第三次ソロモン海海戦2
僕は戦艦大和艦橋にいた。事の発端は南雲司令からの報告により、僕の使い魔の電探能力が高く評価された事だ。空母群は無傷なものの、機体と搭乗員の損耗は大きく、ソロモン海域の日本軍の制空権は十分とは言えなかった。米軍にはガ島のヘンダーソン飛行場があるのだ。
そして、僕が戦艦大和艦橋に至る理由はこうだ。山本連合艦隊司令はガ島への戦艦による砲撃をごり押しした。その為、前線に出て来ていたのだ。もちろん戦艦大和と一緒にだ。11月13日戦艦比叡と霧島がガ島への突撃を試みるも、失敗。比叡を喪失した。慌てた連合艦隊司令部は僕の事を思い出したらしい。
「夜戦において電探の威力を認めざるを得ないな」
「はい、盆提灯とだなど、実戦を行えばばかばかしい妄言と言えます」
僕は大和艦内で山本五十六長官麾下の将兵の達の作戦会議に参加させられていた。オブザーバーとしてだ。僕の活躍は連合艦隊でも有名になってきていた。多くの人がレイ達を見ている。彼女らは連合艦隊にとって勝利の女神として祭り上げられていた。それにミッドウェー海戦以降一隻も空母を撃沈されていない。僕の防空への貢献はかなり認知されてきた。そして、僕が未来人である事も少将以上の将官には伝えられていた。そうでなければ擬人化兵器も僕の持っている知識も説明不能なのだ。
「しかし、不知火中尉の使い魔は電探を装備していると聞く、実際そうなのかね?」
「はい。僕の使い魔は全員電探を装備可能です」
「ならば、君と使い魔にガ島夜間攻撃隊挺身隊に参加してもらえないか?」
「いいですが、ひとつ条件があります」
「条件?」
僕の立場で条件を出すのだなんておかしな話だが、僕は死にたくはなかったし、何より僕の使い魔を安全にする必要があった。夜戦で、敵艦に遭遇したら、戦わざるを得ない、あんな処で船が撃沈されたら、死んでしまう。
「条件は挺身隊に戦艦大和を参加させる事です」
「い、いけません長官!」
宇垣纒うがきまとめ 参謀長だ。連合艦隊参謀長、彼の有名な別名は鉄仮面だ。沈着冷静にして顔色を変える事がない彼をそう呼ぶ。しかし、実際には山本長官を敬愛する別な一面もある。しかし、参謀長として、大和の投入を阻止する考えを山本長官に提言した。
「うううううううんんんんんん」
唸り声をあげたのは黒島亀人連合艦隊主席参謀だった。
「よかろう。大和を第2艦隊に預ける」
「長官! それは!」
皆、唖然とした。連合艦隊の至宝にして最後の決戦兵器。もちろん、未来人の僕にとって大和は正しく無用の長物だ。この時代に艦隊決戦など起きる可能性は皆無だ。なら、最強装備の戦艦である大和を夜戦に投入しないでどうする?
「不知火中尉、何故大和を所望するのだ? 皆に説明してやってくれ」
山本長官は太平洋戦争の歴史を知っている。正しさは身をもって知っているだろう。ミッドウェー海戦の敗戦ではっきり分かった筈だ。山本長官が僕を強く信じる様になったのは、ミッドウェー海戦の敗北が大きいのだろう。
「簡単な理由です。先日の海戦で戦艦比叡を喪失しました。舵を損傷するという不運もありましたが、たかだか重巡洋艦2隻相手に戦艦2隻が本来の目的であるガ島飛行場への砲撃を阻止されました。明日予定されている戦いで、僕の知っている歴史では戦艦ワシントン、サウスダコタの2隻が参加します。2隻とも40cm砲を搭載しています。こちらで予定されている戦艦は霧島1隻の筈です。勝てますか? そもそも、勝っても、本来の目的は果たせないでしょう?」
「しかし、それならばもっと戦力を増強した方が?」
「長官、狭い水道で多数の戦艦を運用するのは危険です。大和一隻を追加というのも妥当な数です」
「う~む。なら、最強装備をソロモン海に投入するのは当然ではないか? 戦艦がいるのだろう? そこには?」
「……」
皆押し黙った。戦艦がいる。ならば戦艦大和を投入する事はある意味当たり前と言える。ましてや米軍は最新鋭戦艦を2隻も惜しげもなく投入したのだ。
「決めた。15日のガ島攻撃には戦艦大和を投入する」
こうして僕は戦艦大和艦上で、サボ島沖を進んでいた。僕の本当の狙いは被害担当艦として大和に期待していた。夜戦でも、戦艦の役割は多数の攻撃を惹きつける処にある。霧島一隻では直ぐに撃沈されてしまう。僕がどの船に配属されるかわからなかったが、弾除けが簡単に沈没されては困るのだ。
「僕の使い魔、重巡 羽黒、軽巡夕張 (ユウ)、駆逐艦雪風 (ユキ)の三人を先頭に電探による索敵をいます。敵艦を発見したら、直ぐに照明弾を打ち上げ、戦艦大和と霧島に攻撃してもらいます」
僕は内心、攻撃を引きつけてもらおう、その間に近づいて、使い魔三人の攻撃をしかける予定だ。三人のレベルは40になっている。戦いは5戦連続は行えるが、一撃だけで離脱してもらう。正直戦艦や重巡洋艦の砲弾が命中する事はないと思うが、至近距離の機銃や小口径砲が運悪く命中する可能性はある。だから、こちらの戦艦や主力隊に気を取られている内に接近して、一気に敵戦艦に大打撃を与える算段だ。残りの艦艇は大和や霧島に任せよう。
「ガ島はおそらく攻撃できないと思います。大和とはいえ、戦艦2隻とやりあって無事な筈がありません。撤退を選ぶべきだと思います。ガ島の飛行場を撃破しても、復旧するまでに攻撃圏内を脱出できる保証はありません。交戦する事で時間を奪われてしまう訳ですから」
「もっともな意見だ。交戦した場合、勝敗によらず、撤退としよう」
「ガ島攻撃は第三航空艦隊の金剛、榛名あたりに担当してもらえば、うまくいくと思います」
「そうだな、二隻は先日のガ島攻撃で3式弾を使い果たしているが、補給を済ませてら、2隻にあくる日に突入してもらおう」
「はい、遮るものがいなければうまくいくと思います」
「じゃあ、盛大にソロモン海でドンパチやってくるか」
「僕の時代ではソロモン海はこう呼ばれています。鉄底海峡 アイアンボトムサウンドと…」
「この世界のサボ島沖では米艦隊の墓場にしてやるさ」
山本長官はそう言うと、その目に強い光を宿した。
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