限りなく青い空 1
僕はようやくレイの死から平静を取り戻した。僕が平静を取り戻せたのはキュウ達のおかげだ。艦長は僕に使い魔の慰安を行えと言ったが、実際には癒されたのは僕の方だった。キュウ達はレイの事には触れずに散々馬鹿な話をしてくれた。僕は苦笑するしかなかったけど、キュウ達の計らいに感謝した。みんな僕の為に…レイと同じ様に死んでしまうのは彼女達も同じだ。なのに彼女達は僕の為に…ホントに僕は駄目な指揮官だ。
朝、目が覚める。昨日一睡もしていないから、自然と深い眠りに落ちた。キュウ達のおかげで少し、心が慰まったからかもしれない。しかし、何故か人の気配を感じる。
「う、うん、誰?」
「あっ、目が覚めちゃったの?」
ユウだった。ユウは何故か僕の毛布に潜りこもうとしていた。
「何してんの?」
「い、いや~…」
何となく、嫌な予感がした、何せよユウは一番ダイレクトにエロい事希望する変態だから、困る。自分を性のはけ口に使う事希望する女の子いる? 普通?
「いや、私、幼馴染でしょう? だから葵君の朝の下半身のエネルギーを抜くサービスをするべきかしらと思って、その」
「いらないから、そのサービス!」
どうも、ユウは僕の毛布の中に潜り込んで、朝のエロメイドサービスを行おうとしたみたいだ。だから、ここ軍艦の中だから、そんなの見つかったら、軍法会議だからね! 軍令部から散々言われたんだからね!
「ええっ!? 普通幼馴染なら当然の義務でしょう?」
「そんな義務無いから! それと僕の部屋に勝ってに入ってこないで!」
「ごめんなさい。私が気がつかれちゃったから不満なのね、明日からちゃんと朝起きたら、もういい感じにしとくから」
「だから、ちがーう! 次やったら、僕の中に戻ってもらって、二度と出してあげないからね!」
「ええっ! それだけは勘弁して! …でも何で怒られてるのかしら? 私?」
いや、もう、変態に常識を求めるのも期待するのもやめよう。昨日は励ましてくれて嬉しかったのに、台無しだよ。
ユウを部屋から追い出して、艦橋へ向かう途中、キュウとすれ違った。キュウはとても重要な事を僕に言ってくれた。
「せ~んぱい。そろそろ魔力満ちてきたでしょう? 今日の夜ガチャしましょうよ」
「ガチャ? 今はそんな気分にはなれないよ。もちろん、戦力を増やした方がみんなの安全に影響する事はわかってるけど…」
「先輩、違いますよ。レイ先輩をもう一度ガチャで引き当てるんですよ」
「え? そんな事可能なのか? もう一度レイに逢えるか?」
「はい、艦上戦闘機枠で零式艦上戦闘機を引き当てれば、レイ先輩が出てきますよ」
「ほ、本当なのか? 本当にレイが帰ってくるのか?」
「本当ですよ。キュウ達は先輩の世界の古の武器に宿った魂と女神様の魂で出来ています。だから、もう一度ガチャを引けば、再び零戦と女神様の魂を宿したレイ先輩が帰ってきます」
「ほ、本当なんだな? よかった! よかった!」
「でも、先輩…いや、気にしないでください…」
キュウは少し気になる事を言ったが、僕はレイが帰ってくるかもしれないと言う事で舞い上がった。
「ありがとう。キュウ、今日ガチャを引いてみるよ」
「キュウ達も同席させてください。キュウ達もレイ先輩をお迎えしたい」
「ああ、当然だよ。キュウ達もおいで」
「…はい」
僕は喜々として艦橋に向かった。艦橋で艦長達に米軍の次の動向を聞かれた。
「で、不知火中尉の世界ではこの後どうなったんだ?」
「米軍はミッドウェー海戦で勝利し、一気に反攻作戦に転じます。米軍の作戦名はウォッチタワー作戦といいます。最初日本軍が占領したガダルカナル島やツラギ等が10000名の米軍陸軍将兵に占領されます。その地を巡って、激しい戦いが起こります」
「ガダルカナルというと?」
「ソロモン諸島です。日本軍はニューギニアのポートモレスビーを攻略しようとしますが、米軍の反攻を無視できず、ガダルカナル島再占領に向いていきます。しかい敵兵力を見誤って、戦力の逐次投入を行い、将兵が24000人死にます」
「そ、そんなに戦死者が…」
