第二次ソロモン海海戦2
朝目が覚めると隣に誰かいる気配がする。目を凝らすと、
「なんだ、ナナか」
ナナ、新しい美少女擬人化兵器九十七式艦上攻撃機一一型の事だ。九十七式の七をとってナナと呼んでいる。レイやキュウと同じだ。ナナは他の擬人化兵器と違って、安全だ。多分…それでも根っこはドMだという事はわかっているのだけど、表面上は無害なのだ。ユウの様にエロい要求をしたり、キュウの様にウザい絡みもない。いたって普通の妹なのだ。妹。ホント擬人化兵器の設定が訳わからない。ユウは幼馴染だし、羽黒は姉、そしてナナは妹。ナナは高校生位だが、キュウと同じで少し幼さが残る。高校一年生位にしか見えない。
「ナナ、そろそろ起きなよ」
「う、う~ん、お兄ちゃん?」
「また、僕のお布団に忍びこんで、駄目だろ?」
「だって今日はナナがお兄ちゃん起こす日だから」
「起こす日?」
「うん、羽黒お姉ちゃん、ユウお姉ちゃんとキュウちゃんと相談してローテーションで朝起こしに来てるの」
う~ん。そういえば、最近ユウ、羽黒とキュウが朝起こしに来るけど被った事ないな。
「でも、隣で寝てて、起こしたのは僕の方だよ」
「へへへ、お兄ちゃんの寝顔見たら、起こすのが可哀そうになっちゃって」
「それで、一緒に寝てたの?」
「うん。嫌?」
「いや、嫌じゃないけど」
「良かった!」
嫌じゃないけど困るんだけどね。ここ艦内だから、見つかると僕が軍法会議かもしれん。何もしない自信はあるけど、他の人が信じてくれるとは思えない。ナナが妹なのは設定だけで、ナナを召喚したのはつい1週間前の事だからだ。他人から見たら、高校生位の女の子といけない関係になっている変態ロリコン軍人にしか見えないだろう。
「ナナ、僕、もう起きたから、自室にお帰り」
「うん、わかった、お兄ちゃん」
何かホントに妹ができたみたいで可愛くもある。でも、彼女も擬人化兵器…僕のハーレム要員なのだ。それに何より僕は彼女を戦場に送り出さなければならない。
ナナが自室に戻ったので、僕は士官服に着替え始めた。これから朝食の時間だ。
「それにしても、ミッドウェー海戦より随分と色々改善できそうだ」
ミッドウェー海戦の敗北は南雲司令や源田実大佐の僕に対する考えを一変させた。源田実などは下位の僕に頭を下げて航空の指南を請うた。僕は自分の知っている限りの事を伝えた。おかげで、色々な事が改善されていく。
南雲司令、源田実大佐は電探の重要性を理解した。敵に発見される僅かな可能性より敵機の奇襲攻撃を防げるメリットの方が大きい。その為、山本五十六長官経由で、軍政の方に電探研究の督促を行った。更に僕はこの時代の電探の弱点である信頼性について、書簡を永野軍令部総長に送っておいた。日本軍の電探の信頼性のなさは主に真空管の信頼性に係る。日本の真空管は銅の純度が低く、その為真空菅が僅かな挙動で故障する。つまり軍艦や航空機で使える様な代物じゃない。だが、もしこれが改善されれば…VT信管も夢じゃない。そうなのである。米軍がVT信管、近接信管を開発できたのは電探技術の進歩の為だ。近接信管とは直撃せずとも至近距離に敵機がいれば高角砲弾を起爆させてくれる便利なものだ。この存在のおかげで、終盤の米軍の対空能力はすさまじいものになった。それが日本軍にも開発できるかもしれない。
僕は朝食を済ますと艦橋に向かった。
「おはようございます。不知火中尉」
「早いですね、不知火中尉」
「おはよう。海老名中尉、綾瀬中尉」
未だ早いのか艦長達は来ていない。海老名と綾瀬が先に来ていた。三浦航海長もおらず、海老名と通信科の綾瀬が既に艦橋に詰めていた。未だトラック島には遠く、艦橋の雰囲気は和んだものだった。
「それにしても見事なものですね。輪形陣って」
「ああ、米軍にも引けを取っていないと思うよ」
この時代、空母防空の陣形は紆余曲折した。ミッドウェーの頃は輪形陣だったが、無線の問題から輪形陣の距離は互いに近く、対空砲火の効率から言うと全くよろしくなかった。だが、第二次ソロモン海戦の頃は前衛の艦隊が横列陣を引き、後続に空母陣が縦並ぶというT字型の陣形だった。しかし、これは対空砲火の効率を重視した訳では無く、前方の艦隊を囮にするというものだった。これは前方の艦隊から不満も出るし、そもそも艦隊全体の防空力は上がらない。それで僕は南雲司令に輪形陣を取り、互いの距離を取る様に進言した。南雲司令は僕の意見を取り込んでくれた。だが、問題も多い、日本軍の無線電話の性能は悪い。だから、意思疎通においては中々苦労する。未だに旗信号等や煙幕で意思疎通をする機会が多い。
「空母龍驤が見えますね」
「ああ、何とか沈まずに済んで欲しい」
空母龍驤。第二次ソロモン海海戦で、囮としてガダルカナル島への航空攻撃を実施し、米機動部隊に補足され撃沈された。ちゅうど珊瑚海海戦の祥鳳と同じ立ち位置だった。違ったのは珊瑚海海戦は誰も経験してなかったため軽空母を別行動としたが、第二次ソロモン海海戦では故意に目立つ島への攻撃をさせて、注目を集めさせた。囮だったのだ。その間に第三航空艦隊は敵機動部隊を補足して攻撃…だが一隻も撃沈できなかった。スコアでは完全に負けだ。
「この戦いは勝てないよ」
「また、不知火中尉は上が聞いたら怒りそうな事を」
「いや、戦力差から言ってそうなんだ」
「敵の空母は何隻なんですか?」
「空母エンタープライズ、サラトガ、ワスプの3隻だ」
「ちょっとしんどいですね」
「ちょっとじゃない様な気がしますが?」
「ああ、ちょっとじゃない。だけど、この戦いの後、日本軍には空母瑞鳳、隼鷹、飛鷹が戦列に加わる、それに空母ワスプは潜水艦に撃沈される筈だ」
「それでも厳しくないですか? 米軍の空母は大型艦ばかりですよね?」
「ああ、だけど戦力差は少ないよ。それに空母蒼龍も復帰するじゃないかな」
「そうですね。蒼龍の再建は遅れているそうですが、流石にもうじき第三航空艦隊に復帰するでしょうね」
「ああ、大型空母二隻と中型空母一隻、それと軽空母五隻で米軍を上回る戦力になる」
「次の戦いは?」
「もうじき始まる第二次ソロモン海海戦の後、南太平洋海戦が10月に生起する」
「とりあえず私達の仕事は」
「空母群の防空だ。他は知らん。というか何もできない」
「不知火中尉らしいものいいですね」
「全くですね」
「そういうお前らだって、同意してくれるんだろう?」
「ええ、それはまあ」
「もちろんですよ」
海老名と綾瀬がニッと笑う。この二人は既に戦士の顔になってきている。ミッドウェー海戦を生き延びた自信とあの恐怖を克服したからだろう。
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