ミッドウェー海戦12
艦橋は閑散としていた。僕はようやく我に返った。僕はキュウ、ユキ、ユウに自室での待機命令を出した。程なくして何人かの下士官がやって来た。
「不知火中尉、しばらく拘束させて頂きます。艦長の命令です」
「わかった。僕は戦いの場で泣き出した弱虫だ。好きにしてくれ」
「失礼します」
下士官達は僕を手錠で拘束すると、僕を連れて行き、独房にいれた。僕は独りぼっちになったが、逆に助かった。とても軍人を演じる事なんてできない。僕は令和の人間だ。慣れたとは言え、この時代の軍人の価値観で行動だなんてできない。レイが死んだ事で僕をこの時代の軍人としてならしめていた何かが壊れた。だから僕の心は折れてしまった。僕は軍人なんかには向かない、唯の平和ボケの国の若者なんだ、本来は、
「僕はどうして、女の子の擬人化兵器の召喚士になんてなってしまったんだろうか?」
僕は呟いた。そして自分の思慮の浅さに嫌気がさした。例え戦争をしていないにしても…剣と魔法のファンタジーの世界だとしても…戦えば怪我もするし、死んでしまう事もある。自身は仕方無い。死のうが、大怪我しようが自身の判断の問題だ。女神様が僕にチートな能力をくれる。そう言った時、僕は単純に喜んだ。こんな事になるのだなんて考えてなかった。
「女神様が恨めしい…令和の時代にいれば、こんな思いをしなくてもいい筈だったのに」
レイだけじゃない。茅ヶ崎飛行隊長も死んでしまった。令和の時代でこんな事ある訳がない。人と人が殺し合うのだなんて…でも、僕はそんな世界にレイ達を巻き込んだ。召喚士の使い魔を美少女擬人化兵器にしてもらった。でも彼女らが僕のハーレム要員だなんて思わなかったんだ。彼女達は至って普通の女の子と変わらないんだ。
レイとのデートは楽しかった。でも、レイが死んでしまうのだなんて、考えた事もなかった。僕は何処か、この時代で戦争をしているという実感がなかった。戦争を知識として知っていても、実体験した訳じゃない。ホントの戦争は厳しいだけじゃなくて、ひたすら残酷だ。人が死んでしまうんだ。それも簡単に…
僕は初めて戦争が怖くなった。大好きな人が死ぬのも、自分が死ぬのも嫌だ。いや、そもそも他国の人間だからと言って、殺してしまうのも嫌だ。そんな想いに、僕はその夜は眠れなかった。あくる日、独房からだされて、艦長室に連行された。
「一晩頭を冷やして、我に返ったか?」
「いえ、何も変わりません。ただ、死が怖くなりました」
「当然だ。私も娘がいるが、君の使い魔と同年代でな…」
「艦長は僕を処分する為に呼んだのではないのですか?」
「先日の戦いでの君の功績は大きかった。其れなのに、そんな事をする訳がないだろう? そもそも君が一体何をしたと言うんだね?」
「…僕は艦橋で泣き出して、戦闘中だったのに、何もしないで」
「君の職務は魔法小隊の指揮だ。あの時の艦橋にも、この祥鳳にも君の役割は何もなかった」
「…しかし」
「君の名誉の為、艦橋にいた者は、君が泣いていた事は誰にも話さん。みんな君の気持ちは判る。私も君の使い魔と面識があれば、動揺しただろう。亡くなったのは君の恋人だったのだろう?」
「はい、レイと言います。戦争が終わったら、結婚しようと思ってました」
「私にも娘がいると言っただろう? 部下が娘で、目の前で戦死したら、私だって普通ではいられない。そもそも、君のおかれた状態が特殊なのだ」
「艦長、ありがとうございます。僕はレイも茅ヶ崎飛行隊長も守れなかったのに」
「君は勘違いしているよ。未来人、魔法使い、私達より強い力を持っていても、所詮人間だ。君の力は神と同等では無いという事だ。だから私達はお互い同じ人間として接する事ができる。君が一人で米軍を滅ぼす程の力を持っていたら、私達は米国と戦争なぞしないで、米国と共同で君との戦争をする事になっていたのかもしれん。神と同様の力を持った人間と対等に接する事なぞ考えつかん」
「今の僕は普通の人間ですか?」
「ああ、普通の人間だ。運命に翻弄される私達と同じ人間だ。私の同期もあの赤城や天城に乗っていた。本音を言うと苦しい。みんなそうだ。だけど、私達は男で軍人だ。だから平静を装える」
「泣き叫ぶ僕は普通なのでしょうか?」
「普通だろう。恋人が目の前で死んで、涙も浮かべない冷血感ではないのだ。女子が軍艦に乗り、想い人が部下となる。本来あり得ない話なのだ。普通なら異動が命じられただろう」
「そう言って頂くと、負い目がなくなります。正直、次に誰か僕の使い魔が死んでも、僕はやっぱり泣いてしまうと思います」
「…泣くだけならいい」
「どういう事ですか?」
「君が冷静さを失って、米軍に無茶な攻撃をして貴重な魔法兵や友軍を巻き込んだりしないかの方が心配だった」
「僕はそんな事はしません。何より、部下の命を危険にさらす事なんてしません」
「安心した。君が復讐という黒い霧に包まれて無茶をする男では無い事がわかって」
「たくさん。人が死にました。レイも茅ヶ崎飛行隊長も山口多門司令も…」
「ああ、戦争をしていて、私達は軍人だ。これからも死に直面する機会がある」
僕は早く降伏してしまった方がいいんじゃないかという言葉を飲み込んだ。それはこの時代では禁句だ。例え、藤沢艦長でも看過できないかもしれない。
「思う処はあるだろうが、今日は魔法小隊の慰安を行え、彼女らのおかげで蒼龍は助かった。私達の祥鳳も。二隻残ったから、たくさんの兵士を助ける事もできた。君には彼女らの慰安を行う事を命じる。今日は艦橋付きの仕事はしなくてもいい。その後は自室でゆっくり眠れ」
「あ、ありがとうございます」
僕は艦長のお礼を言って、キュウやユキ、ユウの部屋へ行って、みんなでレイとの思いでを話した。
日本軍損害
沈没
空母赤城、天城、飛龍、重巡洋艦三隈
損傷、重巡洋艦最上、駆逐艦荒潮
航空機損失232機
戦死者1902人
LOST 擬人化兵器 零式艦上戦闘機二一型
米国損害
沈没
空母ヨークタウン
駆逐艦ハムマン
損傷
空母ホーネット中破
航空機損失230機
戦死者452名
連載のモチベーションにつながるので、面白いと思って頂いたら、作品のページの下の方の☆の評価をお願いいたします。ぺこり (__)