「何とかガダルカナル島に固執するのを止めるか、戦力を集中して、一気にガダルカナル島を陥とすかしないと犠牲者が増えます。陸軍だけではありません。海軍の航空兵はラバウルから往復2000kmの距離を飛んで戦い、疲労からかなりの損害を受けます。艦艇も戦艦お含めて多数が失われます。犠牲者は陸軍と合わせると3万人にはなります」
「その事は山本長官はご存じなのか?」
「知っている筈です。僕は永野軍令部総長に伝えました。総長は山本長官に伝えてとおっしゃいました」
「しかし、陸軍は何故そんな戦いを継続したんだ? そんな事は陸軍の方から撤退の意思を示すべきだっただろう?」
「陸軍はおそらく海軍の一航艦に期待したのだと思います。第一航空艦隊が健在なら、航空攻撃で一機に挽回できる。そう信じて戦い続けたのです」
「ちょっと待ってくれ。陸軍が一航艦に期待って?」
「僕のいた世界では一航艦の壊滅は秘密にされました。陸軍も国民も知りませんでした」
「この世界ではどうなるんだ?」
「三浦航海長、それは不知火中尉にだってわからんだろう…」
「それはそうでした…」
艦長に指摘されて航海長に言いよどむ。そう、僕にもわからない。
艦橋で色々話しあった後、通常勤務に戻り、僕は勤務時間を終え、艦橋を後にした。そう、レイを再召喚する。僕の気持ちははやった。
自室に戻るとそこにはキュウ、ユキ、ユウが待っていた。彼女達もレイの帰還を心待ちにしているのだろう。
「みんな?」
「せんぱ~い、待ってましたよ」
「…」
「葵君、早くガチャ回そうよ。その後、私を輪して」
最後にユウがエロい事言った様な気もするが、今は無視だ。
「ああ、早速、ガチャ回すよ」
「「「は~い♪」」」
僕はステータスウィンドウを開いた。そして艦上戦闘機部門のガチャを引いた。すると、
「あ!? 流石先輩一発でSSRだ!」
キュウが褒めてくれる。そういえば、レイは初めてのガチャでいきなり出てくれたな。あの時出てくれなければ、僕は永野総長に信用されなかったかも…
擬人化兵器確定を示す虹色の光が輝き、そして、青い魔法陣が床に広がる、そして、レイが姿を現した。以前と変わらず、黒い艶やかな髪、黒を基調としたチェックの短いスカート姿の高校の制服もどきの服をまとって。そして、
「あなたがレイのご主人様ね? あなたの為に戦ってあげるから感謝して這いつくばりなさい。そうね、先ずはご褒美にお仕置きをしてあげようかしら?」
「レ、レイ?」
レイの懐かしいドS口調。僕は思わずレイに寄って行った。
「レイ、良かった。本土に帰ったら、約束通り、デートしよう、ホントに良かった」
レイはコテリと首を傾げた。
「この糞豚野郎は何を言ってるのかしら? 私とデート? ちょっと死んでみてくれないかしら?」
「な、いきなり何を言ってるだ?」
レイは一体何を言ってるんだ? 本土に帰ったら、またデートしようって約束したのに?
「ねえ、レイ、お願いだから、真面目に僕の話を聞いてよ!」
「ごめんなさい。レイ、空気が読めなくて…でもやっぱりちょっと死んでみてくれない?」
「ちょっと、話がループしてるよ!」
「そうよ、何人たりとも私から逃れられないわよ!」
「それじゃ、悪魔かなんかみたいだよ!」
「いや、一回死んでみればいいだけなのよ?」
「死ぬのは一回やったら、駄目なヤツだから」
「一回犯ってしまったら、どうにでもいいようになるのに?」
「だから、最初で最後になるから駄目だから!」
「いや、よく、さきっちょだけ、さきっちょだけって言うじゃない?」
「言うけど、それ男が言うヤツ、女の子がそんな事言っちゃ駄目!?」
「何で、直ぐに終わるのに…」
「そりゃ直ぐ終わるよ。一巻の終わりだけど」
命が終わるよ。レイは少し暴力的になったらしい。でも、僕は違和感を覚えた。レイに、
「ねえ、レイ、僕の事わからないの?」
「当たり前でしょう? レイは召喚されたばかりなのよ。あなたの事知ってるわけないでしょう? だから、早く死んでしまいなさい」
「…レ、レイ」
僕はレイを茫然と見た。そして、キュウを見た。キュウは目に涙をためていて、目を逸らした。キュウは知ってたんだ。だから…
レイは僕との4年間の記憶を全て失っていた。
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