南太平洋海戦3
昭和17年西暦1942年10月26日早朝、僕は祥鳳艦橋にいた。
「翔鶴索敵機からの無線を傍受しました。『敵空母サラトガ型1、戦艦2、巡洋艦4、駆逐艦16、10時の方向」
ついに戦いが始まる。敵は正規空母3隻、こちらは正規空母3隻、軽空母3隻、空母の数は圧倒しているが、搭載機数ではほぼ同数だ。
「不知火中尉、覚悟はできているな?」
「はい。覚悟はできています」
僕はこの戦いが始まる前に南雲司令より、魔法小隊による敵空母攻撃命令を打診されていた。僕はこれを受け入れた。その代わりにレイ達に戸籍を与えて欲しいと願った。彼女達は海軍の備品扱いだ。このまま戦局が悪くなると人間より酷い扱いを強いられる可能性がある様に思えた。だから、彼女らを人間として認めてもらう代わりに今回の作戦で敵空母への攻撃に参加する事を承諾した。もちろん単独での攻撃は拒否した。
「旗艦より入電、『祥鳳魔法小隊第一次攻撃隊と共に敵空母を撃滅せんと欲す』です」
「わかりました。早速レイ達に伝えます」
「頼むぞ」
藤沢艦長が僕の顔を見て頷く。
「はい。微力ながら尽力します」
僕は魔法小隊に連絡した。今回の攻撃隊には零式艦上戦闘機レイ、九十九式艦上爆撃機キュウ、九十七式艦上攻撃機ナナの3人をあてた。紫電改は艦隊防空に徹してもらう。
午前5時30分頃、第一次攻撃隊が発進する。攻撃隊の陣営は翔鶴攻撃隊24機(零式艦上戦闘機8機、九七式艦上攻撃機16機)、瑞鶴攻撃隊28機(零式艦上戦闘機8機、九九式艦上爆撃機20機)、蒼龍攻撃隊28機(零式艦上戦闘機12機、九九式艦上爆撃機8機 、九七式艦上攻撃機8機 、隼鷹攻撃隊(零式艦上戦闘機12機、九九式艦上爆撃機6機 ) 計98機が発進していった。
そして、第2次攻撃隊として(零戦30機、九九艦爆30機 、九七艦攻30機)計90機 が発進準備を行う。
第二次攻撃隊準備中には擬人化兵器羽黒からの対空電探情報により敵機接近の報がもたらされたが、正規空母3隻と軽空母隼鷹の発進準備に影響は出なかった。防空は僕達空母祥鳳、瑞鳳に専任されていた。
前回の様に無線が通じない場合の対策として、瑞鳳戦闘機隊とは旗信号や煙幕での意思疎通ができる様に訓練済である。上空には24機の直掩隊が旋回していた。それに既に擬人化兵器の紫電改も上空に上げていた。この頃には擬人化兵器の存在も周知されていたので、簡単に同士撃ちされる事は無い筈だ。
ほぼ同じ頃、米軍も日本機動部隊の位置の索敵に成功し、攻撃隊を編成した。その陣営は空母ホーネットから29機(F4Fワイルドキャット15機、SBDドーントレス24機、TBFアベンジャー15機)、空母エンタープライズ隊から19機(ワイルドキャット8機、ドーントレス3機、アベンジャー8機)、空母ワスプから24機(ワイルドキャット8機、ドーントレス8機、アベンジャー8機)、合計97機が日本機動部隊にむけて発進した。
日米同時の攻撃、クロスパンチとなった。
僕達の魔法小隊は第一次攻撃隊に同行した。3人には電探を装備した。奇襲されることはない、だが、彼女らの電探情報を味方の戦闘機隊に伝えるのは難しいだろう。巡航中の戦闘機と意思疎通する手段がない、レイ達は無線を装備している訳でもなく、流石に巡航飛行中の戦闘機の搭乗員と会話するのは騒音で難しいだろう。次回の課題だ。
「レイ、キュウ、ナナ、頼んだぞ、無理はするなよ。必ず生きて帰ってくれ」
「生意気な豚ね、レイ達の心配より、いつ屠殺されるか心配でもしておきなさい」
「せんぱ~い、キュウを心配してくれるんですね? もう、愛の告白をしてもいいですよ」
「お兄ちゃん、ナナ頑張る!」
みんないつも通りの定常運転だ。でも、僕はキュウに想うところがあった。ああ、その通りだよ、キュウが帰還したら、僕はキュウに告白するつもりだ。僕はキュウを愛している。
キュウ、僕が告白したら、どんな顔をするんだろうな? いつもウザく絡むのはキュウの愛情表現だ。そのくせ、恥ずかしがりで、肝心なところになると照れ隠ししてしまうキュウ、でも、僕はキュウが照れ隠しするのを見逃さない、そこで、キュウに愛の告白をする。キュウの喜ぶ顔が脳裏に浮かぶ。キュウ、ごめんね。僕が鈍感なばかりに…それに僕は覚悟した。レイだけでなく、キュウも愛する事を…キュウの笑顔を思い浮かべて、僕はとても幸せな気持ちになった。僕はこの時、自分達が戦争をしているのだという事、残酷な世界にいる事を忘れていた。
第一次攻撃隊を見送った後、僕は防空の実質的な指揮していた。羽黒からの電探情報で、空母瑞鳳に敵機が接近しているのがわかった。既に祥鳳から零戦12機、瑞鳳から12機、計24機を直掩機をあげていた。
更に羽黒から5時の方向に敵機群を発見した。僕は使い魔の紫電改と直掩の零戦隊により、攻撃隊を各個撃破していった。更に祥鳳、瑞鳳より増援の零戦8機、空母翔鶴、瑞鶴、蒼龍から各4機、計20機の増援の直掩機をあげた。これで日本軍の直掩機は合計44機、結果、日本軍の損害は皆無であり、米軍の攻撃隊は壊滅した。
完全勝利だな。僕はそう思い込んだ。迎撃に専念して、キュウ達敵艦隊への攻撃隊の事を気遣う余裕がなかった。
第一次攻撃隊が帰還した時、キュウの姿は無かった。
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