南太平洋海戦2
朝、誰かの鼻歌で目が覚める。気がつくと、キュウが僕の隣のベッドの上で仰向けになり、僕の蔵書の一冊を勝手に読んでいた。鼻歌の内容は、
「せーんぱーいは変態ぃー、へ・ん・た・い・せーんぱーいは変態ぃー、へ・ん・た・い 」
という内容だった。あのね、キュウ? 変態はキュウだよね? 僕はノーマルだから普通、キュウはドMだから変態中の変態…全く、それなのに僕を変態扱いだなんて…
「キュウ、また、起こしに来てくれたのか?」
キュウはみんなと交代で僕を起こしに来てくれる。ただ、みんな自分勝手で、適当な時間というか、かなり早朝に起こされるので、僕は毎日早寝する羽目になっている。
キュウは、
「?」
という感じで、僕が起きた事に気がつくと、ごろんとこちらに向き直った。キュウの無駄にデカい胸がごろんとメロンが転げる様に動く。絶対計算してるよね? コイつ、いつも仰向けか仰向けから逆に寝返りうつんだ。自分のデカい胸の威力知っていてやっているよね? 今なんて、横を向いて僕を見ているもんだから、胸がその、かなりその…しかし、あれだけデカいのに重力に負けないで形を維持するって凄いな。
「あら、先輩、キュウの胸を凝視なんてして? 揉んでみたいんですね? いいですよ。そんなに先輩がキュウの魅力にまいってしまってるんなら、仕方なく好きなだけ揉ませてあげますよ」
「いや、そんな事考えてないから! キュウになんて、これっぽっちも魅力なんて感じてないから!」
「あららら、キュウ、魅力ないんですね~」
嘘だ。キュウは魅力のある子だ。ウザいけど、それがキュウの愛情表現だ。肝心な処で、いつもキュウは恥ずかしいのか、誤魔化す癖がある。だから、長い間、キュウの気持ちに気がつかなかった。でも、僕もキュウに対して素直になれなかったし、本命はレイだと思ったから、キュウに手を出すのだなんて…て思っていた。でも、キュウは擬人化兵器で、僕のハーレム要員。
「…キュウ」
僕は言葉に詰まった。
「先輩起きたんなら、キュウは自室に戻りますね。作戦、近いんでしょう?」
「ああ、今日、大きな戦いが起きる。キュウ、頼むぞ」
「は~い、先輩の為ならキュウ、頑張りまーす☆」
キュウはきゃぴきゃぴしながらも、ウザく今日も僕の部屋を去って行った。僕は士官服に着替えると、先ず、レイの部屋を訪れた。どうしても確認したい事があった。普通なら、最低の事…でも、僕の使い魔であり、擬人化兵器にレイやキュウ、他の子たちと接するには…
「レイ、起きてる?」
ドアを軽くノックすると、僕はレイに声をかけた。
「葵? 私を襲いに来たのね? いい度胸ね? ご主人様の寝込みを襲うのだなんて、どれだけ激しいお仕置きを所望しているのかしら?」
いつものドSもレイだけど、僕は大切な話だから、無視して、更に話を続けた。
「レイ、キュウの事で相談があるんだ」
「…キュウを愛したのね?」
「……」
僕は答えられなかった。その通りだからだ。もう、僕には普通の倫理感を持つ事はできなかった。僕の倫理感はどんどんおかしくなってきている。普通の人間なら、恋人も妻も一人しか選べない。誰だってそうだ。ホントは複数好きになる事もあるんだろう。僕が実際にそうだから。そう思いたい。でも、
『レイ先輩以外の子を好きになってもいいですよ』
キュウはそういった。レイもキュウも擬人化兵器だから…彼女達は自動的に僕を愛する。それは本当の愛と言えるか? いや、少なくとも僕はレイもキュウを愛している。他の子も好きだ。いずれ彼女達へも好きから、愛しているに変わると思った。一生一緒に暮らす事になる彼女達…僕は今、レイもキュウも愛している。そして、他の子を愛するのも時間の問題だと思った。
「とにかく入って、葵」
僕はレイの部屋に入った。恋人にハーレム宣言。正直、普通だと頭がおかしい内容だ。だけど、多分、レイは僕のハーレム宣言を受け入れる。そう思った。キュウの言う事が本当なら、彼女らは、僕が彼女らを複数愛する事に嫌悪感を持たない筈だ。普通の女の子と唯一違う処、それがそれだ。
「レイ、僕はキュウの事を愛していると思う。君の事はもちろん愛している。だけど、僕は同時に二人の人を愛してしまった。罪で、倫理的におかしい事はわかっている。でも、許して欲しいんだ」
言っていて、心がキリキリ痛んだ。こんな事、偽善だし、むしろ、本人から現言をとるのだなんて、むしろ僕は卑怯なのかもしれない。でも、僕は僕がキュウを愛する事でレイが嫌なら、踏みとどまろうという気持ちもあった。僕の倫理観はギリギリ保っている。ここで、レイが僕の意見を受け入れれば、僕の倫理感は一気に崩壊するだろう。レイが拒絶すれば…でも、多分、レイは受け入れる。擬人化兵器という特殊な彼女らは多分、そう調整されている、女神様によって。
「葵、キュウを抱きしめてあげて、キスしてあげて、キュウはとてもいい子だし、いつも葵の事を愛おしそうに見ていたの」
やはりか…レイは僕のハーレム宣言を受け入れた。いや、自身からキュウを愛する様促した。
「本当にいいの?」
「逆にレイだけ愛されていると、レイは罪悪感を持ってしまう」
そう感じるのか…擬人化兵器は…つくづく僕は本当に罪な事をした。人間とほとんど同じ存在。魂を持ち、自身で考え、人間と何一つ変わらないレイ。でも、彼女達は擬人化兵器である前に恋愛感情に関しては大きな制限がある。彼女らは僕しか愛せないのだ。擬人化兵器は僕無しでは生きてはいけないし、僕の近くにいないとやはり生きていけない。彼女らは僕から魔力供給が途絶えると死んでしまう。
「レイ、僕はこの戦いを終えたら、キュウに告白するよ」
「うん、きっと、キュウ、喜ぶわ」
そういうと、レイはにっこり微笑んだ。絶対普通の人間ならあり得ない事、でも、僕はこれを受け入れるしかない。それが僕に与えられた罰であり、義務だからだ。全ては僕が擬人化兵器を使い魔とする召喚士となる事を希望してしまったからだ。
「ありがとう。決心がついたよ。今日は大きな戦いになると思う。必ず生きて帰ろう」
「うん、葵」
僕はレイの顔に自身の顔を寄せるとレイにキスした。
連載のモチベーションにつながるので、面白いと思って頂いたら、作品のページの下の方の☆の評価をお願いいたします。ぺこり (__)