第二次ソロモン海海戦1
第二次ソロモン海戦昭和17年西暦1942年8月24日にソロモン諸島で行われた日本軍と米軍との間の海戦。日本海軍は空母1隻を喪失、ガダルカナル島への兵員輸送にも失敗して敗北した。
同年8月7日に米軍はガダルカナル島とツラギ島を奇襲し占領した。これに対し日本軍は基地航空隊と第八艦隊をもって迎撃、これに伴い8日~9日にかけて第一次ソロモン海戦が生起し、日本軍は大勝利した。アメリカ軍輸送船団は護衛を失い、物資揚陸を中止せざるを得ず、米軍海兵隊を残して撤退した。しかし、日本軍も海軍陸戦隊を乗せた輸送船団が撃退されガダルカナル・ツラギ早期奪回に頓挫する。
18日に一木支隊を駆逐艦隊がガダルカナル島へ揚陸させた。19日、一木支隊の増援部隊がラバウルを出発したが、日本軍は敵戦力を見誤っており、十分な兵力を投入せず、米軍を早期撃退する絶好のチャンスを逃した。そうしている間に米軍はガダルカナル島にヘンダーソン飛行場を建設した。
日本軍はガダルカナル島奪回の為、川口支隊の投入と近藤信竹中将の第二艦隊、南雲忠一中将の第三航空艦隊が増援部隊輸送の支援を行うこととなった。第二艦隊は8月11日、第一航空戦隊の空母翔鶴、瑞鶴、龍驤を主力とする第三航空艦隊は16日に、17日には戦艦大和以下山本五十六連合艦隊司令長官も、呉の柱島を出発した。
僕は祥鳳艦橋で不機嫌になっていた。
「あれ程第一次ソロモン海海戦で第八艦隊に輸送船団に向かって再突入する様山本長官に言ったのに」
「不知火中尉、第八艦隊の三川中将に直接言ったのですか?」
航海科の海老名中尉が僕を見て、忠告めいて言う。彼の言わんとした事はわかる。山本長官がわかっていても、それを現場の指揮官にどう伝えるか? という問題だ。未来人? 山本長官でも脳の損傷を疑られるだろう。結局、第八艦隊の行動に文句をつけても仕方ないのだ。彼らは大戦果をあげた英雄なのだ。あまり多くの物を要求するものではない。僕がこんな事を思うのは後付けのチートな知識があるからだ。そもそも作戦の第一目標は輸送船団の撃破だったのだ。それを完遂できないのは日本人固有の目的意識の不徹底だろう。これは僕にどうこうできる問題ではない。
「海老名中尉、僕も理性ではわかってるんだ。第八艦隊は立派に敵護衛艦隊を壊滅させた。でも、もう一押しだったんだ」
「それは欲張りだったのでは?」
「しかし、味方の損害をほとんど無くすことができたかもしれないんだ」
「その為に第八艦隊に犠牲になれと?」
「すまん。海老名の言う通りだ。僕らしくなかった。みんなの為に死ねと言っている様なものだった」
「良かった、不知火中尉らしくなった。最近の不知火中尉は変わった様に思えて…」
「ああ、ミッドウェーで色々あったからな」
僕はミッドウェーでの戦いで一度レイを失った。その後悔の念は強く、少々勝利への探求が強くなった。二度とレイを死なせたくない、という想いが、他者へ無理強いを要求してしまった様だ。反省しなければ。
「せめてガダルカナル島への戦力の逐次投入は止める様に言ったんだけどな」
「それも、上が困りますよ。輸送船団は基地航空隊が殲滅した事になってますから…」
「そうだったな。基地航空部隊の過大な戦果報告、困った物だ」
この頃、基地航空隊の戦果報告は盛大に盛られており、現場の艦隊指揮官は誰もその戦果を信じていない。およそ1/10位に考える必要がる。だけど、山本長官や第三航空艦隊の南雲中将、第二艦隊の近藤中将に基地航空隊の戦果を否定できるとは思えなかった。
日本軍はどんどん餓島への道を順当に歩んでいる。
「何とか、運命の輪を断ち切りたいな」
「それは不知火中尉の双肩にかかっているというものだ」
藤沢艦長だ。僕と海老名中尉の会話に我慢できずに割り込んできた。
「だから、買い被りすぎですよ。僕の魔法兵だけでは戦局は変えられませんよ」
「いや、空母蒼龍は助かったし、私達の祥鳳も本当は珊瑚海海戦で沈んでいたんだろう?」
今度は三浦航海長だ。彼も我慢できずに割り込んできた。
「ミッドウェーよりは防空に貢献はさせてもらいますが…」
「それで十分じゃないか? 防空の心配がなければ、今度こそ第一航空戦隊が敵機動部隊を撃破してくれるんじゃないか?」
「藤沢艦長。南雲司令や源田実参謀長は僕の意見を取り入れてくれました。それ相応に働きたいとは思えます。でも、なんというか、歴史を大きく変える事はえきないんじゃないかと…」
「まあ、以前君が言っていたな。歴史修正能力か?」
「はい、三浦航海長、僕にはこの世界に大きく干渉する事ができないというか、歴史は大きく変わる事はないんじゃないか? って思えるんです」
「まあ、確かに君がいた他の世界とこっちがそっくりならその仮説は有力だな」
「はい、歴史の基本は変わる事が無く、同じ様な世界がたくさんある。そう考えると、このパラレルワールドは説明がつくんです」
「まあ、未来人でもわからんのだからな、我々にはわからん」
「はぁ、私も歯がゆいのです」
艦橋で藤沢艦長、三浦航海長、海老名中尉と話し合うが、僕は段々この戦争に絶望してきた。僕の知っている歴史とほとんど変わらず進行する歴史には恐怖を覚えずにはいられない。
だが、喜ばしい事もあった。ミッドウェーでの敗北の後、南雲司令や源田実参謀長が僕に面会を山本長官経由で申し入れてきた。僕の電探情報が余程ありがたかったのか、敗戦に際して僕の意見が刺さるものがあったのか、随分と殊勝な形で面談した。今の彼らは随分と僕の考えを取り入れてくれている。この空母には現在零戦32型が24機搭載されている。攻撃機は乗せなかった。祥鳳は防空専門艦として第三航空艦隊の防空を受け持つ。この小さな空母に24機もの零戦を乗せる事ができたのは、艦上に露天係止した為だ。実は空母翔鶴、瑞鶴もこの露天係止を採用し、零戦の搭載機数を1隻あたり6機程増やした。僕の考案だ。これにあたって空母翔鶴、瑞鶴、祥鳳は小改造された。僅かな改造なので、ドックには入っていない、ただ、係留できる設備を増やしただけだ。
ミッドウェーより有利にはなっている。だけど、僕は気が重い。何より、そんな付け焼刃で勝てる様な相手じゃないんだ米国は…空母を全部殲滅しても勝てない。僕にはこの戦いの終わりが見えなかった。ただ、僕が考えているのはレイやキュウ達に死んで欲しくない、それだけだ。もちろん海老名や藤沢艦長達もだ。僕の存在はそんなちっぽけな物だった。
連載のモチベーションにつながるので、面白いと思って頂いたら、作品のページの下の方の☆の評価をお願いいたします。ぺこり (__)