敵艦隊! 戦艦2駆逐艦4です」
「承知! 全艦南へ転進、射撃準備開始、耐閃光、耐衝撃準備を発令!」
こうして、大和以下ガ島への殴り込み艦隊は回頭し、南を目指した。
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